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第22話 足りない

「あ、いたいた。おーいアロマ! こっちだこっち!」


 ルートから魔王軍幹部の討伐を頼まれた俺は、急いで外で待っていたアロマのとこへと向かった。


「あっ、魔王さま!」


 どうやらなにか飲み物を買っていたらしく、右手には紙コップが握られている。

 そのため、アロマは左手で俺に手を振った。

 アロマがこっちに駆け足で来る。


「一体なんの話をしていたの?」


「ああ、そうか。お前ずっと外で待ってたんだもんな」


 そりゃあ、俺たちが何を話していたのか分かるわけがない。


「実は、どうやら俺以外にも魔王がいるらしくてな。今まで勇者たちが俺たちの城に来ていたのは、俺をその魔王と勘違いしたからなんだと。だから、俺たちはあの勇者たちとは戦わなくていいってことだ」


「そうなの?」


「ああ! これで厄介ごとは一つなくなった」


「そう、それはよかったわね」


 そう、そこまではいいのだ。

 問題は別にある。


「実はさ、ルートに、その魔王の仲間である魔王軍幹部を倒してきてほしいって頼まれたんだよ」


「えっ、魔王さまはそれを受けることにしたの?」


「もちろんだ。仲間の頼みを断れるわけがないだろ」


「ということは、次はその魔王軍幹部ってやつの所に行くのね。じゃあ、テレポートでさっさと行くわよ!」


 アロマがそう言うと、突然俺たちの体は光に包まれた。

 アロマは色々とあれだが、結構理解が早くて助かることが多い。




 ※※※※※※※※




「ここが、ルートの言っていた町か……」


 テレポートによって、俺たちは無事に目的の町『ヴィンガル』に到着した。

 ヴィンガルは、王都から少し離れたところにある、町民が1000人ほどの小さな町だ。

 だが、王都に向かうための道の途中にある町なので、旅人はこの町をよく利用するらしい。

 ルートはこの町に魔王軍幹部が現れたと言っていたが、町は人で溢れかえり、とても賑やかで。

 とても魔王軍幹部が現れたようには見えないほど、穏やかだ。


「まぁ、あいつの言ってることが間違っているとも思えないしなぁ……」


「ねぇねぇ、魔王さま。とりあえず、町の人たちに聞いてみたらいいんじゃない?」


「そうだな。こういうのは地元の人に直接聞いたほうがよさそうだな」


 早速、そこら辺の人に聞いてみる。

 試しに店先にいた店員さんらしき人に聞く。



「すみません。この町に、魔王軍幹部が出たっていう話を聞いたんですけど、何かご存じないですか?」


「魔王軍幹部? ああ、あの巨大なスライムのことか」


「何か知っているんですか?」


「ああ、たしか2週間ぐらい前だったかな……? この町に突然そいつがやってきて、『この町のどこに勇者はいるんだ』って聞いてきたらしいんだ。それに対して、町長が『この町に勇者様はいらっしゃいません。こんな町に勇者なんか来ませんよ』て返したらしいんだが、それを聞いた幹部は特に何も言わずにそのまま帰っちまったっていう話だ」


 ……え?

 何も言わずに帰った?


「え、本当に何も言わずに帰ってしまったんですか?」


「ああ、なんか、『そうか』とかそんなことだけ言って帰ったとか……」


 いや、そんなわけないだろ。

 普通なら、『そうか勇者はいないのか! ならばこの町は侵略し放題だな!』とか言ってこの町をボロボロにすると思うんだけど……。


「わかりました、ありがとうございます」


「いやいや、ところで兄ちゃんはなんでそんなこと聞いてきたんだ?」


「あ、実は俺、勇者なんですよ」


「ゆ、勇者!?」


 そう、俺がわざわざしずくに若返りの薬を作ってもらったのには意味がある。

 なぜなら、若いと色々と役得だからだ。

 例えば、若い好青年と中年のヒゲの生えたおっさん。第一印象でいいと思うのはどちらだろうか。

 もちろん前者の方だろう。ただのおっさんよりも普通の青年のほうがみんな話しやすいのだ。

 だから、話しかけても普通に答えてくれる。


 だが、これが普通のおっさんだったらうまくいくかはわからない。

 それほど、第一印象、つまり見た目は大事だ。

 それに、今の俺の年齢なら勇者であっても何ら不思議なことではない。

 つまり、だれもが俺のことを勇者だと信じてくれるというわけだ。


「この町に魔王軍幹部が現れたという情報を手に入れましてね。この町の方々が心配で急いで来たんですよ」


 俺が勇者だとわかると、とたんにその人は態度を変えた。



「これは、まさか勇者様だとは! 失礼なことをしました、兄ちゃんと気安く呼ぶなどと!」


「いやいや、別にいいんですよ。それよりも、この町の方々が無事でよかったです」


 俺がそう言うと、その人はとてもうれしそうな顔をした。


「まさか、こんどの勇者様はこんなにお優しい人だなんて……! たった500人しかいないこの町のことをそこまで……!」


「いやいや。それと、俺が勇者だということは秘密にしてもらえますか?」


 俺はその人の耳元に口を近づけ、小さな声でしゃべった。


「な、なんでですか……?」


「いや、あなたが色々さわぐと俺が勇者だっていうことがみんなに分かっちゃうじゃないですか。そうしたら、みんな俺のところに集まってくると思うんですよ。俺、あんまり目立つの好きじゃないんで、秘密にしてもらえるとありがたいんです」


