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引退した“元”勇者は、戦いたくない ~2度目の冒険を幸せに終わらせるために~  作者: 水谷 輝人
第1章 俺、気がついたらなぜか魔王になってました
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第1話 俺、気がついたらなぜか魔王になってました

はじめに

この作品を読んでくださり、ありがとうございます。

皆さまに読んでもらえることで、私のモチベーションにつながるため、本当にありがたいと思っています。

この場を借りて、皆様に深く感謝を申し上げます。

それでは、前置きはこれくらいにして、私の作品をぜひ楽しんでいってください。

 やぁ、皆さんはじめまして。


 俺の名前は『フォート・アレイス』。現在40歳だ。

 こんな名前をしているが、実は異世界から転生してきた身だ。記憶はもうほとんど残ってないが、前世ではたしか、『日本』という国に住んでいたと思う。

 なにせ、この世界に生まれてもう40年だ。

 小さいころの、前世の記憶なんかほぼほぼ忘れてしまう。

 ま、それで困らないから、別にいいが。


「さーて、今日も制作に取り掛かるとするか」


 ここ20年、俺には寝る間を惜しむほど必死になって取り組んでいることがある。

 それは、淫魔、つまり“サキュバス”を生み出すことだ。


 なぜそんなことに20年もの月日をついやしてるのかって?

 それじゃあ、まずは俺の今までのこと、人生について語るとしようか。

 前世と幼少期のものは、あまり記憶には残ってないが、残っているものだけ話そう。




 ※※※※※※※※


 そう、あれは日本でのある日のことだった。


 俺が道を歩いていると、目の前にある横断歩道を、きれいな女性が歩いている姿が見えた。

 何でもない、当たり前の風景。だがその日はいつもとは違い、遠くからトラックが猛スピードで走ってくるのが見えた。

 トラックの先には、さっきの女性が。


『あ、危ないッ!』


 そう思った俺は、とっさにその女性を突き飛ばし、女性のかわりに自分がそのトラックにはねられた。

 確かに感じた、鈍い痛み。

 ほんの一瞬だったが、あのとき確かに“死”を感じた。


『あぁ……、俺死んだのか……』


 ―――――しかし、落ち着いてくると、不思議なことに体に痛みを全く感じない。

 “体”というのも、自分は死んだはずなんだから感覚はもうないはずなのに、体に風が当たるのをなぜか感じているのだ。


『なんだ? 一体何が起こってるんだ?』


 “体”が動かせることに気が付いた俺は、まぶたも動かせるかどうか確認した。

 確かに、ピクピクと動かせるのを感じる。幸いなことに、まぶたは開けられるようだった。

 今の自分の状況を不思議に思った俺は、眼をおそるおそる開いてみた。



 次の瞬間、目の前には見知らぬ男性の顔があった。


「おお、目を開けたぞ! アレイス、パパだぞ! おーいママ、早くこっちに!」


 ……アレイス? パパ?

 一体何を言ってるんだこの人は?


「あら本当だわ! アレイス、ママでチュよ~!」


 今度は面識のない女性に、再び“アレイス”と呼ばれた。

 もちろん、俺は“アレイス”なんて名前じゃない。ちゃんと『■■■■■』っていう名前がある。


(おかしい、なんだコレは? 夢でも見てるのか?)


 俺は、まず自分の体が一体どうなったのかを確認しようとした。

 あの記憶が正しければ、俺の体はボロボロになってるか、手術を受けて一命をとりとめた後の包帯を巻かれた状態のどちらかになってるはずだ。


(俺は確かにトラックに轢かれて――――――)


 俺は確かに覚えていた。

 時速60キロのトラックにぶつかった自分の体が潰され、骨が折れて内臓に突き刺さったあの痛み。

 急な衝撃による脳が揺れるような感覚。

 急には止まることのできないトラックの車輪に、自分の体が潰れていく、言葉では表せない苦しみ。

 だが自分の体を見てみると……。


(な、何だ……コレ……!?)


