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83.Murder 5

 "名前のない怪物"の槌がバーサーカーに直撃する。バーサーカーは腕の鎧でそれを防ぐが、衝撃を全て受け止めることはできないようだ。後方に弾き飛ばされ、続けて、軍曹の対物ライフルが追撃する。巨大なULの弾は更にバーサーカーを後方へ押しやるが、奴は両足で砂の上に着地した。


「お二人の攻撃を受けても余裕とは恐ろしい」


 執事がシルバーを投げまくる。バーサーカーは鬱陶しそうに腕で払った。


「かかりましたね」


 バーサーカーの腕に銀の繊維が絡みついた。何重にも巻き付いているその細い束は、バーサーカーの動きを僅かに遅くした。

 "名前のない怪物"が飛び上がり、振りかぶった槌をバーサーカーにぶつけた。凄まじい衝撃が波打ち、砂が嵐のように降り注ぐ。バーサーカーはそれを腕で防いでいたが、奴の足元は膝まで砂に埋まっていた。怪物と狂戦士の押し合いが始まる。


「やるじゃねぁかぁ」


 人間の中で最も強い力をもつ怪物。バーサーカー相手に押し合いを演じてみせるだけ大したものだが、徐々に徐々にバーサーカーが押し返し始めた。

 その時、"名前のない怪物"は息をすーと吸い込むと、思いっきり吹いた。砂嵐のような風が起こり、バーサーカーを襲う。


「よくやったフランケン!」


 押し合いの側面に移動していた軍曹が狙撃銃を撃つ。バーサーカーは弾かれ、弾いた先には銀の糸の巣が張られていた。バーサーカーは絡まり、動きを封じられたように見えた。だが……

 俺に声を発する機能が残っていたのならば、叫んでいただろう。奴は、その程度では止まらない、と。

 好機とみた南の英雄は三人で襲い掛かった。瞬間、バーサーカーは仮面の奥から吠えた。その声は周囲の砂を揺らし、崩壊しかけていた街の壁に亀裂を入れた。


「なんという圧!」

「関係ねぇ!」

「そうだ! 全力で討つぞ!」


 執事の嵐のようなシルバーの連撃。軍曹のチャージした弾丸。怪物の槌の一撃。

 全て弾かれた。電撃の走る鞭で。


「あれが厄介だな」

「とんでもねぇULを感じるぜ」

「ええ……まずは武器を……待ってください、あれは……」


 バーサーカーは鞭を振り回して周囲の銀の糸を切断した後、甲羅からガンキャノンを出した。その数は、四丁。左右の肩口と脇腹から砲身が出ている。


「避けますよ!!」


 ULの弾が放出される。南の英雄は回避するが、流れた弾は後方のオアシスへ飛んでいき再び街で爆発を起こす。


「くそが」


 怪物は槌を振りかぶり弾の一つを打った。衝撃でバランスを崩す。その隙にバーサーカーは近付き、リストブレイドを起動した。


「なんだよ、やる気かぁ! ああ!?」

「サポートするぞ!」

「はい!」


 軍曹と執事が武器を構えた瞬間、バーサーカーは二人を見もせずに砲身を二丁向けた。


「避けるぞ!」

「勿論!」


 その判断が誤りだった。

 次にバーサーカーが放った弾の弾速は先ほどの10倍以上あった。その場にいた誰にも視認できないレベルの速度だ。全員が、バーサーカーが弾の種類を変えたと気付いたのは、軍曹の片腕と、執事の顔面が吹き飛んだ後だった。


「ぐあああぁああ!! くそっ!!」

「ウィリアム……」


 死を悼んでいる暇はない。

 バーサーカーのリストブレイドが怪物を襲う。怪物は槌を巧みに動かし攻撃を防ぐ。衝撃と金属音が鳴り響き、死へのやり取りが続く。だが、バーサーカーの攻撃は少しずつ速度と威力が増していき、段々と怪物は押し負け、バーサーカーの攻撃が当たるたびに弾かれていった。


「フランケンン!! 当たっても文句言うなよぉっ!!!」


 出血を気にもせず、軍曹は巨大な銃を肩に背負って狙撃した。バーサーカーはまたもや目をくれることもなく、片腕に鞭をもって弾を弾いた。その一撃はそれで終わりでなく、負傷した軍曹まで伸びていった。


「ちくしょうっ」


 避けきれる速度ではなかった。軍曹は狙撃銃ごと縦に二つに切断された。


「へへ……へ……この野郎がぁ!!!」


 フランケンは大ぶりの一撃を放った。バーサーカーはブレイドで槌を弾き、戻した鞭で攻撃を放つ。怪物の槌はぎりぎりで防御に間に合った。問題は、その鞭を防ぐことができる武器ではなかったということだ。槌は切断され、怪物の身体に一線の傷が走る。

