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42.Suspicion

 ジェットブーツ出力50%。今の俺の全力だ。

 俺は走った。家屋の背後に回るが、家はガトリングの連射を受けて数秒で崩落した。直ぐに走り始め、蔓の壁を生成する。しかし、壁は一瞬で粉微塵になった。

 このままではまずい。

 俺は右腕のリストブレイドを起動し、奥の手であるブレイドの射出を行った。このギミックは以前から改良しており、射出したブレイドにワイヤをセットしている。それを奴等の部下の一人に絡ませ、すぐさま回収、部下を盾にした。

 最初は暴れていた部下だがしばらくガトリングの連射を受けると動きを静止させた。奴等のボスは部下の一人が盾にされても攻撃を止めなかった。それから数秒してから、ようやく連射は終わった。


「そんな手で生き残るとはなぁ」


 マスクの男はせせら笑っていた。

 俺はワイヤをほどき、倒れて動かなくなった男の背面、銃撃を受け続けた面を見て、驚いた。機械だ……抉れた皮膚の奥は金属の骨格に、無数の管。


「人間じゃなかったか」


 銃弾を受けても、ブレイドで切っても傷一つ付かなかった理由が判明したわけだ。こいつら、皮膚の下は金属、それも相当に硬度が高い物質でできている。

 ガトリングの連射でようやく動きを停止させた。倒せないわけではないということだが、俺が盾にしたこいつが周囲を壊滅させるほどの銃弾の嵐を受けても数秒は動いていたところを見ると、ロケットガン並みの武器が必要ということだ。それがまだ30体。


「絶望したか? 小僧。人間では俺達は止められない」


 ガトリング砲が再び俺に向けられる。


「大人しく死ね」


 俺は砲身から弾が放たれる刹那、ガトリングに向かってダッシュした。弾が俺の身体に到達する前に、ジャンプして弾を避ける。当然、マスクの男は俺を追って砲身を上げる。ジェットブーツを使って空中を蹴り、常人ではありえない動きを再現する。速度は俺に分があった。

 マスクの男の背後に降り立ち、リストブレイドで奴の背中を切りつける。ダメージはない。感触でわかる。敵の部下達が俺に襲い掛かってくるので、俺はジェットブーツで蹴りつけて奴等を吹っ飛ばした。勿論、これも大したダメージはないだろう。だが、距離をとれば銃撃が飛んでくる。そうなれば勝ち目はない。せめて近距離戦に持ち込まねば勝機すら得られない。


「中々だが……小僧、所詮は人間」


 マスクの男の拳が飛んでくる。隙のない優れた動作。威力も高いだろう。俺は奴をブレイドで斬りまくったが、おそらく表面を切っているだけで内部にダメージはない。


「限界がある」


 拳を受け、俺は後方に吹っ飛ぶ。その隙に奴はガトリングを俺に向ける。刹那、俺は仰け反りざまに剣を抜き、斬撃を繰り出した。ガトリングは真っ二つに分かれる。

 所有者より武器の方が硬度がもろい。そんな不思議な現象が起きている。


「小僧……いい加減に……」


 マスクの男の苛立ちが伝わる。その時、「ほあたぁ!!」という気合の入った声が聞こえた。どこからか飛んできた小柄な男が、大柄のマスクの男の前に降り立つ。


「なんだ、お前ぁ」

「グレートウォールの英雄、"達人"ジェット。さぁ、早く構えろ!!」


 「はい! はい! はい!」というリズミカルな掛け声とともに、壁の最後の英雄は男に打撃を加え始めた。機械の男にダメージはないだろう。しかし、その速度と正確な打撃は、自分より二倍ほどの巨漢を後方に吹っ飛ばした。


「待たせたわね! 葉鳥!!」

「よく一人でもたせた!!」


 マッチョナース隊長とアーサー隊長の声がイヤホン越しに聞こえてくる。パーカーとフィリップ、ユリヤとグヨンの姿もある。流石にオットー爺さんの棺は置いてきたようだ。


「隊長! あいつらはマシーンです!!」

「何言ってんの?」

「どうした、葉鳥!?」


 迅速に重要な情報を伝えたのに、理解されていない。


「だから、あいつらは機械です。火力のある武器でないとダメージを与えられません」

「葉鳥、お前……」

「つ、つ、つ、疲れてるんだね」

「そりゃ、一人で頑張ったんだもの。仕方ないわ」


 アーサー隊に同情された。くそっ。違うんだ。俺はまともだ。あんたらよりもまともだ。わかってくれ。


「見ろ! 奴等の一人だ!! どう見ても人間じゃないだろ」


 俺はガトリングの餌食になった連中の一人を指さした。無線越しに驚きの声が聞こえる。


「なるほどね。でも、関係ないわ。ぶっ潰すだけよ」


 マッチョナース隊長はジェットに加勢し、残りの俺達は部下を相手にした。流石に英雄三人が揃えば、五分以上に渡り合える。

 フィリップとユリヤの狙撃、グヨンの強襲、パーカーの射撃、俺は蔓の壁で援護を務め、隙が出たところにアーサー隊長の威力を抑えたロケットガンを撃ち込む。だが、奴等は倒れない。ロケットガンが直撃しても、表皮がはがれてマネキンに眼球を付けたような外装をむき出しにするだけで、動き続けている。