 俺の体は、潰れてなんか、いや流血すらしていなかった。“そこ”は良かった。

 だが、なぜか俺の体は縮んでしまっていた。

 正確に言うと、首があまり動かせないので手までしか見えなかったが、俺の手は生後1年にも満たない子供のものと変わらないぐらいにまで小さくなっていた。



 初めはこの不思議な状況を理解できなかった。

 しかし、数日経つと、だんだんと自分の状況が分かるようになった。


 まず、“確かに俺はあのトラックにはねられて死んだ”、ということ。

 そして、なぜか赤ちゃんとして生まれ変わったということ。

 俺は全くの別人として新しい生命をもらったのだ。

 これは、周りにいた人から聞いた話で分かったことだ。

 何故なら、周りの大人たちの口から出てくる単語や地名が、おおよそ元の自分がいた世界で常用される言葉ではなかったからだ。



 さらには、周りの人の話から、俺が世界で数十人しかいない『ギフト』持ちだということも分かった。

 『ギフト』とは、神に与えられた異能のことを指すらしい。

 そう、俺が生まれた世界は、モンスターがはびこる“ゲーム”のような世界だった。

 ……正直、信じがたかったが、離乳食で牛でも山羊でもない、謎の人型の生命体から搾り取った乳で作った食事を出されたときは、泣きそうになった。

 信じざるを得なかった。

 意外に美味かったのが、余計に腹が立つ。



 この世界の人々は様々な魔法や武器を使い、魔物を倒してこの世界を守っている。

 その魔物たちの元締めが“魔王”だ。

 生まれ変わった俺は、他のギフト持ちの人と協力して、世界の悪“魔王”を倒さなくてはいけないという運命を背負うことになった。

 正直馬鹿らしいと思ったが、あの謎の生命体然り、本当にいる可能性の方が高く、住んでいる村の人々が手から炎を出して料理している様子などを何度も見たので、信憑性は大いにあった。



 『ギフト』を持っている人は、強大な力のかわりに何かしらの呪いを持っている。

 俺のギフトは『魔物(モンスター)創成』、自分の考えたモンスターを創る能力。そして、代償として俺が受けた呪いは『人と性行為ができない』というものだった。

 俺は最初、『こんなの呪いって言えるものなのか? 楽勝すぎるだろ、ようはセッ◯スを我慢すればいいだけだし』という程度に思っていた。



 俺は魔王に勝つために強い魔物を生み出そうとした。

 日本にいたころに聞いたことのある強そうな魔物はとりあえずなんでも試した。

 幸い、色々ゲームはやっていたので、人並みに知識はあった。

 まぁ、自力で生み出すのは苦労したが。


 そして、18歳でついに魔王を打ち倒し、世界は平和になった。

 だがしかし、俺はこのとき、“呪い”の存在を軽視していた。

 20歳になると、この呪いの恐ろしさを知ることになった。



 そう、どんな人ともセッ◯スができないのだ。相手が、共に戦ってきた仲のいい仲間の女の子でも、娼婦でも、奴隷でも、たとえ男でもだ。

 俺には、心に決めた伴侶がいたが、22年前の魔王との戦いで死別してしまった。

 彼女を裏切りたくはないが、俺を育ててくれた両親のためにも子供は欲しかった。

 だから、俺は何としてでもセッ○スをしようと試みた。

 もちろん、性欲が有り余っていたからというのも一つの理由なのだが。

 だけど、この呪いの“人”の範囲がとても広く、“人”関連ならどんな生き物、いや生き物じゃなかろうとセッ◯スができなかった。



 獣人はもちろん、魔人もダメ。

 エルフやドワーフやオークも『メタヒューマン』と呼ばれる遺伝子変異で生まれた、人間と近い生き物なのでダメ。

 リザードマンも『竜人』だからダメ。

 俺が生み出した女性のリッチーがいたが、リッチーも、というかアンデッド全部が『死人』だからだめだった。

 なんとか人型の生き物で童貞を捨てようとしたが、さすがに子鬼ゴブリンとかで童貞を捨てる気にはなれなかった。

 最終的に、女性そっくりの見た目の人形、いわゆる“ダッチワイフ”と呼ばれるものを作って疑似的にセッ〇スしようとしたが、ダッチワイフは“人”形なのでそれすらもできなかった。


