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72.Dango

 銃声、悲鳴。騒がしい島に俺達は降り立った。砂浜の奥にはジャングル。東西とは異なる南の樹木が島の状況を隠している。


「どうしますか」

「マリオネットは島の中央部に潜んでいる……とされている。他の兵士も理解して進行しているはずだ」


 マリオネットを倒さなければこの戦いは終わらない。無限にキメラを生み出せるからだ。 

 その時、奇妙な気配を前方の森から感じた。何が奇妙かと言えば、一所から複数の意思を感じたからだ。姿を現すより先に、それは大きな声を上げた。


「見ろ! 砂浜だ!」

「た、助かったぁ」

「早く逃げるぞ」


 兵士か。負傷したのか臆したのか、島から脱出しようと考えているようだ。別段、止める必要もない。精々気をつけろ。軍曹に見つかる前に逃げなければ狙撃されぞ。そうして気楽に眺めていたが、ジャングルから姿を見せたそれは、悍ましい姿をしていた。

 人間の脚で歩いているが、上半身が肥大化した肉団子で、その肉団子から複数の頭や腕が生えていた。先ほどの会話の発生源はその頭だったようだ。気配の違和感も理解した。一つの身体から複数の意思を感じたのは、それがキメラだからだ。


「おい、誰だ。あれは!」

「俺達を捕まえに来たんだ!」

「ちくしょう、捕まってたまるか!」

「……タスケテ」


 キメラは俺達の存在に気が付いた。しかし、自分の有り様には気が付いていない。しかし、確かに一つの頭から「タスケテ」と聞こえた。


「この島の状況が分かっただろう。小僧」

「ええ、はっきりとね」


 走り出す肉の塊。俺と師匠は銃を抜き、二発ずつ打ち込んだ。肉団子は容易に破裂し、動きを停止させる。俺は死骸に近付き、観察した。おそらく兵士がマリオネットに捉えられ、キメラにさせられた。よく見ると、顔は五つあり、男のものも女のものもあった。


「これがマリオネットのキメラですか」

「そうだ。未来人間が作ったキメラとの違いは一目瞭然だろう」


 適当に身体を繋ぎ合わせた姿。デザインもくそもない。


「意思があるように見えましたが……」

「マリオネットは捕縛用と戦闘用の二種類のキメラを作る。捕縛用は生死に関わらず生物の身体を回収し、マリオネットのもとへ連れていく。生きたままキメラにされた者は、意志を持ったままマリオネットの手ごまになる。その場合、自分の身に何が起こったのか理解している者もいれば、出来ていない者もいる。全て分析だが、およそ正しいだろう」


 酷すぎる。寄生植物(パラサイトプラント)騒動の際に兵士の亡骸を斬りまくったが、そんな俺ですら気分が悪くなる。これでは、まともに戦える者は多くないはずだ。

 倒したキメラを見ていると、おかしい。指先が動いた。すると、その死骸から急速に意思が膨れ上がるのを感じた。と、同時に肉団子の顔の瞳が10個、全て開いた。俺は反射的にブレイドを起動する。複数の腕が俺に向かって伸びる前に、キメラを細切れにした。


「ふん、油断大敵だ。小僧」

「な、なんですか。確かに死んでいたでしょう」

「マリオネットのキメラは死なない。永遠に動き続ける。大きく損傷させてもULで再生して動く。マリオネット本体を倒さねば終わりがない」


 そんな重要な情報はもっと早く教えて欲しいものだ。


「では、戦場に向かうとしよう」

「嫌な戦いになりそうだ」


 ジャングルに入ると、さっそくキメラを見つけた。そのキメラは頭は人間だが猿の身体を持っていた。鈎爪で襲い掛かってきたので頭を切り飛ばした。

 他にも、アイアンスネークの背中に人間の身体が幾つも張り付いたキメラ、メタルグリズリーの腹部から人間の上半身を生やしたキメラ。昆虫の下半身を持つ人間のキメラ、もろもろと遭遇した。戦闘力は素体となった生物と大きな変化はなく、傷付ければ死なないまでも一時行動不能になるので問題なく進めた。だが、一体一体と戦う度に吐き気を催す嫌悪感は湧いた。

 肉団子人間は定期的に見かけた。どうやら、これが師匠の言うところの捕縛用のキメラらしい。網のような武器を使って、気絶した兵士を引きずって回収している状況に遭遇した。救出し、師匠が兵士の頬を叩いて目を覚まさせると、その彼は困惑しながらこんな話をした。


