84.Murder 6
バーサーカーは開戦と同時にガンキャノンを撃った。
盗賊王が前に躍り出て伝説の剣を振るう。巨大な斬撃が6つの弾丸に衝突し、再び凄まじい衝撃が辺りに広がった。最早、街の入り口はその体をなしていない。
間髪入れずに、バーサーカーは再びガンキャノンを放った。あれほどの威力を持つエネルギー弾を連射できるなど常識では考えられない。その上、次の攻撃は弾丸に時差を作り出していた。つまり、同時に相殺をすることはできない。
流石の盗賊王も対応できない。そう判断するや否や、ヤクザとおかまは前に出て、盗賊王と合わせて弾丸を弾きまくった。盗賊王は伝説の剣で、おかまは拳の圧で、ヤクザに至ってはふざけた棒きれで、バーサーカーの連射を弾いた。逸れた弾丸は砂漠に飛んでいき、遠方でいくつもの砂柱が起こった。
「すごい威力ね。四発弾くので精一杯だったわ」
「拳でそれだけ弾けたら大したものだ! 俺は五発だったがな」
「ああ? お前らそんだけしか働いてないんかい。俺なんて九発弾いたで!」
「嘘おっしゃい! 全部で15発だったでしょ!」
「じゃあお前らの計算がおかしいんやろ!」
「嘘は良くないぞ!」
実に下らないケンカが始まるが、そこは英雄、直ぐに収まった。バーサーカーが動き出したからだ。
電撃の鞭が三人を襲う。その横振りの薙ぎは異常な速度だった。三人はぎりぎりで回避したが、僅かでも反応が遅れていれば死人が出ていただろう。何故ならば、あの鞭は防げないからだ。受けたら最後、軍曹のように武器ごと切断される。
攻撃を避けた三人は各々異なる体勢だった。おかまは伏せ、盗賊王は後退、ヤクザはジャンプだ。そこに、バーサーカーの追撃が加わる。再びガンキャノンが放たれる。一人二発ずつだ。今度は弾速が遅かった。対処することは可能だろう。だが、弾速が遅いということは速度に使う筈のULを別のステータスに振り分けているということだ。
「気ぃつけぇ! なんかあるで」
「これは……」
「触れるな! 避けるのよ!」
三人は再び体勢を変えて弾丸を避けた。弾は通り過ぎ、遠方でロケットガンと同様の規模の爆発を起こした。弾くつもりで触れれば爆死していただろう。
ヤクザが空中で身体を捻って弾丸を避け、地面に着地した瞬間、リストブレイドを起動したバーサーカーが襲い掛かった。それまでのどの戦いとも違う。獰猛で好戦的な野獣のような姿だった。ヤクザはブレイドを木刀で弾くがよろめき、その隙に顔面に二本の傷を入れられた。
「本間!」
「騒ぐな! 大したことないわ、こんなもん!!」
顔面から血を滴らせながら木刀で応戦する。当然、力も速度もバーサーカーの方が上だ。ヤクザはみるみる傷だらけになっていく。
おかまが接近してバーサーカーを殴りつける。大した威力だ。バーサーカーは吹き飛んだが、当然のように腕でガードしていた。続けて盗賊王がバーサーカーに切り込んだ。二人の押し合いが始まる。力では勝るバーサーカーでも、伝説の剣の斬撃には苦戦するようだ。
「本間、大丈夫?」
「誰の心配してんねん」
ヤクザの眼は闘志に満ちている。むしろ、この状況を楽しんでいるようにも感じられる。だが、僅か数秒の斬り合いで名高い英雄のヤクザですら傷だらけになる。全身から血を流す。これが現実なのだ。
バーサーカーは伝説の剣をブレイドで弾き、距離ができるや否や電撃の鞭を振るう。盗賊王は剣でそれを防ぐ。驚いたことに、伝説の剣は折れなかった。だが、鞭と剣がぶつかると凄まじい火の粉が立ち、盗賊王は剣ごと鞭の起動に沿って吹き飛ばされた。
「ぬおおおおぉぉぉ!! なんて、ちから!!」
おかまが拳圧を繰り出す。バーサーカーはガンキャノンでそれを相殺する。その間に盗賊王は鞭から逃げ出した。盗賊王がおかまとヤクザのもとへ戻った時、彼は全裸になっていた。押し合いで服が脱げたのか? そんな現象が起きるのか?
