第29話 立場逆転
「ここか……」
触手の伸びていた先には、何の変哲もない一軒の家があった。
触手は玄関のドアから、家の中にまで伸びているようだ。
カギが開いているので家主には申し訳ないが、家の中に入らせてもらう。
「この触手はいったいどこに向かって伸びてるんだ?」
触手に沿って家の中を進む。
「これは……?」
たどり着いた先は、キッチンだった。
キッチンの蛇口からは水が出しっぱなしになっていて、シンクに水が溜まっている。
そして、触手はその溜まった水の中に突っ込んでいた。
「もしかして、水を吸っているのか?」
触手はどんどん水を吸い上げているらしく、吸い上げた水がこぶのようになっている。
「何で水なんか……?」
まさか、水があの異常な回復力に関係しているのか?
いや、今はそう断定することはできない。
だが、こうしてミメシスが水を大量に吸い上げている以上、何らかの理由があるのは確かだ。
とは言っても、ただ単に蛇口を閉めただけじゃ意味がない。
蛇口を閉めても、地面の下には水道が通っている。
水道そのものを止めなければ、ミメシスはどこからでも水を得ることが可能だ。
しかし、水道を止めるなんて一体どうやってやれば……。
「……そうだ!」
「おーい、大丈夫かアロマ?」
アロマの頬をペチペチと叩く。
アロマはリッチーなので呼吸もしないし、体温という概念もないので常に死んでるように冷たい。
だから起きているかどうか確認することができない。
「うーん……、あれ?魔王さま?」
しかし、しばらくペシペシと叩き続けていると、アロマがまぶたを開けた。
アンデッドというのは便利なもので、上級にもなれば時間さえ立てば勝手に体が修復し、魔力が回復すればまた動けるようになる。
だから、絶対に目を覚ますはずだったが、正直心配していたのでホっとした。
「良かった、もう大丈夫みたいだな」
目を覚ましたアロマが起き上がる。
周りを見渡して今の状況を読もうとしているようだ。
「あの女は?」
「俺が今まいてるところだ」
今もミメシスは投影された偽の俺を追いかけ続けている。
俺はその様子を投影で見ながら、偽の俺を動かし続ける。
結構な気力を使うが、直接正面から対決するよりはマシだ。
「しかし、まさかお前が負けるなんてなぁ……」
「ごめんなさい……」
本当に驚いた。
アロマは聖属性以外のありとあらゆる魔法を使うことが可能で、正直純粋な魔法の力に関しては俺の仲間の中でピカイチだ。
そのアロマが勝てなかったとなると、純粋な力で戦うのは難しい相手ということになる。
「やっぱり、回復力が高かったのが敗因か?」
「ええ、どんなに魔法を撃っても、すぐに回復されるの。あれじゃあ、いくらやっても倒せないわよ……」
やはり、回復されるのを何とかしないと、倒すのは難しそうだな……。
どれだけ攻撃しても、それを圧倒的回復能力で上回られてしまえば何の意味もない。
だが、もしあの回復力に水を吸収することが関係あるのなら、今のミメシスは無力も同然だ。
「大丈夫だ。俺に考えがある。もしかすると、相手の回復力を下げることができるかもしれない」
「本当!? 一体どうやって!?」
「ああ、実はな…………」
※※※※※※※※
「よお、ミメシス! 調子はどうだ?」
俺が呼ぶと、ミメシスが鬼のような形相でこちらに振り返った。
随分長い時間、『投影』で作った俺の幻影を追いかけ続けたんだ。そりゃあキレるだろう。
額には青筋が出ていて、とてもじゃないが女性の顔には見えない。
「クソがぁァァ……、ずっとちょこまかと逃げ回りやがって……ッ。 いい加減にしやがれクソ野郎!」
もう言葉遣いも見る影もないほど荒々しくなっている。
というか、あれがアイツの本性なんじゃないか。もとはスライム、普通の女性の精神を持って生まれてくるとはあまり考えにくい。
「ハハハ、すまなかったな。けど、もう逃げないから安心しろ」
「……それはどういう意味だ?」
「私があなたを倒すからよ!」
俺の後ろからアロマが出てくる。
「倒すって、お嬢ちゃんがかい? アタシに勝てなかったお嬢ちゃんがねぇ……」
「問答無用よ! 『クリスタル・メイジ』!」
アロマがそう言うと、地面にたくさんの氷柱が現れた。
氷柱はミメシスの足元に到達し、どんどんミメシスの体を氷が覆っていく。
「ク……ッ、やっぱり魔法の威力はなかなかのものだね……!」
ミメシスの体の大部分が氷漬けになる。
体の半分以上が凍ってしまっては、普通は動けない。
だが、相手はスライム。
「ふん、こんなもの、切り離して回復すればいいだけだ」
ミメシスは氷漬けになった部分を切り離して、すぐに回復させて元の状態に戻した。
これでも駄目だと、正直もうどうしようもないが、まだあきらめない。
アロマは次の魔法の準備をすでに終えている。
「まだまだ! 『ジャッジメント』!」
目の前が一瞬真っ白になったかのように明るくなったかと思った次の瞬間、とんでもない轟音が耳を貫く。
ミメシスに雷が落ちたのだ。
「ギャアァァアアアアアアアッッ!!」
ミメシスが悲鳴を上げ、苦しむ声が聞こえてくる。
数秒後には、黒こげの人影がそこに立っていた。
だが、すぐに回復して元のミメシスの姿に戻ってしまう。
「まだまだ!」
アロマが魔法を撃って、ミメシスが受けたダメージを回復する。
これをしばらく繰り返し続け……。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
流石に強力な魔法の連発は応えたのか、アロマが息を切らせ始めた。
しかし、ミメシスはアロマのありとあらゆる魔法を正面から受け止め、その全てを圧倒的な回復力で無駄にしている。
「もう終わりなのかい? じゃあさっさと回復して……」
そう言うと、ミメシスは顔をしかめた。
「ど、どういうこと!? 水が吸収できない!」
その言葉を聞き、俺はニヤリと笑った。
「おや? 水がどうかしたのか?」
「ま、まさか……、あんたが何かしたのか!?」
「……フッフッフ、そうさ! お前はもう水を吸収できない! なぜなら、この町の水道は全てアロマが魔法で凍らせたからだ!」
「な、何だと……!?」
そう、俺が思いついた方法は、この町の水道そのものを凍らせてしまうことだった。
普通の威力の魔法では町一つ分の水道を凍らせるなんてほぼ不可能だが、アロマならそれくらいお茶の子さいさいだ。
これなら、氷が融けない限りミメシスは水を吸収できない。
「どうせ水を吸収することで、今まで回復してきたんだろ? だが、それももう終わりだ」
「そ、そんな……」
ミメシスが絶望の表情を浮かべる。
「さぁ、さっきまで散々俺を追い回していたけど、今度は立場が逆転したなぁ……。アロマ、まだ魔法撃てるよな?」
「もちろん、あの女が一撃で消滅するレベルのヤバいやつをあと100発は撃てるわ!」
「ヒッ!? い、嫌だ!」
ミメシスが逃げだした。
「さぁ、鬼ごっこの開始だ!」
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