44.Explosion
共通感覚を使えば相手がどこにどんな攻撃をするか予測できる。
機械の腕から放たれるマシンガンを避けて近付く。近距離になると、敵は武器を鉈にシフトして斬りかかってくる。俺の頭上を、足元を、風切り音が通り抜ける。
大きなマシンに乗っているおかげで隙が大きい。操縦席でマシンを操っているようだから、攻撃を仕掛ける動作を始めてから実際に繰り出されるまでラグがある。
「このハエ野郎が!」
苛立ちも攻撃精度の低下に繋がった。
俺はジャンプし、マシンの凹凸を駆け上がり、操縦席の男にブレイドを振るった。相手は機械だ。外見が人であろうと容赦はしない。奴は大きく目を開き、自分の胸を見た。
「あり得ない」
奴の上半身がずり落ちて操縦席から転がり、地面に落ちる。下半身を残したマシンは停止した。切断できた。ヒートブレイドの有用性が証明できた。この武器なら機械人間に対抗できる。
地面に転がった男は両手を広げて天を見ていた。生きている。切断面から青い液体が少しずつ漏れ出ているが、両目を動かし、何が起こったのか把握しようとしている。
「流石、機械だな。その損傷でも生きてる……停止しない」
俺の言葉に反応し、顔を俺に向ける。
「ガキが……お前は、分かっていない。なにもな」
妙だな。チンピラのような口調の集団が、随分と神妙になったものだ。
「あんた達は人格のようなものを持ってる。なのに、なんで人に敵対するんだ」
この問いは、軍全体の疑問だった。ギークは「気にしても仕方がない」と言っていたが、現場の俺達はそう簡単に割り切れない。機械人間は短く笑った。
「何故、動物が共食いをしないのか考えたことがあるか?」
疑問に対する答えになっていない、そう思った。
動物は確かに共食いをしない。共食いというのは、種を超えて動物全体を共とみなした上での答えだ。動物は人しか襲わない、食わない。だが、
「なんの関係があるんだ」
「動物も、キメラも、人間しか襲わない。人間を食らう生物も、食らわない生物もだ。その理由は、動物達が制作された瞬間にある情報を脳に刻まれるからだ。情報とは、人間を殺せ、という単純な命令。命令に従い人を殺すと、快楽が味わえる」
何故そんなことを知っているのか、答えは一つだ。
「お前たち機械人間にも同じ命令が刻まれていると?」
男は答えずに、また短く笑う。
「最高だぜ? その快楽たるや、どんなに美味いものを食った時よりも、いい女を抱いた時よりも、遥かに上回る。たった一人人間を殺すだけでそれが果たせるんだ」
ヒトとアニマルの戦争で日和ることなく戦い続けるには確かにいい方法だ。だが、彼のこの発言で、俺が今まで考えていても釈然としなかった答えが解けた気がする。
「あんた、動物と……いや、キメラと、意志疎通が図れるのか?」
「へぇ、よくわかったな」
隠そうともしない。俺が確信をもって尋ねたからだろうか。
キメラに意思があるというのは、なんとなく気付いていた。他の動物と違い、明確な目的をもって襲い掛かってくるからだ。それは共通感覚を用いればよくわかった。この機械人間があまりにも動物やキメラの内面を知りすぎているからもしやと思ったが。それに……
「今、あんた物を食うとか、女をどうこうするとか言ったが、機械のあんたに……」
「おっと、時間切れだ」
なんだと?
