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91.Responsibility

 オアシスの決闘から半年が経ち、街中の混乱も終息した。犠牲になった英雄や兵士、住民達は悲劇として片を付けられ、名前が判明した者の名はオアシスの石碑に名前を刻まれた。

 俺は、バーサーカーを倒した人間として英雄を超える称号、「伝説」を与えられた。肩書なんて興味がない。いくら持ち上げられようが、俺がするべきことは変わらない。少なくとも、そう心掛けた。人々が俺を見るなり目を輝かせる姿をみると、つい心が緩んでしまう。自分にこんな側面があることに驚きながら気を引き締める。賞賛されてへらへらするなんて俺の美学に反するからだ。


「現状、人間側は圧倒的に有利だ」


 グレートウォールの新たな英雄、"大統領"ことボブ・ジョーンズが俺に言った。


「三害は死に、スノーマウンテン、中央都市、南の孤島という領土も手に入れた。戦争も終わりに近づいている」


 その通りだ。しかし、気になることがある。あなたの通り名だ。どんな行動を起こせば"大統領"なんて名前が付くんだ。噂ではかつて大統領だったと自称しているらしいが、その場合、俺の彼への評価は二つのうちどちらかに分かれる。大物か、はたまた大嘘つきか。

 俺がコーヒーカップに手を掛けた途端、俺の腕にしがみ付いてきた二人組がいた。慌ててカップを机に置くと、そのよく似た兄妹は満面の笑みで同時に喋った。


「ねぇねぇ。それに全部関わってたってほんと?」


 彼等もまた新たな英雄だ。双子のヨーゼフとメラニー兄妹。史上最年少の英雄で年は12。間違いなく戦闘の天才だ。


「一応な」

「すっごーい」

「でもメラニー、嘘かもしれないよ」

「そうかな? そうかも!」

「伝説の英雄かな?」

「伝説の嘘つきかな?」

「どっちー?」


 それは俺の向かいに座っているおっさんに言ってやれ。

 そうだ。何故、グレートウォールの英雄が集まっているのか話していなかった。俺達はこれから中央都市に向かう。目的は英雄会議、だそうだ。

 軍のお偉いさんは懲りもせずに英雄会議を再び開催する。今回はオアシスで開かれたような祭りではなく、厳粛なものだ。今後の方針を決めるための重要な会議。新たに着任した各街の英雄をお披露目する機会でもある。

 まぁ、今更その道中を話す必要もないだろう。俺達は軍の権力者を連れてグレートウォールから密林を西に進み、中央都市へたどり着いた。相変わらず島の文明水準から逸脱した町並みだ。中央都市は兵士と研究者が何人も住んでいるが、英雄は存在しない。街の防衛能力は機械に頼っている。監視カメラと自動撃退兵器によってだ。

 高いビルを登り、会議室を開けると既に他の街の英雄は揃っていた。ここで、新たな英雄達を紹介しよう。東は既に告げたし、北の三人には変化がないので割愛するが。

 南の三人は"主婦"と呼ばれる中年女性と、"忍"と呼ばれる顔を覆面で隠した男性、更に"奇人"ことヴェロニカだ。ヴェロニカを英雄に採用した馬鹿野郎を見つけたら長々と説教してやるつもりだが、ヴェロニカ自身が英雄を承諾したことにも疑問が残る。彼女は確か、好きな地方を北と言っていた筈だ。そこには解体しがいのある大型生物が生息するからだが、何故間反対の南で暮らすことを認めたのかわからない。そもそも、英雄に興味があるようには見えない。

 そして、西の新たな英雄はヤクザ隊長の代わりに"風使い"ことセシリアが加入した。そこに至るまでの道則には悩みも多かったことだろう。しかし、彼女は最後、英雄としての道を選んだ。

 ともかく、これが新メンバーの詳細だ。俺の感想としては、随分とまともなメンバーに入れ替わったものだと言わざるを得ない。ここには戦闘狂も女王様コンプレックスに捕らわれた男も、機械人間も異常者トリオもいない。喜ぶべき部分だが、残念な点もある。全体の戦闘力は明らかに低下している。

