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75.Marionette 3

 伝説のガンマン。直接戦ったことはないが、数々の噂は聞いている。

 数十以上の同胞を葬り、かつてバーサーカーと同等の戦闘力を持つと言われた『メデューサ』を破った男。人間側、キメラ側、双方の伝説。人間の希望であり、キメラの最大の敵。

 バーサーカーとの戦いに敗れ、数十年姿を見せなかった。何故、今更私の島へ訪れたのか不明だが、実力に衰えはないようだ。百獣軍団合成獣は全て一瞬のうちに撃ち抜かれ、戦闘不能にされた。弾丸で正確に菌の核を射撃しているようで、キメラ達の回復速度が遅い。


『おやおや、あなたがこのようなところに……』

『ああ、貴様が私の寝首を搔こうとしたあの日以来だな。ウィリアム』

『忘れましたよ、そのようなことは』


 命を助けられた三人の英雄がガンマンのもとへ集まる。皆、感謝の姿勢は見せなかった。


『随分と久しぶりだなぁ』

『貴様の雑な戦いぶりもな』


 名前のない怪物は『へへっ』と短く笑う。反するように軍曹は舌打ちをした。


『じじぃ、とっくにくたばってると思ったぜ』

『お前もな』


 瞬間、回復を完了した直後のグリズリー型キメラにガンマンが弾を撃ち込んだ。グリズリー型は再び身体を沈める。早業だ。キメラの回復を見抜いた眼力も凄まじい。


『ひゅー流石ですね』

『お前達の戦いは甘い』


 ガンマンの説教が始まるが、私は聞いていなかった。反省に思考を割いていたからだ。

 英雄相手には百獣軍団キメラで十分だと考えていた。実際、勝利は目前だった。ところが、伝説の男に邪魔されるとは。奴相手に私のキメラでは不足だろう。

 仕方がない。相手をしてやろう。

 私自身が戦うのは随分と久しぶりだ。

 私が近付くと、ガンマンは即座に話を止めた。遅れて、三人も私の気配に気づく。


『とんでもねぇ気配を感じるぞ』

『どこだ?』


 探す必要もない。私は堂々と樹木の間から姿を見せた。


『キメラ……か?』

『鳥の頭、類人猿の上半身、ヘビの下半身……奇妙な組み合わせですね』

『こいつは強そうだぜ』


 ガンマンは黙って私を見ていた。様子を伺っているのか。その対応が正しいかどうかは、次の瞬間にわかる。

 私が攻撃を仕掛ける瞬間、ガンマンは『下だ!』と叫んだ。見事な反応だ。私は容赦なく、奴等の立つ地面から寄生植物パラサイトプラントの蔓を襲わせた。全員飛んで避けたが、奴等の困惑はありありと伝わった。


『なんだぁ今のは!!』

『東西の密林で多くの被害を生み出した寄生植物パラサイトプラントに似ています!』

『なんでそれをこいつが出せるんだよ』


 ガンマンは空中で私に向けて弾を放った。見事な腕だ。速度も、攻撃力も高い。およそ、拳銃の能力ではない。確かに強力な装甲を持っていても砕かれるだろう。だが、弾は私の胸に当たって弾かれた。


『なんだってんだよ!』


 軍曹が弾を放つ。同じだ。弾は私の胸に当たって弾かれる。


『まさか、軍曹の対戦車ライフルが全く効いていないなど……』


 驚いている暇はないぞ。

 私は背中から腕を生やした。白く、強靭な腕。腕で岩を掴み、思いっきり投げた。岩は前方の樹木を軒並み砕いて視界の外まで飛んで行った。四人の英雄はなんとか避け切ったようだ。

 一人冷静なガンマンを私をじっと眺め、南の英雄にアドバイスをした。


『ホワイトフットの腕だ』

『なんで奴がそんなもんを生やせるんだよ!』

『私と、貴様の銃を弾いたのはクロコダイルの表皮。奴の皮膚と筋肉は弾丸では決して貫けなかった。最初の寄生植物の蔓といい……あのキメラは他のキメラの能力を持っている』


 私は、私の身体も合成している。死んだ仲間の力を引き継ぐ。

 これはどうだ、ガンマン。懐かしいだろう。

 私が能力を発現させると、ガンマンは即座に叫んだ。


『奴の眼を見るな!!』


 三人の英雄は目を伏せた。その反応速度は流石だ。


『なんだよじいさん』

『奴め……メデューサの瞳まで持っているとは』

『なんだそりゃあ』

『瞳を見れば身体が硬直する……かつて人間が最も恐れたキメラですね』


 果たして、目をそらしたまま私と戦えるかな。

 私は自分自身の腕に装甲を纏う。リデルの装甲と毒だ。寄生植物パラサイトプラントを発動し奴等を追い詰めつつ、私自身の腕を振るう。

 奴等は距離をとった。軍曹と執事は遠距離攻撃を仕掛け、名前のない怪物は槌で岩を砕いて攻撃してきた。避けるまでもない。弾は効かず、シルバーや岩などリデルの装甲の前では攻撃にもならない。

