80.UL side3
ことは単純な話なんだよ。
君は、この戦争が終わった後のことを考えたことがあるかい?
人間が勝つ、動物が勝つ。そもそも、何を勝利条件としているのかだってはっきり分かりやしない。でも、これを戦争だと言い張るからにはいつか終わりが来るだろう。その後の話さ。
未来人は、勝利したUL生物をどうするつもりだろう。偉大な英雄として迎えると思うかい? 当然、そんな訳はない。動く死体が強力な能力を身に着けて帝国を歩き回ることを、未来の人々が喜んで望むと思うかい? NOさ。
私が思うに、この戦争が終わった段階でこの島の生物は残らず駆逐される。、私達は成すすべなく消されるだろう。なんせ、相手は本気を出せば世界を滅ぼす力を持っているんだ。こんな小さな島での争いなんて、もともと彼等にしてみればゲームでしかない。ちょっと開発に力を入れた、実験場代わりのゲームさ。
私達は戦争に勝とうが負けようが殺される。このままだとね。
「もともと死体なんだ。別に死んだっていいだろう」
未来人の私達の印象は、こんなものさ。
でも、君ならわかっているよね。この戦場の人々を。そう、生きているんだ。死ぬ前と変わらない。コミュニティを気付き、奪い、奪われながらも、人間として生きている。
美しいじゃないか。
私だって生きている。道具として再び命を得た。だが、道具のように死ぬ必要はない。誰もかれもそうさ。私達は命だ。私達は未来人の為に消費される道具じゃない。
さぁ、立ち上がろう。立ち上がり、抵抗しよう。目指すは未来人の土地。未来人の上層部。戦争を支配している中枢を皆殺しにして、私達は自分の人生を掴み取ろう。
と、まぁ、君が私以上のひねくれものじゃなければ、こうして説得するつもりだった。
そんな顔するなよ。わかっているさ。君はこういう綺麗ごとには吐き気を催すタイプだろう?
安心しなよ。これは風上隊長用に考えておいた演説だ。
けれど、まぁ、理由は違うけれど、目的は同じだから、一応紹介しただけさ。せっかく考えたんだ。このままごみ箱に捨てるのは勿体ないだろう。
まず、この戦争の勝利条件だけれど、君はマーダーから聞いて分かっているよね。
これはね、日本で言えば将棋みたいなゲームなんだよ。
つまりはトップを殺せば終わり。
100年も続いてしまったからトップも世代交代されてるみたいだけれどね。キメラ側は「神」と呼ばれるキメラ。人間側は知らないけれど、まぁ多分かなり安全な場所で守られている誰か、これがトップさ。これを殺せば終了。わかりやすいだろう?
なんで「何を勝利条件としているのかだってはっきり分かりやしない」と言ったかだって?
それは勿論、条件を知ってるなんて言ったら、なんで知ってるの? という風に話が逸れるだろう? 私が知っているのはマーダーとのコネクションが昔からあったからだよ。
次に未来人の対応だけれど、これは本当のことだよ。少なくとも私はそう考えている。つまりは、この島にいる生物は戦争が終わった時点で用無し。全員消されるだろう、ってことだ。
その後の演説は真実と偽りが混ざってる。理由が違うが目的は同じ、とはこの部分のことだね。つまり、この島の住民が全員死のうが私の知ったことではないが、いいように利用されて用が済んだら始末される、なんて冗談じゃない。今の帝国の上層部は間違いなく私からULを奪った人間となんらかの繋がりがあった連中だ。ULなんて世界一優れた物質の発見をした者が権力を持つのは当然のことだからね。この戦争にも利用されているのがいい証拠だよ。
だから私は連中に復讐するんだよ。ULを奪った罪で死刑。私をこんな下らない戦争に巻き込んだ罪でもう一度死刑、甘いね、私も。
「お前が狂っているのは知ってる」
彼は呆れた顔で呟く。
「だが、行動にはいつも理由がある。問題は、それをどう実現するか、だろう?」
そう、その通り。そして、それが君の大事な役割だ。
君をこの戦場中歩き回らせたことは申し訳ないとは思ってる。でも、実際見てみないと理解できなかっただろう?
