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引退した“元”勇者は、戦いたくない ~2度目の冒険を幸せに終わらせるために~  作者: 水谷 輝人
第1章 俺、気がついたらなぜか魔王になってました
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第17話 絶対におかしい魔道具専門店

 次の日、朝になって宿を出た俺たちは適当に街の中をぶらついていた。


「しかし、あんまり気軽に遊べるような店が見当たらないなぁ……」


 街の中をぶらついていても、特に時間をつぶせそうな場所がない。


「なぁ、アロマはどっか行きたいところはあるのか?」


「え? うーん、そうね……」


 アロマが腕を組んで考え込む。


「商店街はどうかしら? きっと面白いお店があるわよ!」


「商店街か……、よしそうしよう」


 俺たちは商店街に向かうことにした。




※※※※※※※※




 商店街は大勢の人々でにぎわっていた。


『安いよ安いよ! 今日は新鮮な魚が安いよ!』


『ポーション、旅に欠かせない役に立つポーションはいりませんかー?』


『お客さん、かわいい女の子いますよ! いかがっスか?』


 さすが王都、人の数は尋常じゃない。


「さて、どこから見ようか?」


「お店が多いからどれがいいのか全然分からないわ」


「まぁ、お前王都に来たのは初めてだろ?そりゃ当たり前だって。俺だって、20年前にここに来たけど完全に街並みも変わってて、どこがどこだかわかんねぇくらいだぞ?」


「そうね、さすがに20年も経ってたらね」


「ま、とりあえず色々見ながら回ろうぜ」


「ええ、そうしましょう!」


 歩きながら、店を一つ一つ見て回る。

 魚屋や八百屋のような食料品を売る店、様々な食べ物を売る飲食店、バッグや服など一般人向けのものを売る店、剣や盾などの武具やポーションなどの冒険者向けのものを売る店など、様々な店があった。

 そのなかで、俺がふと目に留まった店があった


「魔道具専門店? へぇ、珍しいな」


 魔道具専門店というのは、文字通り魔道具を専門に取り扱っている店だ。

 魔道具というのは日常的に使うために作られているものは少なく、冒険者が特定の相手の対策になるものを買いに来る以外はあまりお客さんが来ないため、経営が難しい。

 例えば、聖水とか魔法の罠とか。

 しかし、そこはやはり王都。珍しい魔道具専門店ももちろんあるわけか。


「本当に何でもあるんだな……」


 俺は扉を開けて、中に入ろうとした。


「魔王さま、魔道具専門店に入るの?」


「ん?ああ、珍しいからな。アロマも一緒に入るか?」


「ううん、遠慮しておくわ。いま面白いところなの」


 アロマは、大道芸を見ていた。


「ああ、大道芸か。そういや、お前見たことなかったんだっけ」


「ええ、こんなに面白いものだったのね!」


 すると、大道芸人が火を吹いた。

 観客から歓声が上がる。


「本当にすごいわね! 大道芸人って『ファイアーブレス』が使えるのね!」


「いや、あれはファイアーブレスじゃなくて、アルコールを口から噴き出してそれを引火させてるだけだぞ」


 すると、アロマはとても驚いたような表情をした。


「ま、まあ? 別に知ってたけど?」


 うん、この反応は知らなかったやつだね。


「別に知ってようと知らなかろうとどっちでも同じだろ。俺は店に入っとくから何かあったら言ってくれ」


「わ、わかったわ!」


 俺は店の中に入った。



「いらっしゃいませ!」


 店の中には店主と思われる男がいた。

 客は俺以外にはいないようだ。

 俺にはむしろそっちの方が良い。店の中を静かに物色できるからな。

 店の中を見回すと、様々な商品が棚に並べられていた。


「なぁ、店主さん。この店でオススメの商品ってあるか?」


「よくぞ聞いてくれました!」


 店主はカウンターから立ち上がると、ものすごい速さで俺に近づいてきた。

 あまりの速さに驚いて、思わず後ずさりしてしまったぐらいだ。


「ええ、お教えしますとも! 3か月と14日と10時間19分ぶりのお客様!」


 ……なんかだいぶやばいセリフを聞いてしまった気がするが、それも仕方ないだろう。

 ここに来るのは、ほとんどが冒険者、それも凄腕の冒険者がほとんどだろう。

 ただでさえ訪れる客が少ないのが、魔道具専門店だ。


「あ、ああ……、じゃあ教えてくれるか?」


「はい! では、こちらの商品なんていかがでしょうか!?」


 そう言うと、店主は黄色い液体が入った小瓶を渡してきた。


「これは……?」


「はい!オーソドックスな聖水です!アンデッド系モンスターにばっちりと効きます!」


これが聖水?


