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49.Place

 発砲音。ガラスが飛び散る音。複数の足音。


「どこに行きやがった!」

「油断するな、近くにいるぞ!」


 上空から強襲を仕掛ける。ショットガンを装備した機械人間の後頭部にヒートブレイドが突き刺さる。


「くそっ」


 もう一体がマシンガンを俺に向けた瞬間、銃の砲身が地面に落ちた。オットー爺さんが一瞬で接近し、敵の武器を斬ったのだ。残された機械人間は目を見開いたまま、続く俺の一撃を受けて機能を停止した。

 ビルの反対側から「いたぞ!」という叫び声が聞こえた。見ると、ガラス窓の向こう側で銃を構えた三人組が俺達に狙いをつけていた。俺は寄生植物(パラサイトプラント)の壁を直ぐに構築し、ガラスを突き破ってきた弾の嵐を防ぐ。


「ショットガン一人、マシンガン二人……」

「敵もケリをつけるつもりじゃろう」


 続いて、発砲音とは別の地響き。高層ビルの向こう側からマシンが飛んでくるのが見えた。カエルのようにジャンプをして移動している。


「小型マシン二台……」

「地響きの大きさから中型も確認できるぞ」


 全兵力の投入……か? いよいよ敵も本気をだしているのか?

 寄生植物(パラサイトプラント)の盾も限界が近付いている。オットー爺さんは事前に敵から奪っていたショットガンを隠れながら撃った。成る程、銃の腕も高い。爺さんの弾は敵の発砲と重なり、敵の砲身の直ぐ傍で敵の弾に反応して爆発。機械人間三体をまとめて吹っ飛ばした。


「やりますね」

「ダメージはない。転がっただけじゃ」


 充分だ。俺はビルの中を走って通り抜け、体勢を立て直そうとしている三人を次々と叩き斬った。


「今ので最後か」

「いや、残念じゃが、ご到着じゃ」


 小型マシン二体と中型マシンが道路に降りたった。小型マシンの腕にはマシンガンと鉈。中型マシンの腕には最初の一体と同じ装備の火炎放射器。

 全力で走れば逃げ切れるだろうか。いや、マシンの跳躍力は大したものだった。振り切れても距離は大きく離せない。監視カメラの中にいる俺達は逃げることもできず、隠れても無駄。


「仕方ない。戦うしかないですね」

「闘志を奮い立たせろ。憎き敵を思い出せ。戦っている意味を忘れるな」


 分かっているつもりだ。こんなところで死ぬつもりはない。

 そこで、更に大きな地響きが鳴った。大きめの地震かと勘違いするほど。続いて、金属が軋む音。それも半端でなく大きい音。まるで叫び声のようだった。

 遠くから飛んできた巨大な化け物が俺達の前に着地した。驚きだ。それはまるで生きているようだった。それまでのマシンとは違い洗練されたスマートなフォルム。中型マシンと比較しても更に一回り大きなサイズ。二本の脚、6つの腕、丸いヘッドの着いた身体。


「なんだよこりゃ」


 と呟きながら、理解していた。これまで登場してきたマシンはわざわざ小型・中型と名付けられていたのだ。目の前の化け物は大型マシンということになるだろう。


「オットーさん、さっきの檄をもう一度お願いします」

「闘志を奮い立たせても無理なもんは無理じゃ」

「セリフ変わってますよ」


 大型マシンには歴戦の戦士が諦めを口にしたくなる程度の装備が施されていた。6本の腕にはロケットガンが二丁、火炎放射器が二丁、巨大な鉈が二振り、肩口に装着されている小さな武器はマシンガンだろう。スマートなデザインのため操縦席がどこにあるのかも不明。機械人間の最終兵器。街を滅ぼすことだってできそうだ。


「さて、わしは最初からここを死地と決めておった。予定通りの最期じゃ。できるだけの抵抗をして最期を飾ろう。じゃが、君はまだ若い。才能も、力も、目的もある。今はまだその時ではない」

「ええ……まぁね」


 才能や力があるかどうかは置いておこう。だが、その通り、俺には目的がある。しろを助けること。仲間を守ること。しつこいようだが、こんなところで死ぬわけにはいかない。


「だから戦う。簡単な話だ」


 拳を強く握る。リストブレイドに送るULの量を増加させる。刃の赤い輝きが増す。


「それでいいのか?」

「勝つのは俺達で、負けるのはあいつ等だ。問題はありませんよ」


 オットー爺さんは口元に笑みを浮かべる。その時、イヤホンからノイズに交じって声が聞こえた。


「当たり前じゃ、ぼけぇ」


 後方から足音が聞こえた。振り返ると、仲間がいた。

 ヤクザ隊長、セシリア、パーカー、フィリップ、アーサー隊長、ユリヤ。


「なんで……」


 質問には答えず、列から離れて先陣を歩いてきたセシリアは、俺の目の前にやって来て、叫んだ。


「馬鹿!」

「なんだって?」

「馬鹿って言ったのよ!」


 状況が把握できていない中で突然怒られても混乱が増すだけだ。


「そうやぞ。闘いに行くなら俺も連れて行かんかい」

「うっさい! そんな話をしてるんじゃないの! 全部放り出して一人でいっちゃうなんて……」


 何か言い返してやろうと思ったが、セシリアの瞳を見ると何も言えなかった。複雑な感情を感じたからだ。喜怒哀楽全てを含んだ思い。パーカーがショットガンを構えたまま、優しい声音で話しかける。


「心配したぞ。俺も、ここにいる皆も、ここにいない皆も」

「キャ、キャサリン隊長は街の警護をしてる。君との約束の為にって、言ってたよ」


 フィリップの言葉に俺は驚く。約束? しろのことか。


「あんたの部下も来てるわよ」


 GX-7000。ビビりのあいつがここに? 話によると、彼はPCの知識に長けているらしい。ギークが街に残していたハッキング用のウイルスを解析して注入しているとのことだ。多彩な奴だ。


「連中のボスの位置が分かったらしいわ。お前はそこにいきぃ。俺らがこいつの相手するわ」


 相変わらず木刀を振り回している。それで機械の化け物と戦うつもりなのか。


「ま、待ってくれ。俺は……」

「ボスがいる場所にはその靴がないと行けへんねん。そんな特殊な装備してるんはお前しかおらん。お前にしかできんことや」


 そうなのか? しかし、例えそうでもここを皆に任せていいとは思えない。機械に対抗できる武器を持っているのは俺と……そこで、俺の肩に手が置かれた。


「行け、葉鳥」

「ここは任せて」


 アーサー隊長とユリヤ。グヨンのことを乗り越えたのか。彼らはオットー爺さんと視線を交え、小さく頷いた。


「なに、信用できないの? 葉鳥、私達のこと、信じてないの?」


 ブーメランを両手にとったセシリアが首を傾げる。真っすぐ見つめた視線は強く燃えている。ふと目をそらし、彼女の手元を見るとブーメランのランプは三つ点灯していた。

 ああ、分かったよ。行ってやるさ。


「GX-7000、ボスの位置を教えてくれ」

「隊長! はい……敵の位置は……」


 街の外周を常に走り続けているリニアモーターカーの中。

 それがあいつの居場所だ。



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