私の最大の障害は当然、海の看守だ。看守がいる限り私達は島の外に出られない。
そこで、私は看守の警護に穴がないかを長い間観察した。その間に気付いたことがある。それは看守の警護は鉄壁だということ。ULの持つ生物は全て奴に仕留められた。ご存知の通り大型マシンも大破したよ。
でもね、ある時気付いたんだ。看守はULの生物なら残らず仕留めるが、ULのない生物は襲わないってことに。例えば、向こうから近付いてくる渡り鳥や魚など、ULを含まない生物は普通に島を出入りしているんだよ。これはまぁ、未来人にとって都合がいいからだろうね。
勿論、私も含めて、この島で蘇らせた生物は全てULを含んでいるし、それを消すのは不可能だ。ULを消したら死体に戻るだけだからね。だから私は長い間この作戦を諦めていた。
でも、そう君だよ。風上隊長というキーパーソンを亡くした日、君は貴重な情報を持ち帰っていた。非常に重要な情報だ。
それはレーダーに反応しなかった生物のこと。
兵士が持つレーダーはULに反応する。反応しないなんてことは装置の故障以外ではありえない。だが、バーサーカーは君がその腕を斬り落とすまでレーダーに反応しなかった。ULの気配を完全に消す装備を持っていたんだ。
「時に、話は逸れるが君はその功績のわりに周囲の評価が低かっただろう?」
それはね、君のリストブレイドに秘密がある。完全ではないが、バーサーカーから奪い取ったその装具にもULの気配を薄める効果があるようなんだ。
だから君は実際アーサー隊長や"名前のない怪物"を遥かに超えるULを持っていても舐められる。見かけ上ULの量が少なく感じられるからだ。更には君自身も相手のULを感じ取る能力が低い。ULの気配を消す装具を直接纏っているからだ。
話を戻すが、つまりはバーサーカーの持つ装具を完全に奪い取れれば、海の看守の目を欺いて帝国の大陸まで渡れるということだ。
大陸まで渡れば何とでもなる。未来の都市がどうであれ、全てを完璧に支配することなんでできない。確実に穴がある。無法者の存在やシステムの欠陥がね。私ならそれを容易く突破できるだろう。
全てはバーサーカーさ。奴を倒せれば私は復讐を果たせる。ついでに、まぁ君達は幸せに生き残れるわけだよ。だが、それが問題だ。バーサーカーを倒せる者がこの世にいない。
だからこそ、君には強くなってもらう必要があった。
君の師匠を唆して小島に向かわせたのも私だ。彼が昔倒した「メデューサ」というキメラが復活したと噂を流したんだ。その結果、彼は動き出した。だが、仕方がなかった。
彼は既にバーサーカーとの戦いを諦めていた。昔、完全に敗北したからだ。彼は強かったが、バーサーカーと戦う意思のない者にこの戦争を終わらせることはできない。君が必要なのさ。奴に負けても折れていない。あれだけ脅しても戦う意思が揺らがない。君の師匠は君の糧になって貰った……おっと、言い方が悪かったかな?
なんにせよ、これが私の計画の全貌だ。
私が話し終わると、彼は再び銃口を私に向けた。その銃は、私に見覚えのない彼の装備だった。
撃つのならば、撃てばいい。私の命を懸けた計画が失敗した、それだけの話なのだ。
この作戦には多くの犠牲が伴い、仮にうまくいけば更にこれからもその犠牲は増え続ける。未来人の上層部を殺せば、帝国は間違いなく揺らぐ。その結果何人の犠牲者が出ることやら。人口が増えた世界での混乱の犠牲者は計り知れない数だろう。
私にそれが思い浮かぶのならば、彼にも思い浮かんでいるはずだ。
私が包み隠さず本音で全てを語ったのは、私と似た思考を持つ彼が、客観的な視点で私と同じ答えに辿り着くか興味があったからだ。それは、この作戦の可否以上に重い意味を持つ。
つまり、人間には何かを捨ててでも守り通すべきものがある、という結論。
戦争そのものさ。
「……いつも誰かのために戦ってる、か」
彼が口にした言葉の意味は分からなかった。
銃声が響いた。