 窮地に追い詰められたそのとき、俺は思いついた。


『……人に分類されていない人型のモンスターを創ればいいんじゃないのか?』


 俺はひたすら考えた。人型の女性の見た目をしたモンスターを。

 ラミアやマーメイドはダメだ。『蛇人』、『人魚』と人が種族名に付いてしまっている。


 そこで、俺は『サキュバス』を思いついた。

 『サキュバス』は人間の女性の形をした悪魔で、この世界では数百年前に絶滅したとされている。漢字で書くと、『淫魔』となる。

 そう、サキュバスは『淫魔』なのだ。

 なんど見返しても、どこにも“人”の文字が入っていない。


 そして、このとき俺の目標が決まった。


『よし、サキュバスを作ろう!』




 ※※※※※※※※




 こうして、今に至るわけだが、思ったよりサキュバスを創ることに難航してしまい、いまだに作ることに成功していない。


「ああ、もう、また失敗かよ! う……おええええええ!」


 俺は今、魔王が住んでいた城に住んでいる。

 多くの魔物の失敗作を生み出すことが予想されたため、広い場所が必要だったからだ。


 俺のギフト『魔物創成』は、いくつかキーワードを入れると、魔力を消費してそのキーワードに適した魔物を自動で生み出す能力だ。例えば『小さい ぷにぷに 青い』等と入れると“スライム”ができる。

 だが、今まで色々なキーワードを入れても、一度もサキュバスを生み出せたことはない。

 今も『悪魔 人型 性別あり 生殖可能 おっπ』などのキーワードを入れたが、胸がでかいインキュバスができてしまった。


 インキュバスは、サキュバスの男バージョン。ようは、男の淫魔だ。

 だから、服もかなりきわどい服を着ている。

 そんな格好で胸だけ女性とか言われたら吐くに決まってるよね。


 残念なのが、キーワードで『男』か『女』を入れることができないというルールがこのタレントにあることだ。

 『女』と入れれば一発でサキュバスを生み出せると思うんだが……。



「アトラス……」


「お呼びでしょうか」


「このインキュバスも適当にどうにかしといて……見てるだけでガチで気持ち悪くなる」


「かしこまりました」


 彼はアトラス、俺が打倒魔王に励んでいたときに生み出したデュラハンだ。


 俺が生み出した失敗作たちは、昔生み出したモンスターたちに任せている。

 どんなふうにしているのかは知らないが。適当に逃してるかもしれないし、普通にこの城にかくまっているかもしれない。

 まあ、俺はこの開発専用部屋から20年外に出てないから、どうなってるのかは全く知らんが。


「クソッ、次こそは……」


 今は8月の半ば、まだまだ夏の暑さが続いている。

 開発専用部屋には、一応魔力で動く簡易エアコンが設置してあるが、魔力を消費し続けると、体がオーバーヒートしてくる。

 魔物を生み出せば生み出すほど、体が熱くなってだるくなるのは本当に勘弁してほしいが、背に腹は代えられない。

 今日こそサキュバスをうみだしてやるぞ――――!




 ※※※※※※※※




「ハア……ッ、ハア……ッ」


 や……やっとだ……。


「ついにできたぞおおおおおおおおおおお!!」


 俺の目の前には、扇情的な格好をした黒い羽の生えた女性が立っていた。

 そう、ついに、()()()サキュバスを生み出すことに成功したのだ!


「これで……やっと、ヤレる!」


 覚悟を決めて、立ち上がる。

 俺はサキュバスに向かって言い放った。



「俺とS◯Xしよう!」


「別にいいですが、マスターは死にたいのですか?」


 サキュバスはOKしたが、かわりに意味不明な質問を返してきた。


「は? 死ぬ?」


「はい、私の能力は『オール・ドレイン』。私と性的な干渉をした人から生命力、魔力、経験値などを全て吸い取る能力です。私と繁殖行為をしたら生命力を全部吸われて死にますが、それでもいいならどうぞ」


「…………マジで言ってんの?」


「はい、マジです」


 え? どうすんのこれ、俺、セッ○スできないってこと?

