52.UL side 1
全く、困ったものだ。
何が困ったかって? 物事が計画通りに進んでいないことだ。完璧に仕立てた筈の計画が、よからぬ原因で二転三転している。
まさか、私がこの大型マシンに乗って自ら前線に出ていかなくてはならないとは。その上、来る筈のない増援が厄介なことこの上ない。元も含めて英雄が3人。残りの連中も英雄クラスの達人たちが揃っている。こうならないように裏から手を回していたというのに。
まぁ、いい。このあからさまな失敗を糧に、私は更なる成長を遂げるとしよう。多くの偉人がそうだったように、失敗は成功への糧でしかない。
「どうなっとるんや、こいつ」
本間つよし隊長が木刀を片手に呟いた。
「俺らより先に仲間のマシンを潰しよった」
残念ながらその発言は誤りだ。彼等と私は仲間ではない。一時手を組んだように見せていたが、全ては私の目的のため。この状況から察するに、彼等もそれを見破っていたらしい。私は演者ではない。演技は決して上手くないということだろう。
「だが、俺達の味方が乗車している訳でもないようだ」
パーカー君、その通りだ。君は中々優秀だ。
私は操縦席でレバーを動かす。マシンガンが作動し、適当に撃った。試し撃ちだ。全員避けた。まぁ、そうだろうなと私は頬杖をつく。ガン、ガンと小さな衝撃が二発。両肩にあるマシンガンに当たった。スナイパーだな。狙いは正確。オットー君とユリヤ君だろう。いつの間にか姿が見えなくなっている。操縦席のレーダーを使えば彼等がどこにいるのか分かる。おっと、使い方はどうだったかな……といじっているうちに、警告音が鳴った。
「アーサー、やれ!」
ロケットガン。直撃すればただでは済まないだろう。仕方がない。私は火炎放射器を起動し、アーサー隊長に向けて放った。
「大丈夫! そのまま準備してください!」
女性の声。セシリア君だな。風を纏ったブーメランが飛んできて、火炎を打ち払った。この出力の火炎を打ち払うとはね。ショットタウンの科学者もやるようじゃないか。
ならば、まぁ、鉈をぶつけようか。巨大な鉈だ。高層ビルも二つに分けられるだろう。凄まじく大きな隙ができるが、振りかぶって……
「隙だらけじゃ!」
本間隊長。生身でとんでもないジャンプ力を披露し、木刀で大型マシンの巨大な腕を叩いた。砕けはしないが軌道がそれて、鉈は高層ビルを破壊した。
「ちっ、硬いわ!!」
彼の木刀……どうやらグレードアップしているな。ただの木製なら大型マシンの腕に叩き付けた時点でへし折れているだろう。普通なら。
そうこうしている間にアーサー隊長のロケット弾が飛んできた。私は鉈でそれを防ぐ。目論見は成功したが予測が甘かった。左の鉈が消し飛んだのだ。
「まだまだ撃てるぞ! 順に潰していこう!」
アーサー隊長のロケットガンの威力を甘く見ていたか。
何もしないで突っ立ていると弾が飛んでくる。スナイパー組の二人と、パーカー君、更にオットー隊長か。全く正確なことだ。中銃でも潰せそうなマシンガンを狙っている。
火炎放射器を使ってみたら、またセシリア君のブーメランが飛んできた。見事に防いでくれるな。
仕方ない。できるだけこの都市を破壊したくなかったが、こちらもロケットガンを使うか。私は二台のロケットガンにULを供給する。一丁だけで十分だろうが、もう一丁は予備だ。
「みな! ロケットガンじゃ!」
「ULを供給している間は隙ができる!」
「撃ちまくれ!」
「俺は斬るで! 銃持ってへんからな!」
おやおや。ULを供給している間は本当に隙だらけだな。マシンガンすら使えない。良いように撃たれまくり、斬られまくり。この大型マシンが頑丈で何よりだ。
「止まらへんぞ!」
「俺がロケットガンの射撃の瞬間にロケットガンを当てる!」
