41.Mask
ロケットガンの弾速は拳銃よりも遅い。だからこそ、弾が放たれてから回避する時間はある。だが、今回は突然街に撃たれた。
俺は拳銃を引き抜き、放たれたロケットガンの弾を狙って撃った。弾を弾で撃ち落とす。この世界に来た当初、師匠が当然のようにやって見せた技だ。弾を見切る速度、弾道の道筋の予測、射的の速度、正確な射撃、全てが優れて初めてできる。俺も何度か真似をしたが、上手くいくはずはなかった。
だが、今回始めて成功した。ロケットガンの一つの弾に俺の撃った弾が直撃し、俺達の頭上で爆発を起こした。強大な熱風と衝撃が頭上から俺達を襲う。残念ながら残り二つの弾はそのまま街の方向へ飛んでいき、爆発した。後方からの衝撃、瓦礫と土ぼこりが舞う。一体今の攻撃で何人の住民が死んだか。考えたくもない。
「ははぁ、さっさと起き上がらねぇと、死ぬぞ」
野盗達はロケットガンを仕舞い、全員が銃を手に持った。拳銃、ショットガン、ライフル、そして、見たことのない連射型の銃、サブマシンガンだ。
ULを弾丸に生成し撃ち放つこの世界の銃で、連射型の銃は存在していなかった。直ぐにULを使い果たすことになるからだ。だがこいつらはそれを持っている。
「撃て」
マスクの男が非情に言い放った。このままでは、衝撃で倒れた兵士達は全滅だ。弾丸が放たれる刹那、俺は槍を手にし、地面に突き刺した。地面を通して蔓の壁を生成し、野盗と兵士の間に壁を作る。だが、この短時間で頑丈な壁を広範囲に作り出すことなどできなかった。不出来な蔓の壁は銃の連射で簡単に砕かれ、その合間に退避できなかった兵士はいいように撃たれまくった。赤い爆発が至る所で起こる。
「葉鳥、葉鳥、無事?」
マッチョナース隊長の声がイヤホン越しに伝わる。俺は屋敷の壁に身を屈めて潜んだ。
「俺は大丈夫です。皆さんは?」
「ショットタウンの軍人に負傷者はいないわ。私達はグラン総帥を安全な場所に逃がす。あんたは……」
「野盗を追い返します」
「任せたわよ。連中。野盗のわりにいい武器を持っているわ。気を付けて」
そうだ。ロケットガンなんて、軍人ですら所有制限のある武器をなんで奴等が持ってる。
俺は壁から顔を出し、拳銃を撃った。野盗ども、軍人からの反撃に些かの恐怖も持っていない。隠れる場所すらない壁の内側に入り、とにかく銃を撃っている。
グレートウォールの軍隊が反撃に銃を撃っても、奴等一人も倒れやしない。俺は正確に狙いを定め、一人の頭に向けて引き金を離す。相手が人間でも容赦はしない。
ガンっと、一人の頭に当たった。殺した、と思った。しかし……
「いって」
「おいおい、人間なら死んでたぞ」
「わりぃ、くっそ、腕のいい奴がいるな。何処だ?」
俺は即座に壁に身を隠した。なんだ、あいつら。
よく見たら、グレートウォールの兵士の銃弾だって当たっている。当たっているのに誰も倒れていない。何故か軍人の犠牲者だけが増え続ける。ワンサイドゲームだ。
「よおし、あらかた殺したかぁ。進むぞ」
奴等、進行を始めた。まずい、このままでは蹂躙される。相手の正体がただの野盗ではないことは分かった。しかし、その情報だけではこの展開は覆せない。
「へへっ、なんだこいつ」
野盗の声が聞こえた。言動はただのチンピラだ。俺は顔を出して確認する。驚いた。野盗に絡まれていたのはG-X7000だ。彼はへたり込み、ぶるぶると震えていた。
「おい、お前、兵士だろ? 戦わなくていいのか?」
「お前の味方はみんな死んじまったぞ。うん? お前も死ぬか?」
G-X7000は「あ……あ」と声にならない声を上げている。くそ。自分の設定を忘れたのか。結局ただの人間じゃないか。当たり前だが。
俺は壁から飛び出し、拳銃を撃ちながら奴等の集団に向かって走った。やはり、弾は確実に当たっている。しかし、奴等の身体は破裂もしない。血も出ない。
「なんだ。生き残りがいたのか」
「どうします~ボス」
撃たれているのに平然と作戦会議をしている。有り得ない状況だ。
「何を言っている? 殺せぇ。それだけだぁ」
「へへっ。りょうか~い」