「なんや、おっさんも本気やんけ」
「ああ、後1秒でも服を脱ぐのが遅ければやられていたよ」
「危ないところだったわね」
真剣な顔で何を言っているんだ、こいつらは。
「奴を倒すには俺の伝説の剣をmaxまで貯める必要がありそうだ」
「なら、私達で時間を稼ぐしかないわね? いける本間?」
「だから、誰に言うとるんや」
ヤクザとおかまは走り出した。
バーサーカーはガンキャノンを連射する。二人の英雄は避けられる攻撃は避け、回避不可能な攻撃は弾いた。接近戦になると、ヤクザは躊躇なくバーサーカーに近付き、木刀をくらわす。この男、恐怖を感じる脳の機能が作動しないようだ。バーサーカーの鞭とガンキャノンはおかまの拳で弾き、ヤクザはブレイドと存分に斬り合うことができた。
ここで、俺の眼にはおかしな光景が見えた。ヤクザがバーサーカーの攻撃に対応できるレベルまで戦闘力を上げると、バーサーカーもそれに応じて戦闘力が上げる。斬り合いは、少しずつレベルが上がっているのに、戦い自体はぎりぎりのところで互角だったのだ。こんな「戦闘」は見たことがなかった。
だが、人間には限界がある。
均衡は少しずつ崩れていった。再び、バーサーカーのブレイドがヤクザの身体を捕え始めた。再びの出血。見兼ねたおかまが中距離からの支援を止め、ヤクザと共にバーサーカーと接近戦を始めた。
ヤクザの木刀、おかまのナックル。バーサーカーはそれにブレイドだけで対応した。二人の英雄は血にまみれ、しかし、笑顔があった。
「あんたと一緒に戦うのは! いつぶりかしらね!」
「さぁ、もう、忘れたわ!」
瞬間、二人の力が、バーサーカーを押した。
ヤクザの木刀が、おかまの拳が、同時にバーサーカーの胸当てに直撃した。
バーサーカーは後退した。
「今や!!」
「今よ!!」
叫びは発する前に届いていた。
二人の後方から剣を振りかぶった盗賊王がジャンプしていた。
一線。見たことのないほどの巨大な斬撃。
天の雲と地面の砂を二つに分けたそれはバーサーカーの身体に届く、筈だった。
届いていれば、あのバーサーカーを倒すこともできた筈だ。俺は期待を超え、核心に近いものを持っていた。だが、届かなかったのだ。
斬撃が発せられる寸前、後退したバーサーカーは鞭を振るい、伝説の剣を切断した。折れた剣の斬撃はバーサーカーの鎧にかすり傷を付けたが、距離が届かなかった。
この一撃に全てを欠けていた盗賊王は隙だらけだった。その隙をバーサーカーが見逃すはずがない。剣を再び掲げる前に、ガンキャノンが盗賊王の腹部を貫いた。続けて、横薙ぎの鞭が振られる。
「アーサー!!!」
盗賊王は鞭に弾かれて砂漠を飛んで行った。
おかまが拳を掲げるが、それよりも先にバーサーカーは腕を伸ばし、おかまの腹をリストブレイドで貫いた。
「ふぐっ……お・の・れぇ!!」
おかまの低い声が響く。達人と同じだ。ブレイドで腹を貫かれても闘志が引かない。だが、迎える結末も同じだ。チューブガンが作動して、おかまの腹が爆発する……間際、彼の身体が後方に飛んで行った。
「まぁ、代われや」
「ほ、本間……」
地面に転がったおかまは腹を抑えながら声を絞り出す。チューブガンが作動する前に、ヤクザがおかまの身体を掴み、後方へ投げたのだ。
「バーサーカー。まぁ、これで二人っきりっちゅうこっちゃな」
ヤクザは血塗れだが、笑っていた。口角を上げ、木刀をくるくると回している。
「人生最高の殺し合いを始めようやないか」
バーサーカーは間をおいて、鞭を仕舞い、ガンキャノンを全て収納した。その行為の意味は俺には分からない。だが、二人の間には意思の疎通ができているようだった。神すら不可能だったことを、このチンピラがやってのけたのか。
「ああ、ええこっちゃ。ほな、いくで」
ヤクザの木刀と、バーサーカーのブレイドがぶつかり合う。
凄まじい力。凄まじい速度。凄まじい技術。凄まじい殺気。ああ、これが戦いだ。いつまでも見ていられるような芸術性さえ感じられた。幾重にも繰り返された斬撃は、しかし、やはり、ヤクザの身体を傷付けていく。彼の血が砂漠に吸い込まれる。彼の命が消えていく。
だが、奴は笑っていた。傷付け、傷付けられることさえ楽しいと、彼の表情が告げていた。
だが、どんな戦いにも、いずれ終わりは来るのだ。
「あ~あっ、しんどいなぁ。でも、最高やわ!!」
ヤクザはふらふらになりながら叫んだ。
「いつまでもこうしておきたい、そう思わへんか? 思うやろ!! 男やったら常に命がけ!! 強いもんと戦って!! 血を流して!! それでも戦うんや!!」
ヤクザは木刀を天に掲げた。
「一つ悔しいんわ、お前にとって俺がそれほどの相手やなかったてことか」
木刀は折れ、切っ先が砂漠に突き刺さる。
「まぁ、俺は十分に楽しめたわ。ありがとさん。お先に逝って、待ってるで」
ヤクザは木刀を放り捨て、膝をつき、そのまま砂の上に崩れ落ちた。