 しばらくして、ショットタウンのグラン総帥が姿を見せた。今回の会議の進行役だ。気がかりなのは、彼の表情が暗いことだ。


「みな、よく集まってくれた」


 よく響く、懐かしい声だ。


「今回、非常に重要な真実が判明した」


 随分と勿体ぶるな。正直、俺はさっさと帰ってゆっくり過ごしたい。そう思っていると、総帥は全体を見まわし、ゆっくりと口を開いた。


「戦争を終結させる方法が判明したのだ」


 「なんだって!?」と英雄達が叫んだ。俺以外は。


「この戦争は一匹のキメラを殺せば終わる。そういうルールだったらしい。今まで知らされていなかったこの事実は、疑いようのない真実だ。そのキメラの居場所も既に判明している」


 驚いた。そこまで調べがついていたのか。いや、まて、それはおかしい。

 当然、この話はいわば人間側の王将であるギークから聞いて知っていた。それから、俺は人々にこの事実を話すこともなく独自でそのキメラ、神を探した。俺の共通感覚を使えばなんとかなると甘く見ていたが、神は見つからなかった。

 神を探した理由は戦争を終結させるためではなく、その逆だった。この戦争をどう終わらせるにしても、ギークが未来人の大陸で革命を起こすまでは死なれては困る。神を殺すためではなく余計な状況に陥らせないために探していたのだ。だが、見つからなかった。

 彼等はその事情を知らなかった筈だ。だというのに、それを知り、神を見つけただと? どうしてそんなことができるのか。一考し、理解した。答え合わせは直ぐに行われた。


「我々がこれを知れたのは、人間側の生命線である者がそれを教えてくれたからだ。人間側は彼女を失えば敗北する。どうぞ、入ってきてください」


 現れたのは、フードを被り、長いコートを着た若い女性だった。

 予想通りだ。つまり、彼女がギークの代わり、人間側の新たなる神、だ。

 それから、英雄たちは「信じられない」という議論を長々と交わしていたが、俺には聞くに値しない話だったので聞き流していた。思考は別に使う。

 今までの人間側の神は、人々に戦争の勝利条件を伝えてこなかった。先代のギークがそれをしなかったのは自らの目的を達成するためだったが、それ以前はどうだったのだろう。もしかすると、自らを神と名乗る者もいたのかもしれない。信用されなかったのか、100年の間に情報が伝えられなかったのか。もしくは最初から隠していたのかもしれない。情報を広めないことでキメラ側にも伝わらないようにしたのだろうか。マダーの話では、人間の言葉の意味を理解できるキメラもいた、とか。

 ともかく、この新たな神は、情報を開示した。開示し、戦争を終わらせることを選んだ。

 女性は、透き通った声で言葉を繋いだ。


「私は、島中の生物の位置がわかるのです。だから、敵の位置も全て把握することができます」


 英雄達の眼がグラン総帥に向けられる。彼はゆっくりと頷いた。


「本当だ。何度も検証し、確定した」


 その時、空白の席に見える場所から、声が響いた。


「葉鳥君はどう思うんだ?」


 俺が一人だけ黙っていたことに気付いたのか。流石は透明眼(ステルスアイ)だな。


「ありえないでしょ」


 とマッチョナース隊長が言い、


「しかし、グラン総帥がそう仰るのならば」


 とアーサー隊長が言う。


「もし戦争を終わらせることができるなら」


 とノーマンが続け、


「好きなだけギャンブルができる」


 とマシューがにやけながら言った。


「神だって。解体してみたいねぇ」


 とヴェロニカがエキサイトし(こいつはギークから話を聞いていなかったのか?)、


「女の子がそんなこと言うんじゃないの!」


 と主婦が叱った。


「信じるべきだ」


 と忍が呟き、


「どうなの? 葉鳥」


 とセシリアが尋ねた。

 どうするべきなんだろうな。俺が聞きたい。いまや、全員の眼が俺に向けられている。全く、こんな空気で喋れってか。緊張するだろう。

 真実か嘘か、そんなことは議論する意味はない。間違いなく真実だからだ。問題は、戦争を終わらせるべきか、否か。しかし、ここでYesを示さなければ、神と接触する機会は消える。ならば、答えるべきは一つ。


「侵攻するべきでしょう」


 俺は新たな人間側の神と目を合わせた。


「あなたの話が嘘であれ、真実であれ、罠であれ、希望であれ、俺がなんとかしますよ」


 彼女はうっすらと笑った。俺の真意が伝わったように見えて、俺は少し驚いた。

 戦争の終結はともかく、俺はキメラの神と会いたい。会って話さなければならない。

 それがキメラを殺して回った俺の責任だと思うんだ。



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