銃口が俺に向けられる。瞬間、俺はジェットブーツの出力を上げた。驚いた奴等の目の前でジャンプし、空中で銃弾を奴等の頭上から浴びせながら、G-X7000のもとへ降り、彼を掴んで再び走った。
後方から銃弾が放たれる。俺は槍から直接蔓の壁を生成し、走りながらそれを防いだ。
「あ~あ、逃げちまいやしたよ」
「ボス~」
「ほっておけぇ、俺達の狙いは最初から一つ」
グレートウォールの蹂躙、そう聞こえた。
このままでは本当にそれが叶えられてしまう。俺は適当な距離まで走り、震え続けている部下を下ろして、連絡を取った。
「マッチョナース隊長、聞こえますか」
「こちらキャサリン、なに?」
「奴等、進行を始めました。目的はグレートウォールの蹂躙……」
「あんたがいて、止められなかったの?」
非難の声ではない。驚きの声だ。
「奴等、俺達の攻撃が効きません。銃弾が直撃しても気にも留めていない」
「人間なの……?」
「わかりませんが、ただの人間ではない。間違いなく」
強い弱い以前に、攻撃が効かないのならば勝負にもならない。
瞬間、また爆発音が聞こえた。遠くの方から突風がくる。ロケットガン、また奴等が撃ったのか。
「私達は今、街の住民の避難に力を向けているわ」
当然、それも必要な任務だ。しかし、このままでは壁の中に安全地帯がなくなる。
「仕方ありません。俺が何とかして食い止めます」
「あんた以外に兵士は近くにいる?」
俺は蹲っているG-X7000に目を向ける。
「……俺だけです。しかし、それでいい」
「わかったわ。できるだけ食い止めて。私の隊もアーサー隊もできるだけ早く駆けつける」
通信を切った。しかし、勝算のない戦いに向かうのは足が重い。そもそも相手の正体すら不明だ。
「おい、G-X7000、立てるか?」
「ひぃっ」
声をかけただけでこの有り様か。最初は皆こんなものか。俺もこうだったか? 普段のギャップで余計に頼りなく見える。
「君は逃げ遅れている住民に手を貸しながら、壁の東の方へ逃げろ」
「た、隊長は……?」
「俺は別任務だ。行け」
彼はゆっくりと歩き始めた。普段の手足を振り上げる動作を完全に忘れている。
俺はジャンプして住宅の屋根に上がり、状況を確かめた。五つの巨大な穴と、火の手の上がる街。目を凝らして奴等の位置を確かめ、屋根伝いに走った。
奴等のもとへ到着すると、野盗達は兵士を撃ち殺しながらまっすぐ進んでいた。リーダー格のマスクの男は兵士の首を掴んで持ち上げている。
「どうだぁ。まだ生きたいかぁ?」
「くそっ離せぇ」
「答えになっていないぞぉ」
パキっという音が響き、兵士の首はおかしな方向に曲がった。奴等、殺戮を楽しんでいる。
「さぁ、三度目の花火だぁ」
マスクの男が叫ぶと、ロケットガンを構えた三人の野盗が上空に砲身を向けた。
俺は走り、奴等を強襲する。リストブレイドを起動し、ロケットガンを構えていた三人の腕を通りがけに切り裂く。そこで気が付く。硬い。人間の身体とは思えないほどに。
「なんだ?」
「ははっ、ボス、さっきの奴ですよ」
奴等、腕を切りつけられてもぴんぴんしている。幸い、俺への興味でロケットガンの構えは解かれたが、切り傷もできていない。切り落とすぐらいのつもりで切ったんだが。
「あぁ、またか」
ボスの興味を惹けたようだ。俺へと視線が集まる。
「ただの兵士ではないなぁ。英雄という奴かぁ?」
「残念だが、俺は違う」
言葉を発しながら、敵の数を数える。28、29、30……ボスを含めて31人。たった31人で街を襲うなんて、正気ではない。普通の人間であれば、の話だが。
「中々いい速度だった」
「……どうも」
マスクで表情が掴めない。共通感覚を用いても、感情が掴み切れない。得体のしれない男だ。
「そうだな、試し撃ちにはちょうどいい」
試し撃ち? なんの……
マスクの男は背中から機械の部品のような塊を取り出した。すると、野盗の集団たちがそれぞれ部品を持ち寄り、セットしていく。機会の塊は部品を近づけると自動的に組みあがっていき、一つの武器の形になった。
「嘘だろっ」
映画で見たことがある。ガトリング砲だ。
「さて何秒もつかな」
拳銃とは比較にならない速度の弾が連射された。




