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64.Gossip

 南地区。密林は消え、太陽が照りつける大砂漠。

 オアシスと呼ばれる南の街は、他の街と比較して治安が悪い。暑さでカッとなりやすいのか、街の内部で窃盗や殺人が横行し、薬物が出回っている。かつて俺達と行動を共にし、バーサーカーに殲滅されたグレートウォール第2班は南の出身者たちで、内部の抗争に敗れてグレートウォールに紛れ込んだ。つまりは、あんなガラの悪い連中が大勢いる街ってことだ。

 俺は資料に目を通しながらため息を吐いた。南の資料はどれもこれも碌な情報が書かれていない。向かいに座るジェットが深刻な顔で進言する。


「南の厄介な点はそれだけじゃない。動物アニマル達の戦闘力が高い地域であること、面積が広いこと。案内人なしで砂漠をうろつくのはお勧めできない。ところが、軍人はみな無法者の集まりだと聞いている。仲間の死で賭けをやって喜んでいる連中だ。突然発砲してくる奴もいるようだ」

「なんて街だ。ジェットさんは面識はあるんですか?」

「悪いが、俺はない。拷問官が貿易任務と称して遊びに行っていたから、彼に任せきりだった」


 そこでどんな遊びをしていたのか、聞きたくもない。

 だが、ギークを探し出すには南へ向かう必要がある。俺は取り合えず、南に人脈をもつ人間を探した。グレートウォールの内部にもいるにはいたが、協力は得られそうになかった。

 マスクに話を聞くと、南のキメラ情勢について知ることができた。


「南は砂漠にリデル、離れ孤島にマリオネットがいる。リデルは臆病者だが生き物を殺す能力に長け、マリオネットは冷酷無比の実力者。共にお前達が三害と呼んでビビっている連中だ」

「強いのか?」

「勿論だぁ。共に積極性のねぇ奴等だから人間はまだ絶滅していない、そういうレベルだ」


 それは厄介だが、気になる点がある。そんな情勢の悪い地方にも英雄はいるはずだ。隊舎に戻り、調査を任せていたしろから報告を聞いた。


「南の英雄は3人とも長い間変わっていないみたい。彼等の影響力は他の街と同様に強くて、南の悪い人たちも彼等には逆らえないって情報がありました」

「それだ。英雄に道案内してもらおう。英雄同士ならつてがあるかもしれない」


 ジェットにつてはなく、マスクはもってのほかだ。俺は単身ショットタウンに向かい、街の英雄たちに話を聞いた。

 まずはマッチョナース隊長。相変わらず悍ましい格好で病院に勤務していた。挨拶もそこそこに本題に入ると、彼は渋い顔をする。


「あの三人に会うつもりなの?」

「会わなきゃ前に進めないんで」


 マッチョナース隊長は腕組みをしてため息を吐く。


「"執事"・"軍曹"・そして、"名前のない怪物"。これが英雄の二つ名よ」

「その中でまともに話ができそうなのは、執事、ですか?」

「見かけはね。でも、中身はおっそろしいわよ。ネジが全部外れてるわ。つてはあることはあるけれど、あんまり紹介したくないわね」

「なぜ?」

「私が殺したみたいになるじゃない」


 死ぬ前提で話をされても困る。そこで、「あれ、葉鳥?」という声が聞こえた。振り返ると、点滴棒を持ったセシリアが立っていた。


「セシリア……ケガしてたのか?」

「え? ああ、うん。これね。任務で。気にしないで」


 セシリアは視線を逸らして呟いた。そう言われると余計に気になるだろう。だが、ここは空気を読んで立ち去ることに決めた。

 次にアーサー隊長。彼は大喜びで俺を出迎えてくれた。隊舎に入ると、オットー爺さんとグヨンの遺影がでかでかと飾られていて、流石に引いた。


「南か。悪いが紹介はできないな」

「なんでですか」

「若い頃、まぁ、ヤンチャだった頃だが、南へ領土を広げようと一団でオアシスへ向かったことがある」

「そこで、アーサー隊長は仲間の半分を失ったの」

「今でもあいつらの顔を見ると腹が立ってきてな」


 最後に、ヤクザ隊長。正直に言うと期待はしていなかった。


「つてならあるで」

「本当ですか!?」


 驚いた。同じ街でも親しい人間のいない彼が、他の街に、それも南に繋がりがあるとは。


「俺は目が覚めた時、南から始まったんや。そこでまぁ、何も知らんかった俺を鍛えてくれた奴がおってな。軍曹って呼ばれる英雄や」


 そこで、偶然通りがかったパーカーが話に加わった。彼は俺をヤクザ隊長から離し、耳打ちした。


「噂の軍曹だが、やめておいた方がいい」

「なんでですか?」

「軍曹が今まで鍛え上げて生き残っているのは本間隊長だけとの噂だ」

「それは……でも、この世界ではさほど珍しくもないのでは?」

「違うぞ、葉鳥。任務で死んだとか、そういう話じゃない。軍曹は気に入らない人間を即射殺する」


 それが弟子でも、か。どこが英雄なんだか。

 結論は、つてはあるが、危険度は変わらない。北へ向かっても同じ結果が待っているだろう。仕方がないので、大人しくグレートウォールへ戻り、結果をしろへ報告した。


「落ち込まないで。きっと大丈夫だから」


 慰めるしろへ笑顔を向ける。


「いいさ。俺一人で向かうよ。ギークもきっとそれを望んでいるんだろう」

「ま、待って、危険ですよ!」

「大丈夫だ。俺、結構強くなったし」

「そうじゃなくて……」


 そうじゃないのか、としろを見ると、不安で顔を歪めていた。心配してくれているのか。確かに、俺としろの立場がもし逆なら、一人で行くと言われたら恐ろしくもなる。大丈夫かと心配になる。


「悪い。まぁ、一人で行くっても、街から任務が言い渡されて……」


 そこで、戸がノックされた。戸を開けると伝令者がいた。


「葉鳥隊長、あなたとその班で南へ向かう様に命令です。これは他の二人の英雄にはご内密に。あの二人は例の科学者と相対した時、冷静になれないとの判断からです」


 まぁまっとうな判断だろう。


「俺の班は俺とサポーターだけです。サポーターはグレートウォールの基地に残って支援するので、現場に向かうのは俺だけだとお伝えください」

「……ご存じないので?」

「何を?」

「南は砂漠とその砂嵐の影響のため、支援はオアシスからでないと行えません。だからこそ、あなたとその班で南へ向かう様にお伝えしたのです」


 なんだと。そんな話は初耳だぞ。急いで反論を口にしようとしたが、俺の後ろから元気よく「わかりました!」と声が聞こえたので、俺は何も言わないまま振り返った。


「私と葉鳥隊長で南へ向かいます。任務を無事にこなして、戻ってきます!」


 姿勢よく敬礼をするしろがそこにいた。何を言っているんだ。


「しろ、お前っ」

「ごめんなさい、秋也さん。でも、足手まといにならないよう、しっかり準備してから行きますから」


 そういう問題じゃない。俺は、しろにはもう戦闘地帯に出てほしくない。


「しろに戦いは……」

「できない、そうです。でも、秋也さん一人だけで行ってしまって、もし何かあったらと思うと、私は耐えられないんです。我儘なのはわかっています。でも、許して下さい。傍にいさせて下さい!」


 俺の袖を掴んで、潤んだ瞳でそう言われてしまえば、俺に抵抗する手段はない。


「……ケガ一つでもしたら許さないぞ」


 ぱっとしろの顔が明るくなった。ああ、まったく、いい笑顔だな。




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