53.UL side2
操縦席はマシンの心臓部にあった。大型マシンはちょうど真ん中に二つに分けられたから、私はギリギリで無事だった。とは言っても、今の衝撃は中々のものだったし、元気いっぱいという訳にはいかない。
私は操縦席から外に這い出て、思いっきり伸びをしてからため息を吐いた。
「やれやれ、酷い目にあったよ」
私が彼等に視線を向けると、彼等は全員が似たような表情をしていた。笑える顔だ。
私にショットガンを向けたまま、パーカー君が声を上げた。
「Mr.ギーク! なんであなたが……」
さぁ、なんでだろうねぇ、と返事をしてあげる。
「キャサリンの情報やと葉鳥と行動していた筈やろ」
「姿を見かけないと思ったら……」
本間隊長とセシリア君は武器を構えたまま呟く。隣では、永眠した老人を抱えるアーサー隊長が、私を睨みつけていた。
「いい戦士だったよ、オットー元隊長。全盛期の姿も見てみたかった。それに、アーサー隊長、いや、野盗アーサー……ロケットガン並みの威力を持つ斬撃。恐れ入った」
私が拍手をした瞬間、私の左頬を銃弾が掠めた。状況から考えるとユリヤ君が撃ったのだろう。無線越しに会話を聞いたようだ。そして、本間隊長が木刀の切っ先を私に向けた。
「お前は機械人間の仲間やな?」
「でも、小さいマシンを壊したわ」
「Mr.ギーク、あなたの正体は何なんですか」
「機械人間のスパイか!? どうなんだ!!」
なんだ、何もわかっていないのか。
「仕方がないね、説明してあげよう。あんな連中の仲間だと思われるのも心外だし、全て教えてあげようじゃないか。私の計画を」
私はこの戦地の中央に文明が存在していることに気付いていた。東西は密林の木々、北は吹雪、南は砂嵐で妨害されていたが、明らかにこの中央に光源が存在していたからね。
興味本位で侵入してみたのだが、驚いたよ。私が想像していた以上の文明が用意されていた。正直なところ、グレートウォールや他の街も含めて、研究設備は私が求めるレベルから数段劣っていたからね。この中央都市の設備が欲しくなったんだ。
ところが、その時点で既に機械人間がこの街を占拠していた。旧時代の人間と違って、私は小型監視カメラの存在に気付いていたからね。妨害電波を発する装置を作って街を探索したんだ。それで色々分かったよ。機械人間が為そうとしていること。つまり、大型兵器を搭載したマシンを製造し、街を襲撃する計画。
私としてはこの街の文明が頂ければそれで良かった。機械人間は邪魔だったんだ。しかし、彼等の武力は高いからね。私一人で相手にするには不足だろうと判断した。そこで、機械人間の武力がまだ人間でどうにかできる段階のうち、つまり例のマシンが完成する前に、機械人間と人間の間に戦闘を起こさせようと考えた。
私は機械人間と接触した。彼等は私を道に迷った研究者程度の存在だと見なした。適当に甚振って殺すつもりだったんだろうが、私は取引を持ち掛けた。街に混乱を起こすから、その隙を突いて街を襲うように。その代わり私の命は見逃してくれとね。ついでにロケットガンもくれてやった。
だけど、本当に街に隙を作るだけじゃ、街を潰されかねないだろう? 私は何も人間に負けて欲しいわけじゃない。後々自分の首を絞めることに繋がるだろうからね。だから、街に混乱を起こすけども、ついでに戦力が揃っている状態を作り出す必要があった。
「だから、私は女王を殺害した」
彼女が死ねば街は警戒態勢に入る上に、他街から要人もやってくる。その警護に名のある兵士も街に集まる。簡単に条件は揃う。
目論見は成功したが、想像以上に実力の差があった。あの戦闘では機械人間側が圧勝してしまった。葉鳥秋也がいなければグレートウォールは滅んでいただろう。だが、彼の強さは改めて把握できた。状況を整え、武器さえ与えれば、後は彼が勝手に機械人間を滅ぼしてくれる、そう確信した。だから、寝る間も惜しんで彼にヒートブレイドを渡した。あれの調整は相当難しかったよ。
後は状況。君達軍人に適当に情報を与えて、偵察隊を出発させる。だが、私は偵察隊は全滅するだろうと踏んでいた。だから、偵察隊に葉鳥秋也と関係のあった人物を選ぶよう進言し、彼の復讐心を煽った。ついでに機械人間側にも情報を与え、偵察隊が出発したから今が街を襲う機会だと助言した。マシンの試し乗りでもしたらどうか、とね。マシンの存在を教えることで葉鳥秋也の危機感を煽るのも目的の一つだし、スパイの存在を匂わせ軍との間に確執を作るのも狙いだった。スパイなんて、いやしないのにね。君達の長官辺りを怪しませようと目論んでいたんだけど、必要なかったよ。結局全て成功だった。私が彼を焚きつけようと隊舎に向かった頃にはもう準備万端だったしね。
