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43.Toy

 直ちに偵察任務を実行せよ、との指令が下された。

 北は英雄"透明眼(ステルスアイ)"の部隊、東は英雄候補筆頭の男が引き連れる部隊、俺達西側からはアーサー隊、更に南からも応援が来るようだ。目的はただの偵察だが、英雄だらけの部隊構成を見るに、人類側の本気度が窺われる。


「何が待ち受けているのか、誰も知らないからだ」


 パーカーが言った。危険な任務だが、仮に人類が中央を抑えれば、街同士の交易は今よりも遥かに容易になる。そうなれば当然、人類は圧倒的に有利な立場になるだろう。

 アーサー隊が街を出るとき、俺は見送りに行った。驚いたのは、三人ともオットー爺さんの棺を持っていなかったことだ。


「オットーさんの棺はどこです? まさか死……」

「今回は偵察だからな。足手まとい……いや、オットー先生は街に待機だ」


 そうか。ようやく気付いたんだな。俺はユリヤとグヨンに目を向けた。


「気を付けて。無事を祈ります」


 二人とも笑顔を見せる。


「留守は任せたわよ」

「い、い、いい情報、持って帰ってくるね」


 喋りながらグヨンが近付いてきた。長い髪が風に揺れている。すっと、俺に生首のぬいぐるみを差し出す。いつの間にかバージョンアップされており、よりリアルな生首になっていた。


「えっと、なんだ?」

「ぴ、ぴ、ピーちゃん、預かってて」


 見ると、彼女の武器の鎌は専用の鞘に収まっていた。そんな便利なものがあったのならば最初から使えばいいのに、という常識的な発言は、発しても無駄だと理解している。


「いいのか?」

「う、う、うん。今回は邪魔になりそう」


 今回は? いつもだろう。俺は本心を隠し、笑顔で人形を預かった。


「安心しろ、大事にしておく」


 グヨンはほっとしたように隊長の元へ戻った。俺は人形と目を合わせる。リアルな目玉だ。それにしても、お前、ピーちゃんっていうのか。

 街の警備中、セシリアとヤクザ隊長に会った。なんだかんだでこの二人、一緒にいるのをよく見かける。大抵口論の最中にいるが、仲がいいのか悪いのかよく分からない。


「あ、葉鳥、調子はどう? うわっ」


 俺を見かけて笑顔を見せ、俺が手に持っている物に気付いて顔をしかめる。先ほど同じ反応をパーカーがしていた。


「どうしちゃったのよ、あんた」

「あかん、目を合わせたらあかん。間違いなく呪われるで」


 ヤクザ隊長の真剣な声音を初めて聞いた。


「知り合いから預かったんだよ。俺のじゃない」

「どんな知り合いよ」

「アーサー隊のグヨンだよ。知ってるだろ」


 ああ、あの子、と納得したようだった。納得はしても、俺の近くに寄ろうとしない。

 二人と別れ、街を歩いていると、高台の近くでフィリップに会った。


「やぁ、葉鳥くん」

「おう、フィリップ。見張りか? スナイパーは大変だな」


 太った身体で頷きを見せた後、彼は俺の持つ人形を見て「ああっ」と飛び上がった。正直、面白かった。


「悪いな。驚かせるつもりはないんだが……」

「妙な悪戯しないでよ。ところで、さっきさ、彼女と何の話してたの?」

「彼女?」

「ほら、あの、セシリアさんだよ。さっき話してたろ?」


 なんで知って……と言いかけて察した。


「お前な……」

「ち、違うよ! 僕は、僕はストーカーじゃないよ!!」


 そんなこと言ってないだろ。自白しやがって。全く、なんの見張りをしているんだ。

 俺がため息を吐いても、フィリップは「で、なんの話をしてたの?」としつこかった。うるさいな。ピーちゃんを放り投げて黙らせてやろうか、と思った。

 その時、爆音が聞こえた。遠くの方、街の外側辺りで。


「い、今の何!?」


 フィリップが叫ぶ。俺は考えをめぐらす。


「今この高台で見張りをしてるのは誰だ?」

「え、あ、多分、ディオニシオス先輩だと思う。周波数は……」


 俺はその何とか先輩に連絡をとる。彼は冷静だった。


「東の方で煙が見える。金網のあたりだ」


 東だと? まずい。今、街は中央地帯に注意を払っている。つまり、ショットタウンは西側に戦力を置き、東は手薄だ。しかし、本拠地から反対方向に攻撃が起こるということは、例の連中とは関係ないのか?