 驚いたのは、リーダー格の男。マッチョナース隊長と拳法の達人と称されるジェットを相手に肉弾戦で戦い続けている。いくら硬度の高い身体を持っているからと言って、二人の動きについていけるとは、只者ではない。

 戦闘が続き、誰一人倒れない様子を見て、マスクの男が叫んだ。


「もういい!! 行くぞ!!」


 その声を聴いて、全員がおずおずと引き下がり始めた。


「おい、待て!!」


 アーサー隊長が叫ぶと、そのうちの一人がけっと吐き捨てた。


「待て、だと。戦い続けて損をするのはてめぇらだぞ」


 残念ながら、その通りだろう。闘いが長引けば、疲労がたまるのは俺達だ。いつかこの均衡は崩れる。戦闘場所は街中であるし、敵が引いてくれるのならば、ひとまず文句はない。


「キャサリンさん、あいつらは……」


 ジェットが隊長に話しかけていた。派手な叫び声とは違い、落ち着いた低い声音だ。


「想定外にもほどがあるわね。なんなのかしら……」

「女王暗殺に関係あると思いますか?」


 「さぁ」とリアクションする。

 味方の射撃で動かなくなった一体はすぐさまギークの研究室に送られた。ギークは嬉しそうだったが、被害の大きさを考えると今回の一件で喜んでいるのは彼ぐらいのものだろう。

 ショットタウンに戻る期間は延長され、ギークの研究結果が出るまでグレートウォールに留まることになった。その間、俺達は死体の回収、街の復興の手伝いを行う。慣れたものだ。慣れたくはないが。


「さて、摩訶不思議な機械生命体を解析するのに一週間で終えるなんて相変わらずの天才ぶりを発揮した私だが、状況は芳しくない。実にね」


 うきうきと話すギークに「状況は悪い」と言われても、実感はわかない。

 俺達は王宮の一室の会議室に集められていた。グラン総帥とマッチョナース隊、アーサー隊、俺とG-x7000、北の要人数名に、グレートウォールの要人数名、ジェット、兵隊数名の、中規模な会議だ。


「この生命体は、どうやら現存する最高硬度の素材で身体を構成されている。非常に稀少な物質だ。30体分もそれがこの戦地に送り込まれるとは驚きだが、ともかく、こいつらを倒せる武器は現状我々の手にない」

「ロケットガンでもか!?」


 アーサー隊長が叫んだ。


「ULの豊富な人間の、ロケットガンのフルパワーならば、おそらく可能だろう。しかし、戦闘中にそれだけのエネルギーを貯めるのは現実的じゃあない」


 グラン元帥が「奴等はなんなんだ?」と尋ねた。


「正確には分からないね。少なくとも、今までこの戦地で提供されてきた技術からは桁違いに進歩したテクノロジーを使ってる。意思のある機械なのか、プログラムに沿って行動しているのか、まぁ、そこはさほど問題じゃない。人間の外観を装って、人の言葉を使っているが、行動は明らかに敵対的だ。立ち位置としては、動物(アニマル)側、つまり人類の敵だろう」

「見かけ、技術的には、私たち側っぽいのにね」


 そうだ。この戦争は、人類と動物の戦いではなかったのか。


「未来人が何を考えているのかなんて、私達には把握しようがない。考えても仕方がない。どう思おうが、あの機械達はこれからも人間を襲い続けるだろう」

「奴等の拠点はつかめたのか? あれだけの数だ。どこかに拠点があるはずだ」


 パーカーが意見すると、ギークはふっと笑った。


「静止した機械の頭を解析……うちのコンピュータのスペックが劣りすぎていて困難を極めたが、君達はそこだけは把握したいだろうから手を尽くして……判明したよ。これが、面白い結果でね。長年のこの戦地の謎がようやく解けて……」

「ああ、頼むから早くいってくれ」


 グラン総帥がため息交じりに言った。


「地図の空白さ。中央だ。今まで人間側が何度も遠征に行き、誰一人帰って来なかった、島の中央」


 東西に密林、北に雪原、南の砂漠。そして地図で唯一空白となったままの地点。


「奴等がこの戦争にいつから参加していたのか不明だが、中央地帯に百年も潜んでいて、やってきた人間を軒並み殺していたとしたら、その危険度がわかる。しかも、今になって何故か奴等は街を襲い始めた。目的は分からないが、人間側にとって良くないことが起こるだろう。私は……興味が尽きないがね」


「最後に聞かせてくれ……」


 ジェットが重い口を開く。


「奴等は女王暗殺に関係はあるのか?」

「ないだろう」


 あっさりと答えて見せる。


「そんな真似ができるなら、わざわざ乗り込んで来やしないさ。ひっそりと街の中の人間を全員殺せば済むだろう? 奴等はおそらく混乱に乗じて襲い掛かってきただけだ」

「まて、それなら、奴等はグレートウォールの混乱を把握していたということか?」


 俺が口だすと、ギークは笑った。


「そうだよ。奴等は見かけには普通の人間に見えるからねぇ。しかも戦争開始初期から参加していたと仮定するなら、全ての人間に機械容疑がかけられるわけだよ」



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