87.Battle
今度は間に合ったぞ。
しろの瞼がゆっくりと開く。俺の姿を確認すると、彼女は涙を一滴流した。怖かっただろう。もう大丈夫だ。心配する必要はなくなった。
俺は鞭を弾いた。バーサーカーはゆっくりと鞭を手元に戻す。今すぐ動く気はないようだ。俺をじっと眺めている。
「よう、バーサーカー」
俺は声をかけた。反応はない。リデルの時とは勝手が違うようだ。
周囲に倒れていた人々が騒ぎ出した。兵士、住民、大層な服を着た富裕層達。
「あれは、誰だ?」
「無表情だ」
「生きていたのか」
「女の子を助けたぞ」
「でも、今更、英雄が来たって……」
「おい! わしを助けてくれ!」
少なくとも、彼等は負傷している。ここでバーサーカーと戦えば巻き込んでしまう。
突然、バーサーカーが動きを見せた。俺は黄金の槍で鞭を弾く。全く、半端ではない力と速度だ。俺は黄金の槍をそのまま仕舞い、手を鞘に持っていく。バーサーカーが二度目の鞭を振るうまでの間にULを溜め、攻撃が来たと同時に剣を抜く。斬撃が鞭を弾き、そのままバーサーカーを押しやる。
「もう一度だ」
俺はそのまま剣を鞘にしまい、ULを溜め、再び剣を抜く。二度目の斬撃はバーサーカーを吹き飛ばし、視界の外まで吹き飛ばした。
瞬間、静寂、続いて歓声。バーサーカーが飛んで行ったことへの賞賛。
喜んでもらえるのは有難いが、当然、奴がこれで倒れる訳がない。ダメージすらないだろう。そんなことは理解している。さて、どうするか。
「立てるか、しろ?」
俺が手を差し出すと、彼女は間をおいて頷き、俺の手を取った。震える手。しろは立ち上がる時、顔をしかめた。右脇腹と左足を痛めている。
「葉鳥っ!」
聞き覚えのある声が俺を呼んだ。パーカー、無事で何よりだ。
「パーカーさん、ここは任せます」
「あ、ああ、君は?」
「奴を倒す。パーカーさんは動ける人達に手を貸して、できるだけ街の西側に逃げてください」
俺が走り出そうとした時、手を引っ張られた。しろが俺の手を放さなかった。
「しろ?」
「秋也さん……」
しろの開いた口からは、それ以上言葉は続かなかった。俺は笑って、手をぐっと握り返す。
「必ず帰る。約束だ」
しろは目を細め、無理矢理笑顔を作った。
「待ってます」
手を放し、俺は走った。ジェットブーツ出力90%。ギークの洞窟からオアシスまで向かう中で、ジェットブーツの限界値を更に超えた。
俺は燃える瓦礫の前で立ち止まる。瞬間、瓦礫は弾き飛んだ。中からはバーサーカー。奴が出てきた。火炎に囲まれたオアシスで、二人きりだ。
「久しぶりだな」
俺の声に暫くしてから、バーサーカーは反応した。驚きだ。それは意味のある言葉ではなかった。笑いだ。仮面の奥から低い笑い声が聞こえてきた。共通感覚で意思を読み取ろうとすると、そこにあったのは喜びだった。
「ああ、わかるよ。俺も、同じ気持ちだからな」
かつて出会ったときは理解不能な怪物でしかなかったが、今は分かる。俺達は似た者同士さ。
同胞の敵を討つ、だろ?
バーサーカーの笑いは消え、俺に向き合う。戦いを始めよう。
突然、バーサーカーの甲羅から8本の銃口が伸びた。両肩、両腕、両脇腹、更に頭上から2本。
「いきなりか」
ULの弾が嵐のように連射される。当たれば当たった部位が消し飛ぶ。分かり易いゲームだ。俺はジェットブーツを起動して、バーサーカーの周りを円周状に走る。俺の背後にあった家屋が次々と吹き飛んでいく。
速い。威力も申し分ない。だが、対応できないレベルではない。
弾の嵐をかい潜り、ヒートブレイドを起動して、バーサーカーに近付く。熱の刃はバーサーカーの鎧を削り取り、連撃を繰り返す。バーサーカーも同じくブレイドを起動して、俺の刃とぶつかり合う。同じ武器。違いは速度と力。速度は俺が有利、力は奴が有利。
つまり、俺の手数は奴を上回り、奴の攻撃を避けることも難しくない。だが、奴の攻撃が俺の刃に触れれば、俺は体勢を崩される。
俺は繰り出せるだけ手を出し、ジェットブーツでバーサーカーの頭上に飛ぶ。その間にも斬撃を繰り出し、片手を剣の鞘にやる。バーサーカーの背後に着地した瞬間、剣を抜いた。斬撃を纏った剣に、バーサーカーは前を向いたままブレイドで防いで見せた。が、衝撃で前によろめく。
「隙だ」
俺はブレイドを起動したままの手で黄金の槍を手にし、寄生植物を発動させる。巨大な植物の蔓がバーサーカーの背後から襲い、奴は蔓にのまれる形で押しやられ、そのまま蔓と地面の間に押しつぶした。が、即座に蔓は切り裂かれる。バーサーカーは電撃の鞭を手にしていた。
ここからは、バーサーカーの鞭と8つの砲身と、俺の寄生植物の派手な戦いだ。
弾丸と同時に電撃の鞭が俺に向かってくる。弾丸は、寄生植物の蔓で相殺できる。俺は複数の蔓を槍自身と地面から伸ばして対応した。問題はあの鞭だ。