「フィリップ、俺は全速力で現場に駆け付ける。お前はできるだけこの情報を広めろ」

「わかった」


 俺はジェットブーツを起動して走った。街を駆け抜ける。途中多くの兵士を追い抜き、向かってくる住民たちを避けた。

 走っている最中、連絡があった。


「葉鳥、聞こえるか? パーカーだ」

「はい、聞こえます」

「フィリップから連絡があった。今俺達も向かう」

「いえ、待ってください。こっちは俺だけでいい」

「なんだと?」


 西の警戒を手薄にするべきではない。特に、あの機械を相手にするのにはマッチョナース隊長やパーカーは必要な人材だ。この騒ぎが揺動の可能性もある。そう伝えると、彼はしばらく黙った後、わかったと答えた。


「だが、お前一人で大丈夫か?」

「途中何人か追い抜きました。一人じゃありません」

「いいだろう。だが、英雄格はお前だけだ。任せたぞ」

「了解です」


 俺はショットタウンの東の果ての家にジェットブーツで駆けあがり、上から状況を確認する。奥には密林、そして、電気柵があった。電気柵は破られており、煙が立ち上がっていた。

 侵入を許してしまった。しかし、柵を破るには相当威力の高い武器が必要な筈だ。そんなことが可能なのはキメラか、例の連中か。


「おいおい、どっかで見た顔だな」


 声、そして瞬間、俺が立っていた家の屋根が爆発する。声が聞こえた瞬間に家から飛び降りたため問題はなかったが、この手口、やはり奴等だ。

 敵の姿を確認して驚いた。ロボットだ。機械仕掛けのロボットに人が乗っていた。トラックサイズの体躯に、刃や銃など様々な武器が装備されている。


「お~い、どこ行った? まぁ、いいか。片っ端から破壊してやれば」


 周囲の住民は避難している。爆音が鳴ってから電気柵が破られるまで時間があったのだろう。その間に逃げたのだ。電気柵の頑強さに守られた。だが、家屋を破壊されるのも困る。俺は奴の前に姿を現した。


「やっぱりてめぇか。ボスが気に入ってたぜ。中々根性のあるやつだってな」


 嬉しくもない評価だ。次いで、連絡が入った。やはり、西側から攻撃が始まったようだ。状況は同じ。機械に乗った機械人間が暴れている。その数は三体。西には英雄が二人いるとはいえ、油断できない数だ。


「まぁ、俺の手にかかりゃてめぇなんざ……」

「どうやってここまで来た?」

「あ?」

「お前たちのアジトは割れてる。中央地帯だろう? そこからここまで、随分と長い距離を移動しているな。その間に俺達兵士が気付かないなんてのは考えられない。だから尋ねた。どうやってここまで来た」


 奴は間をおいて笑い声を上げた。


「そんなこと聞かれて、素直にしゃべると思うか? ああ?」


 奴は武器を俺に向ける。奴が乗車している機械に付随したマシンガンだ。

 弾が放たれるが、俺は目の前に植物の壁を作って防いだ。


「またそれかよ」


 俺は黄金の槍を片手に構えた。


「前の俺と一緒だと思うなよ」

「なんだと?」


 奴はまた笑った。嘲笑だ。


「何が違うってんだ、ガキが調子に乗ってんじゃねぇ」

「一週間、お前達が俺達に与えた時間だ。対策は講じてある」

「たかだか一週間で……」

「俺には……人格はともかく……強い味方がいるんでな」


 右腕のリストブレイドを起動する。

 俺のULを吸収し刀身が熱を持ち出すと、赤く光る刃となる。

 

「ヒートブレイドだ。覚悟しろ」



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