「わ、わかりました! 勇者様がそう言うのであれば、私は何も言いません!」


「ありがとうございます。それじゃ、俺はこれで」


 俺は有益なウソはつくタイプだ。

 魔王軍幹部についての話は聞けた。

 しかし、肝心の『相手がどんなやつか』という情報は得られそうにない。

 なんてったって、すぐに帰ったらしいからな。

 誰に聞いても、同じようなことを言うだろう。


「困ったな……、いったん帰って作戦を練ったほうがいいか?」


 俺がそう言ったとき。



「もし、そこのお方」


 急にそんな声が聞こえてきた。

 声のしたほうを振り向くと……。


「もし、そこのお若いお方」


 そこには、ローブをかぶった女性がいた。

 女性は椅子に座っているようで、目の前の机には水晶玉のようなものが置かれている。

 占い師か何かだろうか?


「若いお方とは、俺のことですか?」


 その女性に問いかける。


「はい、あなた様のことでございます」


「俺に何か用でも?」


「実は私、占いが得意でございまして、あなた様がとても困ったような表情をされていたので、何か力になれないかと」


 なるほど、俺の表情を読んで客にピッタリだと睨んだってわけか。


「ええ、たしかに困っているところでした」


「それは、私がお役に立てることでしょうか?」


「ええ、ぜひとも占ってほしいことがあるんです」


 俺は机の前に用意してある椅子に座り、女性と向き合った。

 早速、本題に入る。



「実は、最近この町に現れたという魔王軍幹部について調べているんです」


「へぇ、それはまたどういった理由で……、というのも野暮でございますね、勇者さま」


「あ、あはは……聞こえてましたか」


「はい、先ほどの男性との会話がしっかりと。その魔王軍幹部の何について占えばよろしいですか?」


「全部です! 占えること全部占ってほしいんです!」


 すると、女性は少し驚いたようだった。


「これはまた、かなり強欲な勇者さまですね」


「お願いします、分かることだけでいいんです」


「……わかりました。それでは……」


 そう言うと、占い師さんは水晶玉に手をかざした。

 すると、水晶玉が青白く光り始める。

 が、しばらくすると、その光は消えてしまった。



「……はい。占いは終わりました」


「で、どのような結果が?」


「はい、その魔王軍幹部は近いうちにまたこの町にやってくると出ております」


「近いうちにまたですか! そ、その近いうちにというのは、どれくらいの期間ですか?」


「1、2週間ほどでしょうか」


 たったの1、2週間か。

 それまでには、戦う準備をしておこう。


「それ以外にはなにかありますか?」


「いえ、それが、占いで出た結果がこれしかなくて……」


「そ、そうですか……」


 いや、その魔王軍幹部の動きを知れただけでもよかった。

 すると、占い師さんがこんなことを言ってきた。


「そこでですね、あなた様のことについても占ってみたんですが、聞きたいですか?」


「え? 俺についてですか?」


「はい」


「じ、じゃあ、一応聞いておきます」



「ありがとうございます。まずは、あなた様の占いの結果なんですが……。最近、嘘をついたりしていませんか?」


「え? 何ですか急に?」


「嘘を重ねていくことで、近い未来に後悔があなたの身に訪れると出ていますので」


「なるほど、嘘をついて後悔ですか……」


 嘘ならついさっき言いましたね。

 それで後悔することになる?

 ま、まぁ……、これからは少し気を付けよう。


「あと、何か探し物をするときは、自分の一番近いところから探すほうが良いと出ています」


 なるほど、探し物ね。

 今度、何か失くしたときは近くの場所にあるかもしれないってことか。


「ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 俺は急いでアロマの元へ向かおうとイスから立ち上がった。

 テレポートで戻って、ルートに占いのことを言うためだ。


「あの、勇者さま! お代を……!」


「え? ああ、そうでしたね。 お代を払っていませんでした。」


 俺は財布から5000ゴールドほど取り出して占い師さんに渡した。


「え? あの、これ……!」


「おつりは結構です! それじゃ、俺急ぐので!」


 俺はアロマのところにダッシュで向かった。


「違うんです! おつりじゃなくて、足りないんです!」


 彼女の机に立てかけてある板には、『1回6000ゴールド』の文字が。

 だが、彼女の声はもう彼には聞こえていなかった。 

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