「私は彼に同行し、助言を与えつつ機械人間を殲滅するように努めた。オットー元隊長に妨害されて多少展開がおかしくなったけどね」
計画はうまくいったし、更なる都市の情報を手に入れようとPCをハッキングしたら、部屋が爆発してね。どうやら、私の行動を怪しんだ機械人間のボスが、私がPCをハックしたら、その部屋が爆発するように仕組んでいたみたいだ。君達のお仲間のハッキングがうまくいっているところを見ると、私だけを標的にしていたみたいだね。
私は生き残ったが、葉鳥秋也にアドバイスをする手段がなくなってしまった。あの爆発で私が生き残っていると彼に知れたら、流石のお人よしの彼でも私が普通ではないと気付くだろう。だから、そこからは別行動だ。私は爆発間際にハックした大型マシンの格納庫まで歩いて行った。ここでも妨害電波が役に立ったよ。警備をしている機械人間を破壊し、大型マシンを奪った。
「後はご存知の通りさ。残りの機械人間を破壊しに来た。そしたら君達もこの街に来ていた。彼はまだまだ利用価値があるが、君達は私にとってどうでもいい存在だ。私の目的に将来的に邪魔になる可能性もある。だから、ついでに殺害しようとしたんだ。残念ながらお一人様でお仕舞いになったけどね」
私の共通感覚は決して鋭くない。平均並みだろう。だが、今目の前にいる彼等の感情はよくわかる。驚き、それ以上の怒り。
「疑問がある……」
パーカー君が尋ねた。
「最初にこの街に辿り着けたこと、女王を暗殺したこと、爆発から逃れたこと、そんな芸当、科学者のあなたにできるとは思えない……」
「どうでもええ!!」
本間隊長が叫んだ。
「そんなことはなんでもええわ。確実なのは、こいつをぼこぼこにすれば全部解決するってことや」
「待って、私がやるわ」
セシリア君が前に一歩進む。全員が意外そうな顔を向ける。
「へぇ、珍しいやんけ」
「あんたと一緒にしないで。彼にはまだ秘密があるわ。パーカーさんの疑問もそうだし、さっきから口にしてる目的も気になる。生け捕りにすべきよ。私の得意分野!」
彼女はブーメランを投げた。成る程、実際目の前にしてみると大した技だなと実感できる。狙いは正確だし、威力も先ほどより数段落ちてる。そう、ただの兵士にしては、優れた技だ。
私はブーメランを素手で掴んだ。
「ふ~ん。成る程、威力調整ができるんだねぇ。珍しい武器だ。しかも、これは君の指にしか反応しないようだ」
「そんな……動物でも気絶させられるのに」
銃弾が飛んでくる。角度からするとフィリップ君か。どういう理由で撃ってきたのか不明だが、私はそれを手のブーメランで弾いた。
本間隊長が近付いていた。その速度、そして何よりも攻撃の際の気迫は鬼のようだ。私は彼の木刀をもう片方の腕で掴んだ。
「あ!? なんやと」
「強いね。巨大な鉈を受け止めただけのことはある。正直、あれには驚いたよ。だけど、私には敵わない。理由があるんだ」
私は身体を回して蹴りを入れた。本間隊長は数10メートル吹き飛ぶ。片腕でガードしていたようだ。
パーカー君が銃を撃つ。改造型ショットガンからネットが繰り出される。捕獲用の網のようだ。私はブーメランを投げてそれを回避する。セシリア君のようにうまくは扱えないが、ネットを避ける程度には活用できる。
アーサー隊長が振りかぶって斬撃を繰り出そうとしていた。おっと、それはまずい。私はハンドガンを取り出し、アーサー隊長の剣を撃った。斬撃の軌道が逸れて遠くのビルが真っ二つになった。
「君達はULを理解していない」
私は走った。その速度はオットー元隊長を叩き起こさなければ対処できないスピードだ。つまり、この場にいる彼等には対処できないということだ。
二人分の狙撃を軽く避けながら、私は本間隊長、セシリア君、アーサー隊長、パーカー君の順番に掌打を繰り出した。全員吹っ飛び転がったが、本間隊長とアーサー隊長は直ぐに立ち上がった。
「へぇ、流石は英雄ってところかい?」
「舐めるな!!」
英雄二人の声が揃う。素晴らしい闘志だ。これから熱い戦いが始まる、そう予感させられた。しかし、その熱は空から降りてきた男の声で冷めた。困ったな。予想よりも速い到着だ。私はその男と視線を通わす。
「ウーヴェ・ランゲルト」
「やぁ、葉鳥秋也」




