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28.Funeral

 ショットタウンでは街のすべての兵隊が集められた。広間にグラン総帥の声が響き渡る。


「ジュディ・ハードは勇敢な兵士だった!」


 舞台の上では写真が飾られ、凛々しい女性兵士の顔が写っていた。髪型は赤いマリモヘッド。通り名の由縁だ。


「14年間、軍での業務に勤しみ、特に物資の供給に力を入れていた。彼女の手で救われた者も、この中に大勢いることだろう。いつしか、彼女は街の"英雄"の一人として、その名を轟かせ……」


 ショットタウンの"英雄"と呼ばれる者は3人。マッチョナース隊長、ヤクザ隊長、残りが"派手髪"こと、彼女だ。俺は実物には目玉しか会っていない。しかし、この追卓式を見るに、彼女は慕われていたようだ。特に女性兵士。式中にも涙を流す者をたくさん見かけた。


「あれがジュディ隊長なんて、信じたくなかった」


 俯くセシリアにおどおどとフィリップが声をかけている。


「彼女の部下はどうなったんです? 3人編成なら……」

「行方不明よ。でも、生きてはいないでしょうね」


 パーカーとマッチョナース隊長の会話が聞こえた。

 ヤクザ隊長は姿を見せない。グラン総帥の言葉が始まった瞬間に姿を消した。

 任務から帰還した俺達は街から壮大に迎えられた。俺達の中から新しい英雄を決めようという話にもなったらしいが、ジュディ・ハードの死を悼む期間が必要と判断されて、話は延期された。

 寄生植物(パラサイトプラント)は全て機能を停止した。動く死体も、動物から植物が生えるような珍事も、もう起こることはないだろう。

 グラン総帥の話が終わり、式も解散を迎えた頃、俺は声を掛けられた。


「やあ、生きて帰ってきて何よりだ」

「Mr.ギーク……」


 飄々と白衣をたなびかせ、彼は近付いてくる。


「風上隊長達とは再会できたかい?」


 「うるさい」と一括してやりたかったが、しなかった。彼を責めても意味がない。それに、俺は彼に用があった。質問には答えず、ひっそりと囁いた。


「話したいことがある。二人で」

「へぇ、怖いね」


 彼は恐怖を一切感じていない。いつも笑いながら、楽しそうだ。


「いいよ、会議室に行こう。しばらくは誰も来ないだろう」


 道中、俺達は一切喋らなかった。

 会議室のカギを閉め、「さぁ、なんだい?」とギークが尋ねる。俺はポケットから小瓶を取り出した。中には植物の種が入っている。彼が興味深そうに目を細めるので、俺はそれを机に転がして渡した。放り投げて渡したら落とされそうだったからだ。

 彼は小瓶を手に持ち、ふふんと笑った。


「なぁるほどね。寄生植物(パラサイトプラント)の種か」

「本体が最期に俺に渡してきたものだ」

「本体が? 君に?」


 俺も寄生植物(パラサイトプラント)の本体であるキメラのその行動には驚いた。切り刻み、とどめを刺した直後、命の灯が消える刹那に、キメラの蔓が伸びた。蔓はそっと俺の目の前に来て、この種を離した。


「俺も意味は分からない。ただ、その種からは意思を全く感じない。少なくとも、もう生物としての機能はない。なのに、命を感じる」

「ふぅん、共通感覚か。それで?」

「その種を利用して武器を作りたい」


 彼は間を置いた。沈黙に耐えられず、俺は長々と説明する。


寄生植物(パラサイトプラント)の、植物としての力は驚異的だった。あれは盾にも剣にもなる。扱えれば、相当便利だ。ULを体内から抽出する技術を応用すれば、種を成長させたり元に戻したりもできるだろ。寄生元は威先輩の槍を使うつもりだ。最高硬度のあの武器なら、種の器としては十分すぎる」


 Mr.ギークは笑った。何がおかしいのか。相変わらず、彼のツボは理解できない。


「やっぱり、君は私と同じような人間だね」

「それは違う。断言する」

「いいや、違うのが違う。君は、狂人だよ。私と同じ。でなければ、そんな発想は出てこない」


 そんな酷い発想だったか。だが、俺は寄生植物(パラサイトプラント)のキメラと二度戦っている。そのたび、戦闘力の高さに戦慄を覚えた。植物の蔓を自在に操る。魔法のような武器だ。


「君は気付いてないのかい?」

「何が?」

「じゃあ、教えてあげるよ。寄生植物(パラサイトプラント)のおかげで、一体何人死んだと思ってる? その原因を、君は仲間が残した武器にくっつけようと、そう言っているんだよ。英雄どころか、悪魔さ、狂人さ。被害者のことなど何も考えていない」


 そういう彼は、俺が見たことがないほどテンションを上げている。仲間を見つけたと思われているのか。別に構わないが、多少心外ではある。


「俺は英雄になりたいんじゃない。ただ、"力"が必要なんだ」

「へぇ、無欲そうな君が。面白い。なんでだい?」

「……守りたい者を守る。その為だ」

「へぇ、成る程。まぁ、君らしい、かな」


 Mr.ギークは俺に手を差し出した。握手か? と思って手を差し出すと、違う違うと首を振られた。ああ、そうか。俺は気付いて、威の槍を手渡した。


「"黄金の槍"といっても、金じゃない。素材は不明だが、硬度は保証する」

「だろうね。私が作った。さて、君は私に信頼を示したわけだ」


 信頼? そんなつもりはなかった。が、秘密ごとを彼に頼んだ時点で、これはある意味、信頼なのか。俺としては、新武器を作る実験をまともな人間に言っても取り合って貰えないだろうという諦めから、彼に頼んだだけなのだが。


「ウーヴェ・ランゲルト」

「はい?」

「私の本名だよ。信頼の証として受け取ってくれ」


 受け取ってくれと言われても、そうですか、としか言いようがない。

 彼はショットタウン内の研究施設を借りて、新武器の開発を始めた。



 病院にしろへ会いに来た。

 病院から見える景色は日に日に復興されていく。一時期、窓の外を見れば焼け野原だったが、電気柵が新しく張られてからは動物(アニマル)が街に侵入することもなくなり、街の職人たちが安心して作業を行うことができるようになった。それからは早かった。被害の後は消えていき、新しい家が次々と建てられている。


「これで、少しはましになるはずだ」


 話しかけても当然反応はない。

 元第5班の身体は任務の帰りに改めて埋めなおした。もう、彼等は静かに眠ることができる。彼等の闘いの日々は永遠に終わった、


「きっと、みんなも喜んだはずだ」

「うん、きっと喜んだわ。だから、そんなに落ち込まないで」


 甲高い裏声が聞こえた。見ると、ヤクザ隊長が壁から顔だけ出して俺達を見ていた。


「何をしているんですか」

「やだ、怒ってるー」

「しろはそんな喋り方じゃない」


 というか、そもそも喋れない。


「なんやねん、ノリ悪いな。いたっ」


 ヤクザ隊長の頭が誰かに叩かれた。セシリアだ。


「ごめんね、葉鳥。止めたんだけど、こいつが」

「こいつって、仮にも隊長やぞ」


 「何よ、騒がしいわね」と言って、マッチョナース隊長とパーカーが果物を持って見舞いに来てくれた。後ろに隠れてフィリップもいるようだ。

 どうだ、しろ、これが新しい仲間だ。

 変な奴ばっかりだろう?

 


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