表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/100

99.Smile

 まぁ、結局、俺がこの戦争を通して学んだことは、命の価値って奴だ。

 人間は簡単に死ぬ。驚くほどに、あっさりと。どれだけ偉大な功績を残しても、死から逃れることはできない。だが、生きてさえいれば多くを成しえる。何を成しえるか? 何を成しえたいのか? それは、自分で決められる。

 なら、命ってのは価値がある。そう思うのは自由で、俺はこの戦いで、それを掴み取ったんだ。


 神が死に、戦争が終結してから一年が経った。

 その間、俺は身体の回復に努めた。ULが枯渇した身体は、再びULを生成するまでに時間が必要だったらしい。今ではすっかり超人に元通りだが、空からダイブしてから数か月の間は、重たい身体を引きずりながらなんとか生活できるレベルだった。多くの人に助けてもらった。

 俺はグレートウォールの英雄として兵士に復帰した。島にキメラは残っていないが、危険な猛獣は幾らでもいる。今後は、街の防衛や領土の拡張などに必要な存在として、人々と共に生きていくつもりだ。

 その、復帰の前日。俺はしろと共に密林を歩いていた。


「多分、この辺じゃないですか?」


 しろが両腕を広げる。


「ああ、そうだな。なんとなく、そんな気がする」


 周囲を見渡す。ただの密林の一角。俺達以外には何の価値もない場所。だが、俺達にとっては始まりの場所。俺としろが、この島で最初に目覚めた場所だ。


「君と一緒にスタートしたのは、俺の最大の幸運だ」

「嘘つき。本当に思ってます?」

「心外だな。本当だよ」


 しろはその場に膝を折って縮こまる。落ち葉が重なる地面を撫で、微笑む。


「私は、何にもできなかった。話すことすら、できなかった。それに……そう、裸足だった。あの時は、靴をありがとう」


 しろは頭を軽く下げる。俺は「なんだそりゃ」と笑い返した。

 俺はしろの隣で、しろと同じ体勢をとる。


「あの時、俺が動けたのは格好つけたかったからだ」

「ん?」

「頭の中は大パニック。何が何だかわからない。でも、君がいた。君の前であたふたしたくなかった。だって、そんな男、格好悪いだろ? だから冷静を演じた。すると、本当に気が落ち着いた。まぁ、死体に出くわして限界を迎えたけどな」

「……あれは、仕方ないですよ。初めてだったんでしょう?」

「まぁな。俺もそう思う」

「でしょ」

「で、熊に出会った」

「あれには驚きましたね」

「で、俺は君を抱えた」

「あはは」


 しろは笑った。心が温まる笑い声だ。


「重かったでしょう。私」

「いや、軽くてびっくりしたのを覚えてる」

「またまた。本当ですか?」

「どうだろうな」

「ひどい」

「本当いうと、君を抱えること事態が申し訳なくてな。それ以外、考えてなかった」

「申し訳ない?」

「だって、そうだろう。初対面の女の子を、いきなり抱えるなんて」

「あはは。成る程。秋也さんらしいです」


 しろは笑うと、俺を軽く押した。突然のことで、俺は情けなく転がって、仰向けになる。


「何すんだ」

「申し訳ないのは、私の方ですよ」


 しろも同じようにして転がった。二人で空を見上げる。妙な状況だな。


「私が、どれだけ秋也さんに助けられたと思っているんですか」

「前も言ったろ。お互い様だ。だから、それ以上は……」

「ええ、言いません。だから、秋也さんも言わないでください」


 うまい言い方だな。俺は「わかったよ」と呟いた。

 ただ、二人でぼんやりと過ごす。幸せな時間だ。これ以上があるんだろうか。

 いや、ある。間違いない。

 俺が人生で成し遂げたいこと。

 それを果たすのに、こんな機会はないだろう。


「もうそろそろ、日が暮れますね」

「ああ……」


 俺は立ち上がり、しろに手を差し出した。しろは微笑んで俺の手を掴み、立ち上がる。

 だが、俺はしろが立ち上がってからも彼女の手を離さなかった。しろは微笑んだまま首を傾げる。


「秋也さん?」

「しろ、結婚しよう」


 しろは首を傾げたまま、微笑んだまま、みるみる顔を赤くしていった。

 ああ、驚きだろう?

 色々考えてたんだ。状況とか、言葉とか。だが、考えすぎて次第に訳が分からなくなった。

 なら、思いっきりぶつけてみよう。

 そんな戦い方を選んでみよう。

 これは、俺の人生なんだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