76.Marionette 4
攻撃を仕掛けようとしたキメラから撃ち抜かれる。動き出す直前にキメラは虚しく倒れた。
私は寄生植物の蔓を生み出すが、ガンマンはそれも砕いていく。撃ち漏らしはない。私は近付き、リデルの装甲を振るう。ガンマンは硬直した三人の英雄をまとめて蹴り飛ばし戦闘地帯から脱出させ、私の攻撃を避けつつ射撃を行う。バットの感覚と速度で私もそれを避ける。
背後からキメラを襲わせるが、ガンマンは視認もせずに片手を背後に向け、銃を撃つ。キメラが倒れるや否や、いつの間にか片手の銃を仕舞い、投げ縄を私の首に引っ掛ける。強引に私に伏せをさせ、再び私の眼を撃ち抜く。
視界をなくした私に射撃の連打。そして、遂にクロコダイルの皮膚が破けた。正確に、同じ位置に何度も弾丸を連射したが故の結果。私は寄生植物を発動し、地面から蔓を襲わせる。ガンマンは飛んでそれを避けた。視界が回復するまでの間、私はホワイトフットの腕で岩を投げまくる。視界が回復すると、驚いた。ガンマンは投げた岩の勢いを全てそいでいた。おそらく、全て射撃し、周囲への被害を最小にしていた。それだけの余裕があるということだ。
ああ、強い。これが伝説か。
戦闘において、この男に敵う者は確かに、バーサーカーぐらいだろう。
神よ、残念だが、残された最後の三害はここまでだ。
だが、終わりではない。
私は全身をリデルの装甲で纏う。可能な限り寄生植物を作り、同時にガンマンを襲った。ガンマンは両手に銃を持ち、片手だけですべての寄生植物を撃ち落とした。
そして、チャージしたもう片方の銃を私に向けた。
私はリデルの刃を振るう。だが、奴の弾丸が装甲ごと私の腕を貫き、そのまま頭にめり込む感触があった。
弾丸が破裂するまでの刹那。私はこの数百年の旅を思い返した。
神よ。
『こいつがマリオネットだったんだな。死んだ瞬間メデューサの拘束も解けた』
『しかし、あんたは相変わらず強いなぁ』
『そうですよ。隠居していなければ、この戦争の有り様も変わっていたでしょう』
『……この戦争の先に未来などない』
『あ、なんだって?』
『なんでもない。さて、マリオネットが死んだのならば、キメラの動きも停止しただろう。この戦いは終わりだ』
終わりだ。
「貴様らの負けだ!!!!」
伝説のガンマンの胸をリデルの槍が貫く。
軍曹が叫び、執事が武器を持ち、名前のない怪物がガンマンの身体を支える。
『じいさん!』
『何が起きた!』
『馬鹿な! マリオネットの死体はここにある!』
倒れた父の死骸を私は見ていた。
いや、正確には父ではない。その躯は私自身であり、仲間であり家族でもある。
私は地面から姿を現した。倒れた躯と全く同じ外見で。
軍曹と執事は直ちに武器を構える。
『死んだはずだ……なんだてめぇは』
軍曹が引き金を離すと、弾が私の胸に当たって弾かれる。キメラとして後天的に身に着けた能力も引き継いだようだ。実験は成功だ。
『寄生植物の種子か……』
ガンマンが口から血を流しながら呟いた。その眼光は死んでいないが、肉体は確実に終わる。リデルの毒を致死量を大幅に超える値で体内に注入した。たとえ身体が回復しても死ぬ。
『まさか、そこまで能力を引き継いでいるなんて』
『どういうこった執事! 説明しろ』
かつて、寄生植物は子を残した。自分自身の分裂と言い換えてもいい。その能力を活用させてもらった。100年戦い続けてきたマリオネットの記憶と能力を受け継いだ、新たなマリオネットとして、私は生まれたのだ。
ガンマンは胸に刺さった槍を引き抜いた。大量の血液が流れるが、少しずつ回復していく。人間とは思えない再生能力だが、前述の如く、身体をめぐる毒は消えない。