あれを防げる武器は黄金の槍のみ。しかも、相当気合を入れて受けねば吹き飛ばされる。できれば避けたいが、回避ルートを先読みして弾丸を放ってくるので避け切れない。
黄金の槍と電気の鞭が火花を散らす。何度も何度も衝突が起こる。衝突が繰り返されるたびに鞭の速度と力が増していく。嫌な戦い方をしてくれる。
俺は蔓の一本をバーサーカーの足元の地面から伸ばした。狙いは鞭を持つ右腕。蔓はバーサーカーの右腕を捉えた。左腕のリストブレイドで蔓を切られる刹那、時間ができる。反撃の時間だ。
俺は間をつめ、ジェットブーツでバーサーカーを蹴り飛ばした。流石の奴も対応しきれず、燃える家屋まで吹き飛んで行った。家屋はバーサーカーが飛んできた衝撃で崩落する。
「さて、どうだ」
少しはくらってくれたか。
バーサーカーは叫びながら家屋を吹き飛ばした。ダメージはなさそうだ。燃えた破片が飛んでくる。
「ちっ」
思わず舌打ち。
奴にダメージを与えた所で直ぐに回復する。前回の戦いで学んでいるさ。腕を切り飛ばしても数秒で回復するんだ。そんな生物は、今まで多くの戦いをしてきたが見たことがない。だというのに、そのダメージすら与えられないとは困った話だ。
やはり、弱らせて討つ、という常識的な戦いは不可能だ。奴は弱ることがないのだから。ならば、どうすれびいい? 結論は出ていた。奴との戦闘シュミレーヨンは俺の習慣だ。
武器を壊す。それしかないだろう。なぜなら、武器は再生することがないから。簡単な話だ。
バーサーカーは燃えている家屋まで歩いて行った。何をしている? すると、彼は片腕で家屋を持ち上げて見せた。
「ああ……成る程な」
「家」が飛んできた。なんて強引な戦い方だ。
俺は剣を抜いて斬撃を放ち、家を真っ二つに砕いた。その家の後ろに隠れるように走って来たバーサーカーは、即座に鞭を振りかぶった。家に気をとられて反応が遅れる。
鞭を槍で防ぐ。強い力におされる。片足のジェットブーツで背後の空中を蹴り、なんとか受け止める。次に、弾丸が飛んでくる。俺はその銃口のULの溜まり方が、先程の連射砲と異なることに気が付いた。師匠の銃を受け取っていなければ、その僅かな違いに気が付くことはできなかっただろう。
今度のUL弾は速度が段違いだった。凄まじい速度。俺は警戒し、限界まで集中し、感覚を研ぎ澄ませていた。だから、その弾丸を師匠の銃で撃ち抜くことができた。
弾と弾がぶつかる。バーサーカー、それで終わりだと思うだろう。だが、俺が撃ったその銃弾は、ただの銃弾ではない。
師匠から受け取ったその銃はULの込め方で銃弾に特殊な機能を加えることができる。
俺が放ったのは威力ではなく、広範囲の起爆にULの割合を含ませた弾丸。
ぶつかり合った弾丸は大きな光を伴って爆発。その爆発に威力はないが、バーサーカーに隙ができる。
俺は黄金の槍を抜く。遅れたバーサーカーは両腕で自分の身体をガードする。だが、俺はバーサーカー自身ではなく、甲羅に思いっきり槍を突き立てた。
すぐさま、バーサーカーは鞭を俺に振るう。俺の手元に対抗できる武器はない。急いで、剣を引き抜き、電気の鞭を受け止める。鞭の攻撃に剣では耐えられない。通常ならそうだ。
だが、この剣は斬撃を纏っている。斬撃と電撃がぶつかり衝撃が発生する。剣に亀裂が入るも、鞭に切れ込みが入る。続いて、剣は折れ、鞭は切れた。
バーサーカーは叫び、8つの砲身を俺に向ける。その状態で撃つ気なのか……
俺は師匠の銃を甲羅に向け、撃った。弾丸は甲羅に直撃し、黄金の槍の刺さった甲羅は更に傷がつく。それでも、バーサーカーは弾丸を放った。俺はジェットブーツで弾丸を一つだけ蹴っ飛ばす。当然、ジェットブーツの本来の用途ではない。ジェットブーツは故障し、残りの七つの弾を俺は全力で避けた。そのうちの一つは俺の脇腹を掠め、負傷する。
だが、その瞬間、バーサーカーの甲羅が爆発を起こした。その衝撃で俺は地面を転がる。急いで跳ね起き、奴を視界に抑えた。
バーサーカーは火炎の中で立っていた。背負う甲羅は半壊し、煙が出ている。奴はゆっくりと歩き、止まった。
奴は身体の装具に接続されている甲羅のコードを自ら引き抜いた。数本のコードをとると、奴の背から甲羅が落ち、地面に落ちた。そこから俺のヒートブレイドで傷付いた身体の防具をはがす。そして、自分の仮面を両手で持ち、剥がした。
「いい顔してるな……おい」
バーサーカーの顔は、人間の頭蓋骨に、蛇の口を取り付け、猫の瞳を取り付けたような姿をしていた。耳まで裂けた口は酷く醜く、奥から見える人間の歯は、鋭くとがっていた。
仮面を除いたバーサーカーが叫ぶと、もろくなっていた周囲の家屋は全て崩壊し、火炎が奴を中心に退いた。凄まじい圧で地面が揺れた。