 距離がある程度できたら、私はホワイトフットの腕で岩を投げた。壮快だ。広範囲の爆弾を起爆させても実現が難しい破壊力を簡単に果たせる。


『じれったいぜ!!』


 名前のない怪物が飛び掛かってきた。そうだろう。貴様はその戦い方しかできない。


『くそ! 執事、援護するぞ』

『ええ!! 彼の一撃にはマリオネットも耐えられないはずです!』


 寄生植物パラサイトプラントの蔓を操る。名前のない怪物はそれを槌で壊すが、壊した先からさらに蔓を生やす。軍曹と執事も遠距離から蔓を壊すが同じことだ。


『近づけねぇっ』


 私は蔓に苦戦する英雄に近付き、リデルの装甲で貫こうとする。ところが、強い衝撃を胸に受け後方に飛ばされた。何が起こった。

 ガンマンが私に向けて銃を放っていた。先ほどとは違う。貫通力ではなく衝撃に配分を置いた弾丸。そこから、ガンマンは私の蔓を避け、撃ち、近付いてきた。

 速い。信じられない速度だ。

 私は蔓を無数に出現させガンマンに向けて放った。ガンマンは蔓を避け、銃で弾き、速度を落とすことなく近付いてくる。

 ガンマンに意識を当てていた間に、名前のない怪物が笑いながら私に槌を振るった。槌を腕でガードすると、リデルの装甲が砕かれる。想定より強い威力。私は再び吹き飛ばされた。続けざま、ガンマンが私の間合いに近付いている。急いで体勢を立て直し、私自身の腕、尾、ホワイトフットの両腕で連撃する。ガンマンは予知しているようにそれを避け、至近距離で銃を放つ。なんという衝撃だ。私は樹木をへし折りながら後退を続ける。


「化け物めがっ」


 私はホワイトフットの腕を仕舞い、黒い翼を生やした。ガンマンの眼の色が変わる。


『みな、警戒しろっ』


 私は高速で低空飛行する。その余波でガンマン、名前のない怪物は吹き飛んだ。


『なんですか今の速度は!』


 体勢を立て直したガンマンが銃を撃つ。今度は、見えるぞ! 私はそれを身体を捻って避けた。

 バッドの翼。使うのは初めてだが、驚いたぞ。全ての感覚が鋭敏になった。執事、軍曹、そして名前のない怪物……止まって見えるぞ!

 私は南の英雄三人と各々目を合わせた。三人の身体が硬直する。


『こ……これっがっ』

『な……か、からだがっ』

『うごか……ねっぇ』


 ホワイトフットの腕を出し、岩を持つ。


「終わりだ」


 振りかぶって投げた。だが、ガンマンが走りながら岩に向けて弾を放つ。銃弾は岩を砕くのではなく衝撃でサイドにずらし、三人の英雄を助けた。

 だが、勿論それで終わりではない。私は寄生植物パラサイトプラントの蔓で三人の英雄を狙った。しかし、全てガンマンの二丁拳銃に叩き落され、生じた隙にガンマンの弾で再び吹き飛ばされた。

 仰向けに倒れた私を、ジャンプしたガンマンが追撃する。最初の弾は正確に私の両目を貫き、凄まじい連射が私を襲う。クロコダイルの表皮で守られた顔と上半身以外はズタボロにされた。


『頑丈だな……』


 距離を置いてガンマンは着地する。

 私はゆっくりと立ち上がる。私の再生能力は極めて高い。目は瞬時に回復し、ボロボロにされた尾も問題なく治る。

 私は叫び声を上げた。この声は負傷したキメラの再生速度を上げる。先ほど南の英雄とガンマンに倒された百獣軍団合成獣が起き上がった。ガンマンは投げ縄で硬直した三人の英雄を回収し、雑に自分の足元に寝かせた。お優しいことだ。

 合成獣に囲まれても、私の力をお披露目しても、ガンマンの表情は変わらない。そうだろう。多くの危機を乗り越えてきたのだ。この程度では危機のうちに入らないのかもしれない。


「だが、今日その伝説も終わる」


 私は背からホワイトフットの腕、バットの羽を出し、両目はメデューサ、両腕をリデルの装甲と毒、更に、尾から寄生植物パラサイトプラントの蔓を出す。ガンマンの周りを百獣軍団合成獣で囲み、逃げ場をなくす。


「ガンマン、お前は終わりだ」


 ガンマンは二丁の拳銃を構える。隙も油断もない構え。敵ながら見事だ。


「いくぞ!!」



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