『油断大敵かっ……この年になって思い知るとは……』
『じいさん!』
無理をさせてやるな。立っているだけでも奇跡なのだ。今、楽にしてやる。
私がホワイトフットの腕を生やした瞬間、空から飛んできた羽の生えた機械が銃弾を浴びせてきた。ドローン兵器、ということは……
『芸術を見せてあげましょう!!』
四足歩行のドローン兵器が口を開けて銃弾を浴びせてくる。凄まじい連射で、私は思わず後退した。続いて、東西南北で戦っていた兵士が集まってきた。
『あれがマリオネットか!』
ギャンブラー、風使い、大統領、忍者、双子に主婦が部隊を引き連れている。だが、雑魚がいくら増えたところでなんの意味もない。
私は叫び、倒れていたキメラを回復させた。百獣軍団合成獣も通常合成獣もだ。私が相手をするまでもない。この兵士達には十分すぎる相手だ。
『おい、小娘、じいさんを見てやれ』
名前のない怪物が風使いにガンマンを預ける。
『この人は……』
『伝説だ』
軍曹が銃を構えながら呟く。
『おい、じじぃ、こんなところでくたばんなよ』
『悔しいですが、私達にはあなたが必要なようだ』
執事がシルバーを構える。ガンマンは血を地面に吐き捨て『殺そうとしたお前がよく言う』と笑った。
不死のキメラに囲まれ、奥には私がいる。その状態で、この場にいる兵士は諦める素振りもない。流石に、ここまで生き延びてきた兵士といったところか。
「いい……いいぞ、お前達。いいキメラの材料になりそうだ」
戦いが始まる。百獣軍団合成獣には英雄を筆頭に名のある兵士が戦い、一歩も引かなかった。だが、私のキメラは無限に戦い続けることができる。結果は明白だ。私はただ、この戦闘を見ているだけでいい。間も無く、この島での戦いは終わるだろう。
聞きなれた発砲音が聞こえた。見ると、驚いた。風使いの制止を振り切り、ガンマンが傷を抑えながら立ち上がって、戦闘に加わっていたのだ。
『駄目ですよ! あなたは酷い怪我を負ってる!』
『じいさん! あんた休んでろ!』
『ここは任せな! 勝ってみせるよ!』
大統領と主婦が叫ぶ。だが、ガンマンは戦うのを止めない。
『若い者が戦っている間、寝ていろと?』
とうとう、ガンマンは両手に銃を構えた。
『若者の未来の姿こそ老いぼれだ。希望をもたさんで何とする?』
撃つ、撃つ、撃つ、走る、走る。
速度、威力、精度、段々と上がっている。死に際の老人が戦う姿を見て、周りのものも強くなっていく。
この影響力も伝説と呼ばれる所以なのだろう。
疲弊した人間達は、それでも戦い続けた。そして、ついに均衡は崩れた。
『じいさん!!』
ついに、ガンマンの両腕が上がらなくなった。その隙にサイ型キメラがガンマンに向けて突進を始めた。兵士全員がガンマンの援護に向かおうとするも、自らの相手から目を離せなかった。伝説が終わる、私はそう確信した。
突如空中から飛んできた男がガンマンの前に降り立った。だが、関係がない。サイ型キメラは容赦なく突進を続ける。だが、その男が繰り出した斬撃は、サイ型キメラを容易に真っ二つにした。
その男は、ガンマンに向き直った。
『葉鳥、か……』
『ええ』
ガンマンはふっと笑って、手に持っていた銃を強引に男に渡した。
『お前達なら、未来を築けるだろう』
ガンマンは息を長く吸い、短く呟いた。
『さらばだ』
伝説のガンマンは立ったまま死んだ。
銃を渡された男は、見覚えがあった。神から貰い受けた思念の中にいた一人の人間。無表情だ。多くのキメラを葬ったグレートウォールの英雄。だが、伝説を相手にした今の私の敵ではない。
瞬間、赤い光が見えた。それがなんなのか、理解する間はほとんどなかった。
私が理解できたのは、私の頭が地面に落ちたことだけだ。