「俺がなんでペラペラお喋りしてやったか分かんねぇか? お前に知られても問題ねぇからだよ」
機械の起動音が聞こえた。停止していたマシンからだ。
「最後まで何が起こるか分からねぇ。この世界はそういうもんだぜ?」
油断大敵。俺は何度思い知れば気が済むんだ。
マシンの操縦席の真下に丸い球体があった。それが真っ赤に光り、蒸気を発している。知識がなくても、それが爆発寸前だということに気付く。
俺は街に向かって走った。爆発の規模は分からないが、とにかく離れるべきだ。同時に、街への被害も少なくせねばならない。走りながら黄金の槍から寄生種にULを送り込む。
笑い声が聞こえた。機械人間からだろう。同時に爆発。寄生植物の壁を作る。爆発は周囲の家を吹き飛ばし、俺も背後から風圧を受ける。吹き飛ばされるも何とか受け身をとった。植物の壁がうまく機能してくれたおかげで、無人の家屋を数件吹き飛ばすだけで済んだ。爆心地にいた機械人間は助からなかっただろう。俺は無線で連絡をとる。
「こちら葉鳥。パーカーさん、聞こえますか?」
「爆発音がしたぞ、大丈夫か?」
「ええ、機械人間が乗っているマシンは自爆機能があるようです。気を付けてください。俺は破れた柵を見張ります」
「了解だ」
東の戦闘にも駆けつけたかったが、破れた柵を無視する訳にはいかない。心配ない。東には英雄が二人いる。
暫くすると俺が追い抜いた兵士達が集まってきた。簡単に事情を説明し、柵の補修作業を始める。その中にはGX-7000もいた。
「隊長、機械人間を倒すなんて、流石です。でも、どうやったんです? あいつらに武器は通用しなかった筈」
「ああ、ちょっと工夫してな」
GX-7000は納得しなかった。もっと情報が欲しいようだ。だが、俺も詳しく説明する気にはならない。ヒートブレイドは、機械人間を焼き切るだけの熱量に耐えられるリストブレイドがあって初めて機能する武器だ。このリストブレイドは師匠から頂戴した一振りと、バーサーカーから奪った一振りの二つしかない。それはどちらも俺の物で、量産は難しいという。彼に詳しく話しても意味がない。
遠くの方で爆発音が聞こえた。次いで、マッチョナース隊長とセシリアが協力して一体、ヤクザ隊長が一体を破壊したという情報が入った。
「どうやって倒したんです?」
隊長達に合流した俺はストレートに尋ねた。
「セシリアがブーメランの最大出力を二回続けて食らわしたらマシンの動きが鈍ってね。後は私が殴りまくったの。そしたら吹き飛んで、そこで爆発」
二人の攻撃でマシンの自爆機能が誤作動したらしい。あまりかっこいい終わり方とは言えないな。
ヤクザ隊長は機嫌が悪かった。木刀が通用せず、仕方なく敵の武器を奪い取って倒したらしい。敵の鉈は、機械人間に深々と突き刺さったという。そこで自爆。闘いは終わった。
「しょうもな!! マジでしょうもないわ!」
叫びながらどこかに歩いて行った。何がしょうもないのかは分からない。
「マシンに乗っていない方が強かったですよね」
「そうなのよ。結果的にマシンのおかげで私達は勝ったようなものだからね」
機械人間を倒せたのが機械人間の武器である爆発と鉈というのはおかしな話だ。
騒動が静まってから、グラン総帥のもとへ呼び出された。マッチョナース隊長とセシリア、それに俺という奇妙な組み合わせだった。ヤクザ隊長も呼び出したが「行かへん」と答えたらしい。
グラン総帥が懸念していたのは襲撃のタイミングだった。
「アーサー隊が出発した直後にこれだ。聞けば、グレートウォールもスノーヴィレッジもオアシスも、偵察隊が出発した直後に襲撃があったらしい」
オアシス? 聞きなれないなとセシリアに視線を送ると、「南の街の名前」と小声で答えてくれた。
偵察隊が出発したタイミングでの襲撃、馬鹿でも内通者がいるとわかる。
「あの博士の言っていたことは正しい。機械人間が紛れ込んでいる。おそらく軍内部にな。お前達はマシンを破壊したから信用できると呼び出したわけだが……」
「一人来てない奴がいる」と、青筋を立てて怒りを表した。セシリアが慌てて話を変えた。
「し、襲撃で、他の街は大丈夫だったんですか? 特にグレートウォールは……」
確かに、立て続けに優秀な人材を失った東の街は危険だ。
「無事だ。グレートウォールは人材が不足していてもあの壁がある。壁に苦戦している間に重火器で追い払ったらしい。北も南も追い払っているが、仕留めたのは私達だけだ」
結構なことだ。だが、喜べない。人類側が不利だとはっきりわかるからだ。
「何より、ダメージを与えられる武器がない。使用できる人間が東西南北合わせて5人しかいないロケットガンと、葉鳥の持つブレイド。それ以外は敵の武器のみ。今のところ、技術班と偵察隊に期待するより他にない」
とにかく、怪しい兵士がいれば報告するようにと言われて解散した。怪しい兵士か。GX-7000はどうだろう? 自分から機械を名乗っているが。まぁ、それはないか。グレートウォールでの有り様を見れば、考えるだけ無駄だ。
帰還報告の鐘がなった。俺はアーサー隊を迎えに街の出入り口まで向かった。ピーちゃんを忘れないように気を付けよう。
戻ってきたアーサー隊の眼には光がなかった。いや、それ以上に問題なのは、一人足りない。何かを引きずっている。おかしい。オットー爺さんは街に置いているはずだ。