「兵士は島の四か所から同時に攻め込むよう指示されていまして、俺は島の東から乗り込み中央部に向かって進んでいました。南は軍曹、西は執事、東は名前のない怪物が率いる予定でした……ですが何故か英雄は任務開始時間になっても姿を見せず……仕方なく作戦は英雄抜きで始動しました」


 相変わらず無責任な英雄だ。


「このルート……北は誰が率いている?」

「あ、そうだ。北はスノーヴィレッジの英雄のギャンブラーが率いているそうです。報告によれば、進行はギャンブラー隊が最も速いそうです。残りの三か所も、英雄はいませんが各街の英雄格の隊長達が強く、戦いは善戦していた筈です」


 各街の英雄格……一体だれが来ているのか。もしかすると、知り合いに遭遇する可能性も高い。師匠は顎に手を当てて考え込み、しばらくしてから指示を出した。


「ギャンブラーがいるのならばこの北のルートは比較的安全だろう。小僧、お前は回り込んで東から攻めろ。私は西から行動する」

「別行動ですか」

「問題はあるまい」


 勿論。俺は微笑んで見せた。ところが、救出した兵士が俺の袖をぐいぐいとつまむので、「なんですか」と俺は彼に目を向けた。


「あの~俺はどうすれば……」


 知らない、と言いたかったが、それも気の毒だったので、東から来たのならばそこまで案内してくれと頼んだ。彼は明らかに嫌そうな顔をした。


「なんです?」

「また、あの戦場に行くのですか……」


 覚悟して来た訳ではないのか。


「まだあなたの仲間も戦っているのかもしれないんですよ?」

「俺の仲間は、全員そこにいます」

「そこ?」


 彼が指さしたのは、彼を捕えて運んでいた肉団子キメラだった。俺は「ああ……」と低い声を出す。


「とにかく、何かあれば俺が守りますから」

「守る? あんたに俺が守れるのかよ!」


 急に叫ばれても困る。俺はため息を深々と吐いた。


「あなた、どの街の出身です?」

「ショットタウン……」

「なら、俺の噂も知っているでしょう。俺も、一応英雄です。無表情(ポーカーフェイス)って、まぁ不本意な名前ですが、あなたのことをまもってみせ……」

無表情(ポーカーフェイス)?」

「ええ」

「あの死体狩りの!?」


 彼はそう叫ぶとどこかへ走り去って行った。死体狩り? 一瞬思い出せなかったが、寄生植物(パラサイトプラント)騒動の際に兵士を斬りまくった際に付いたあだ名だと思い出した。随分と懐かしい名前だ。


「困ったもんですね師匠」


 と言って師匠が立っていた場所に振り返ったが、既に師匠の姿はなかった。まぁ、こんな下らないやり取りを静観し続ける人ではなかったよな。問題は、東がどっちの方向なのか見当も付かないという点だ。今まで俺は道の案内は誰かに頼っていた。同行者、もしくはサポーターに。こうなってしまってから思い出しても遅いが、俺は前世から方向音痴だったんだ。


「本当に困った状況になったな……」

「助けてあげるよ?」


 声の方向を見る。誰だ? 共通感覚を研ぎ澄ますまで気配に気づかなかった。只者ではない。

 彼女は、木の陰からひょっこり顔を出した。俺はゾッとする。可愛らしい顔立ちの背の低い少女。しかし、その外見に騙されては命が幾つあっても足りない。ヴェロニカ。なんでここに。


「お前も招集されたのか?」

「そうだよ~。ここはいいよねぇ。まるでさ、まるで、天国みたいです」


 ヴェロニカは笑顔のままナイフを投げて、回復し始めていた肉団子の頭の一つに突き刺した。そこから、彼女の手元に繋がる糸を通してULがナイフに送り込まれ、ナイフの刺さった顔が爆発した。


「あぁ~きれいねぇ」


 うっとりしている彼女は、幼い子が宝石でも見つけて喜んでいるようだった。しかし、彼女が招集されているとしても、この状況は腑に落ちない。兵士として訪れたなら、なんで隊から離れてここにいる。


「お前、何しに来た」

「えぇ? ふふ~ん。決まってるでしょ~」


 ヴェロニカはナイフを手元に戻すと、その柄を強く握りしめた。


「秋也くん。凄いの見せてよ」


 この状況で、なんて奴だ。

 彼女は走り出し、俺に向かってナイフを振り上げた。



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