「大丈夫なんですか!?」
ロケットガン対ロケットガン? 面白いね。私はマシンの中だから安全なので、臆することなくぶつかり合おうじゃないか。
私は二台のロケットガンを放った。同時に、アーサー隊長のロケットガンが射出される。3つの弾がぶつかり、大爆発を起こした。周囲の高層ビルの窓ガラスは全て割れて雨のように地面に降り注ぐ。崩落するビルもあった。大型マシンは若干の故障を見せたが動いた。
ひびの入った画面から外を眺める。地面は陥没していた。
「なんて爆発だ」
「私達……生きてるの? う……ちょっと、フィリップ、無線で大声出さないで、大丈夫だから」
パーカー君と、セシリア君の声。一か所から聞こえる。
「お、オットー、さん」
アーサー隊長が壊れたロケットガンを放って、オットー隊長を抱いていた。
「え、オットーさん?」
「な、なにが起きたんです?」
「庇ったんや」
スナイパー組以外の人間は一か所に集まっていた。いや、集められたようだ。壊れた中型マシンを盾にしている。
「オットーさんが走って俺等を集めたんや」
成程ね。爆発の瞬間にそんなことができるなんて恐ろしい人だ。しかし、あの様子ではオットー隊長はゲームオーバーだろう。ロケットガンも壊れたようだし、この大型マシンを壊せる敵はもういない。結局は、私の計画通り。
私は残る鉈を振り上げた。一か所に固まっている今なら、まとめて終わりにできるだろう。スナイパーが狙撃をするも、鉈は止まらない。
「おい、全員動くなや」
本間隊長が立ち上がる。凶器の形相。鬼のような顔だ。
「なんでよ。まぁ、逃げようにも動けないけど」
「諦めるおつもりですか」
「はぁ? 馬鹿言うなや愛人」
「愛人?」
「キャサリンのや」
「ご、誤解だ」
随分余裕があるなと眺めていると、本間隊長は叫んだ。
「男に限界はない!! 見せたるわ!!! このボケがぁ!!!」
振り落とされた鉈は、受け止められた。木刀に。
信じられない光景だった。いろいろ不可思議だ。だが、目の前の光景に嘘はない。ビルサイズの鉈が、何故人間に、その上木刀に受け止められているのか。全く意味不明だね。
「オットーさん……」
超人劇の傍では、美しいドラマが展開されていた。
「アーサー……君に……剣を……返す」
爺さんに不似合いな大きな剣は、元はアーサー隊長の物だったらしい。
「野盗時代の君の、罪を、思い出させる、この剣は、君にとっては、耐えがたいものだろう。だが、もう、君は、十分、罪を、償った」
アーサー隊長は剣を手にした。
「現役時代、もっとも苦戦した相手は、君、だったよ。さぁ」
伝説の"野盗"アーサー、戦え。
思えば、その剣はどこかで見覚えがあった。資料上で、だが。
確か、あれは私がまだこの世界に来た当初の出来事だ。ULを極限まで吸収して斬撃として放つ。今やグレートウォールの標準武器となった剣の元祖。グレートウォールの壁を築き上げた物理学者が設計したといわれる戦争初期の武器。UL消費が激しく選ばれた者しか扱えないと言われた剣。噂では、戦地で最も巨大なコミュニティの野盗が所有していたという。
成る程。アーサー隊長、君か。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アーサー隊長は叫び、脱いだ。セシリア君が短い叫び声を上げ、パーカー君が呆気にとられる。
「な、なんや、男やんけ……」
本間隊長が鉈を受け止めたまま意味不明なセリフを発する。
アーサー隊長は全裸で構え、叫びながら剣を振り上げた。直後に、衝撃、何が起こったのか理解できなかったが、やがて分かった。
「ふざけている場合じゃなかったな。まさか、こんな結末とはね」
大型マシンが縦に二つに切断された。