 素手になった怪物はそれでも諦めない。拳を握り、パンチを放つ。十分に威力のある攻撃だが、奴には通用しない。バーサーカーは拳をその手で受け止め、もう片方のリストブレイドで怪物の腕を切断した。


「あ……ああ、なんだ。もう一本、残ってるぜ!!!」


 怪物は怯まない。更に拳を放つ。バーサーカーは避けなかった。拳を胸の鎧で受け止め、ガンキャノンを怪物に向ける。


「おいおいてめぇ……」


 至近距離での弾丸を避けるすべはない。怪物の胸と腹に穴があき、大量の血液が口から溢れる。


「俺ぁ……」


 怪物は倒れた。

 バーサーカーは死んだ英雄達に興味も示さず、街へと歩き始める。ガンキャノンをチャージし、街

の入り口で挨拶代わりと言わんばかりに弾を放った。街に火柱が立つ。さぁ、今の攻撃で何人が死んだ? 更にチャージし、攻撃を放とうとする。全く容赦がない。かつて、俺も奴の街への襲撃を参考にしてグレートウォールを襲った。その本家だ。流石と言えよう。

 放った弾は、しかし、今度は街に辿り着くことはなかった。巨大な斬撃がそれを相殺したからだ。


「好き勝手やってくれたもんやなぁ」


 バーサーカーの前に堂々と現れた男。木刀を片手に振り回し、顔には笑みが浮かんでいる。俺ですら思う。こいつは大馬鹿者で、狂っている。

 瞬間、攻撃がバーサーカーを後方に弾いた。それは砲撃のようだったが、弾はなかった。木刀を持った男の後方から現れたのは、武器を持たない男、いや女か。おかまだ。奴が放った拳の拳圧だけで、バーサーカーが吹っ飛んだのだ。

 続いて、吹き飛んだバーサーカーを襲ったのは、これまでで最大級の破壊力を持つ弾丸。強力なロケットガンの弾がバーサーカーの前で巨大な爆発を起こした。


「どうだ! やったんじゃないのか?」

「駄目でしょ」

「着弾の瞬間鞭で弾を叩き落としとった。あの状態で反応できるなんて、な!」


 まだ爆発の余韻が残る爆風の中をヤクザは走った。躊躇なく、木刀を振り上げ、バーサーカーに叩き付ける。バーサーカーはリストブレイドでそれを防ぐが、防いだ瞬間には既に次の攻撃が始まっていた。ヤクザの二撃目がバーサーカーの胸の鎧に直撃する。


「おらおらおらっ」


 連撃が終わらない。一撃一撃が重く、速度もある。バーサーカーが鞭を振り上げると、拳圧が飛んできて鞭を弾いた。殴りつけるだけ殴ると、ヤクザはふっとバックジャンプする。なんだ? せっかくの機会が……そして、視線を盗賊王に向けて俺は納得した。

 伝説の剣。巨大な斬撃がヤクザの足のすぐ下を通り、バーサーカーに向かっていた。バーサーカーはガンキャノンを六丁。肩、脇腹、そして左右の両腕の隣から向け、同時に弾を放った。巨大なULのぶつかりが生じ、爆風が起こる。


「俺の伝説の剣を相殺するか。敵ながらやるな!」

「噂通りの相手ね」

「まぁ、師匠を殺したんや。それぐらいはやるやろ」


 木刀をくるくると回しながら、ヤクザはにやけている。


「なに? 師匠を亡くしてその態度。葉鳥やしろちゃんなんてだいぶ落ち込んでたわよ」

「そうだぞ! 俺もオットーさんが亡くなった時は傷ついたもんだ!」

「ああ? 落ち込む? なんでやねんな!」


 ヤクザは大笑いを浮かべる。


「師匠を殺すような相手に会えたんや!! 喜ぶしかないで!! 悪いが葉鳥に出番はないわ! 俺がぶっ殺したる!!」

「はぁ、まったくもう」

「まぁ、悲しまれても困るがな! それにつよし君。俺、じゃない。俺達だ」

「そうよ、今回ばかりはあんたの主義にも付き合わないわよ」


 ヤクザは「わかっとるわ」と頭を掻き、「来るで」と叫んだ。その目は既に戦闘モードだ。

 砂煙の中、バーサーカーは現れた。右手にブレイド、左手に鞭、ガンキャノンは六丁。俺もショットタウンの連中にはやられたから理解できる。バーサーカーも分かっているようだ。この西の英雄達には覚悟を持って挑む必要がある、と。



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