 い、いやいやいや、まだ分からないぞ。

 ワンチャン、ワンチャン俺が死なない可能性も――――

 サキュバスの衝撃発言に俺が戸惑っていると。


「魔王さまあああああッ!!」


 突然、部屋の外からアトラスの声が聞こえてきた。

 それとほぼ同時に、ひどく焦った様子のアトラスが部屋に駆け込んでくる。


「急にどうしたお前? 魔王って誰だよ」


「あなた様以外におられますか!? それより大変です、この城に勇者が迫ってきております!」


「は? そりゃまたなんで」


「魔王さまを倒しに来たのです!」


「え? 俺を?」


『魔王出てこーい!』


 遠くからそんな声が聞こえてきた。

 魔王はもう20年以上前に俺が倒したはずだ。

 だから、俺が魔王と勘違いされるなんてことは普通ありえないと思うが。


「え? ガチでどういうこと? ……まぁ、とりあえず『投影』!」


 困惑しながらも、俺は技能(スキル)『投影』を発動させた。

 このスキルは、自分の任意の場所にスクリーンのようなものを出して、テレビ通話のようなことができるものだ。

 早速、スクリーンを魔王城の前に出してみた。




「……えーと、お前が『勇者』?」


『そうだ! 俺が勇者だ! 貴様が魔王か!』


 投影されたスクリーンには、確かに勇者らしき男と大量の兵士たちの姿が写っていた。

 面倒だな、こりゃあ本当に勘違いされてる可能性が高いぞ。

 適当に言って帰ってもらおう。


「えーと、多分人違いです。お引き取りください」


『とぼけるな! 最近、街や村で出現するモンスターたちの住処がここであることは、すでに突き止めているんだぞ! 多くの人々を殺しおって……許せん!』


 ……はい?

 モンスターが人を殺す?


「あの、本当に人違いじゃないんですか? 確かに私は魔物を多く生み出しましたけど、人を襲うようにはしてないはずなんですが……」


『嘘をつくな! すでに国が1つ滅んでいるのにまだしらばっくれるつもりか!』


 おかしい。俺はモンスターに『人を襲え』とかいう命令はしていない。

 可能性があるとしたら……。


「アトラス、俺が作った魔物の失敗作っていつもどうしてんの?」


「はい、まず様々な技術、スキルを教えて、『自分の食料は自分で確保してこい』と命令しています」


「うんうん、それで?」


「ほとんどの者が『どこに行けば食料があるのか?』と言うので、『そこら辺の街へ行けばどこにでもある』と伝えました」


「うん、お前何してんの?」


「はい? いえ、私は『食料品がどの街でも売っている』という意味で伝えたのですが」


 ……完全にこいつのせいじゃん。

 たぶん、『そこら辺の街のどこにでもある』って言葉から、『食料』=『人間』って意味で捉えて、人を襲いまくったってことじゃないの?

 ……いや、コイツに投げやりにしてた俺も悪いけどさ。



「いやこれどうすんの、勇者とか絶対強いでしょ。兵士も尋常じゃないくらいいるよ」


『早く入り口まで来い! さもないと、我々の方から攻めるぞ!』


「いやいやいや、待ってください!」


『待ってほしいならさっさと来い!』


 いや行ったら殺される展開じゃん、これ。

 そんなところにわざわざ――――――



「行くわけないやん」


『……貴様、やはり来ないつもりだな!』


 しまった、つい心の声が!


『ええい、もう我慢できん! 全兵突撃!』


『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』』』


「あ、ちょっと待……ッ!」


 俺の静止の声もむなしく、勇者たちは城に乗り込んできた。

 そして、10秒後には……。



『ぐああああああッ!!』


『ぎゃああああああああああッ!!』


『だれかあああああッ助けてええええええええええええッ!!』


 血祭りにあげられていた。

 勇者たちのほうが。


「…………あれ?」


 あまりの光景にあっけにとられる俺。

 俺の目の前のスクリーンには、大量の血しぶきが上がっている様子が映し出されている。


『やめろ……やめろおおおおおおおッ!!』


『来るなあああああああああああああああッ!!』


 そんな、兵士たちの阿鼻叫喚(あびきょうかん)が聞こえてくる。

 あまりの状況に理解が追い付かない。


「そうだよ、勇者は? さっきの勇者はどこだ?」


 早く彼の誤解を解かないと。

 勇者の姿を探すと、少し離れたところにすでに死体となった勇者の姿があった。


「ええ……?」



 そして、わずか3分で、兵士たちはほぼ全滅し、残った兵士たちが城から泣きながら逃げていった。


「……何……これ?」


 こうして、俺の楽しい(?)魔王ライフが始まった。

この作品にぜひ、感想や評価をつけてくださると嬉しいです。この作品以外も書いてるのでよければそちらの方も読んでください。意見がございましたらなんでも言ってください。辛辣なコメントでも構いません。

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