「聖水って透明なものだろ? なんで黄色いんだよ、これ?」


「はい、その聖水の唯一の欠点が、色がついていることと独特のにおいがすることなんです」


「は?」


 独特のにおいがする黄色い液体……。

 なるほど、確かに『聖水』だ。


「いや、いらない……」


 さすがに人体から出るレモンティーを買うほど、俺は変態じゃない。


「そうですか……、ではこちらはいかがですか!?」


 そう言うと、こんどは一枚のハンカチを渡してきた。


「こんどはなんだ?」


「はい! なんと、そのハンカチを使えば誰でも簡単にマジックができるという驚きの魔道具なんです!」


 これはまたなんとも胡散臭い。

 そもそも、マジックというのはまるで魔法を使っているかのように見せるもので、最初から魔法でできた道具を使っちゃいけないだろ。


「試しに、そのハンカチで何かを包んでみてください」


 そう言われたので、俺はポケットから一枚の金貨を取り出し、ハンカチで包んだ。


「次に、ハンカチで包んだものをハンカチ越しに指で3回叩いてください」


 言われた通りに、金貨を指で3回叩く。

 すると、急にハンカチが軽くなった。


「それでは、ハンカチを開いてみてください」


 ハンカチを開くと、どこにも金貨はなかった。


「おお、こりゃすごい! ただ包んだだけなのに一瞬で金貨が消えたぞ」


「はい! それがこのハンカチのすごいところなんです!」


「へぇー……、ちなみに、俺の金貨はどこに行ったんだ?」


「消えました」


「いやいや、マジックの話じゃなくて、どこに隠してあるんだって聞いてるんだよ」


「いえ、どこにも隠していません。そのハンカチ自体に転移魔法がかけてあって、3回叩くと中のものは異空間に転送されてしまうんです」


 ……………………は?


「えっ、じゃあ俺の金貨はもう……」


「はい、戻ってきません」


「……いやっ、ちょっ、ふざけんなよ! 本当に消えるんならなんで俺の物でマジックやらせたんだよ!? 何にも買ってないのに金貨一枚失ったんだけど!?」


「大丈夫ですよお客様。先ほどの金貨は、ドブに落としてしまったとでも思って忘れましょう」


「そうだな、忘れようとはならねぇだろ! ふざけんなよ、どうするつもりだ! 俺の金貨返せ!」


「申し訳ありませんお客様、私も今非常に財政的に追い詰められている状況でして……、お金としてそのままお返しすることはできません。代わりといってはなんですが、先ほどの聖水を金貨一枚分お渡しするということでここは何とか……」


「なるわけねぇだろ! っていうかさっきいらないって言っただろ!」


 なんなんだ、この店は。

 王都にある魔道具専門店なんだから、もっとまともな店かと思ったのに、全然まともじゃねぇ……。


「はぁ……、他にはないのか? 特に、欠点のない魔道具が欲しいんだが」


 欠点がなければ少しはまともな魔道具が出てくるだろう。


「あっはい! では、こちらはどうでしょう」


 そう言うと、店主は壺を渡してきた。


「こんどは大丈夫な奴なんだろうな?」


「はい、もちろんです! この壺はズバリ『幸せになれる壺』! 飾っておくだけで人生がもっと豊かになるという優れものです! 欠点なんてございません!」


 なんだろう、この妙な胡散臭さは。


「ふーん、どうしてこの壺で幸せになれるんだ?」


「それはですね、この壺はとある壺づくりの名人が10年かけて土や水を厳選し、焼き方にもこだわり、彩色に至るまでにありとあらゆる工夫を凝らして出来上がった作品だからです!こ の壺を買った人は、ダイエットに成功したり、子宝に恵まれたりと運がよくなることがとても多いんです!」


 どうしてかな、胡散臭すぎて鼻をつまみたくなってきたよ。


「……ちなみに、おいくら?」


「はい、通常価格50万ゴールドのところを、今回限定で10万ゴールドでお買い求めいただけます!」


 やべぇ、くせぇ、臭すぎる。

 いくらなんでもおかしいだろ。持ってるだけで幸せになれる壺があるんだったら皆買うだろ。

 っていうか、そもそもこの壺を持っているはずの店長自身が経営しているこの店は全く繁盛していないじゃねぇか。

 つまり、この壺は偽物だ。


「……もういいよ、帰らせてもらう」


「えっ、いや、ちょっと待ってくださいお客さん!」


 すると、店主が俺の足にしがみついてきた。


「おい、やめろッ! 離せ!」


「待ってくださいお客様! 私、もう5日くらい道端の草しか食べてないんです! このままじゃ家賃も払えないんです! せめて聖水だけでも買っていってください!」


「やめろ! 聖水だけは買わねぇからな!」


「そこをなんとか!」


 店主を振り払おうとするが、なかなか離れてくれない。

 引きはがそうとするうちに体が壁にぶつかり、棚から商品が落ちてしまう。


「ああッ、商品がッ!?」


 店主が急いでそれを拾い、棚に戻す。

 気が付くと、俺の足元にも黒い輪っかのようなものが転がっていた。


「なんだこれ?」


 俺はそれを拾い上げた。


「ん? おや、そういえばそんな商品もありましたね」


「これどういう魔道具なんだ?」


「はい、それは『絶対服従の首輪』といいまして、それをつけると、その首輪の持ち主の言うことに逆らえなくなるんです」


「なにその破格の能力!?」


「しかし、その効果を発動するのにはとても難しい条件をクリアする必要がありまして……」


「その条件っていったい何なんだ?」


「いえ、その条件はその首輪の持ち主にしかわかりません。その条件をクリアしたときに、初めて首輪がアンロックされ、相手に着けることができます」


「へぇ……」


 つまり、その条件さえクリアすればどんな相手でも言いなりになるってことか!

 とてもいい魔道具じゃないか!


「よし、これを買おう!」


「えっ、えっ!? ほ、本当ですか!?」


「ああ、もちろんさ!」


「ああ、ありがとうございます!」



 首輪を買い、俺は店を出た。

 店の前ではまだ大道芸が行われている。

 もちろん、アロマは大道芸に夢中だった。


「おーい、アロマ! そろそろ行くぞ!」


「えー、もうちょっとで輪っか同士が繋がるところが見れたのに……」


そして、俺たちはまたぶらぶらと歩き始めた。

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