27.Plant2
『ほな、小娘、葉鳥、行って来いや』
『セシリアだって言ってんでしょ!』
木刀の男に命じられて二人が走ってくる。女の方はブーメランを投げ、見事に人間の死体を吹き飛ばしながら、更にもう一つ同じ武器を手にし、投げた。これも見事に寄生マンティスの鎌を吹き飛ばす。と思えば、更にもう一つ同じ武器を持ち、投げる。寄生クロコダイルに当たってできた隙に、おかまが拳をくらわす。
『流石、セシリアさぁあん』
『フィリップ、集中しなさい!』
そして、金の槍を持つ男。
こいつはまっすぐ私が隠れていた地面に向かってくるかと思えば、正確に地面の中の私に向けて槍を突きき立てる。慌てて私は地面から飛び出した。
『なんや、蔓の塊ぃ。そこにおったんかい』
いつの間にか近付いていた木刀の男が私に向かって木刀を振るう。直撃し、吹き飛ばされる。
私は様々な疑問を抱いたが、それ以上に胸のざわつきを覚えた。その正体は、見事な技を見せた女でも、木刀で私を吹き飛ばした男でもない。
金の槍の男。
私はこいつを知っている。
そして、誰に言われるでもなく気付いた。
「お前か」
共通言語は通じない。だが、答えなどいらない。
私は根を地面に張り、樹木の巨大な槍を地面から出現させた。
『嘘やろ!! ははっ すげぇやんけ!!』
地形が変わる。全ての人間に向けて、植物の槍を襲わせた。
蔓を引っ込める。地面には無数の穴が開いている。
寄生クロコダイルと寄生マンティスの身体は無事だった。しかし、それ以外の奴隷達は動かなくなった。冷静さを欠き、無差別に攻撃してしまった。人間達は、みな生きていた。大した奴等だ。
『フィリップ……無事?』
『セシリアさんこそ……』
ブーメランの娘は竜巻を引き起こし、その中心に自分とスナイパーを配置することで蔓から身を守っていた。しかし、二人ともダメージが無いわけではない。伏せたまま、しばらく動けそうにない。
中距離型の銃を持つ男はおかまに身を守られていた。おかまが蔓をひたすら殴り飛ばしていたらしい。
『隊長、すみません。足手まといになっちまうなんて』
『なによ水臭い。恋人でしょ』
『違います』
銃を持つ男は負傷、おかまはまだなんとか動けそうだ。
「元気なのはお前達だけだ」
木刀の男は、鼻歌交じりに蔓を木刀で弾き飛ばしていた。そして、私の宿敵は、全ての蔓を避け切っていた。
『しかし、もう天変地異やな。動物とかの範疇超えとるわ』
言いながら切りかかってくる。この男には寄生マンティスを当てがった。マンティスの鎌が男の木刀に当たり、傷がつく。
『うおっ、なんや、こいつ』
『本間さん!! 気を付けて、そいつ、ジュディさんを殺しました!!』
おかまの傍で銃を持つ男が叫んだ。増援に来ていた二人は目を見開いて驚く。
『マジかいや』
『ジュディさんを……』
反応が薄いのは私の宿敵のみ。
宿敵は私から目を離さないままハンドガンを手に持ち、銃口を寄生マンティスに向けて二度撃った。本来ならばマンティスにハンドガンの弾など当たらない。なのに、何故か避けたはずの弾がマンティスに当たり、その腕が吹き飛んだ。
『ライフルも避けてたのに……当てた』
『え?』
スナイパーとブーメランの女が何か呟いている。
ところで、その行為に激怒した人間が一人いた。木刀の男だ。
『おい! 葉鳥ぃ!! 余計な事すんなや!!』
宿敵は『はいはい』と言って銃を仕舞う。
おかまのもとにはクロコダイルを向かわせた。部下を庇いながらクロコダイルの相手は難しいだろう。
『隊長、俺のことは構わず』
『できるわけないじゃない。恋人を捨てて逃げるなんて、女の名が廃るわ』
『隊長、いろいろ間違えてます』
私は宿敵と向かい合う。
彼は黄金の槍を持ち、私に突きを放つ。これが、大して速くない。私は逆に驚き、突きを避けながら蔓を伸ばす。宿敵はすっとそれを避け、突進してきた。
奴は槍を回しながら私に向けて突きを放つ。鈍い攻撃だ。通用しないと理解していないのか。私は足元から地面に根を伸ばし、奴が突進してくる足場から蔓の槍を仕掛けた。
その時、奴は奇妙な動きを見せた。地面を飛んで蔓を避けたかと思うと、空中を蹴ってそこから加速した。予想外の動き。対応できない。黄金の槍は私の身体を貫く。
「だが、効かない」
私は蔓の塊。臓器などない。致命傷という概念が存在しない。突き刺さった槍を蔓で巻き取り、奴の手元から抜き取ってやった。
そのまま泉に槍を放り投げ、地面から無数の蔓を生やして襲わせる。奴は素手のまま、それをするすると避ける。回避能力だけは一人前だ。
『いいな、それ』
奴は何かを呟いたが、意味は分からない。
奴は左腕からブレイドを出現させた。二本の牙が腕から生えたようだ。右手には拳銃。そして、また向かってきた。先ほどよりも速い。奴の靴に何か秘密があると見た。
蔓をすべて撃ち落とし、まっすぐ向かってくる。大した腕だ。だが、通用しない。再び、地面から蔓を生やす。量は先ほどの二倍だ。避けれるものなら避けてみるがいい。
奴はいつの間にか銃を仕舞い、右手で剣の鞘を握っていた。そのまま地面から蔓が生える刹那を狙って、地面に向けて斬撃を放つ。泥が飛び散り、私の視界が一瞬0になる。
私は感覚のみで奴の右手を蔓でからめとった。ほぼ同時に奴の左腕が私の身体に突き刺さる。先ほどと同じだ。違うのは、私が奴の右手を取ったということ。
「終わりだ。我が子の痛みを知るがいい」
私は奴の右手を引きちぎろうと力を入れた。
この時、気付いた。こいつが我が子を殺したのならば、私を殺す方法も知っているはず。なぜ、奴は二度も同じ手で切りかかってきた。
奴の左腕、リストブレイドには、ブレイドとブレイドの間に管のような穴が開いていた。奴の右手にあるリストブレイドとはわずかに構造が違う。
これは、そうだ。見覚えがある。
バーサーカーの武器。"チューブガン"。
発砲音が聞こえた。突き刺さったブレイドの間から弾が放たれ、私の身体は泉に吹き飛ばされた。水中で弾が破裂し、私の身体はバラバラになる。
そして、ほぼ同時期に寄生クロコダイルの左肩がおかまに吹き飛ばされ機能停止する様子と、寄生マンティスの首が木刀で切り飛ばされる感覚が伝わった。
駒をすべて失った。なんということだ。私が、死ぬ。
水中に何かが飛び込んできた。宿敵だ。とどめを刺しに来たか。容赦がないな。
「いいだろう。好きにするがいい」
奴は剣で私の身体を細切れにする。成る程。息子との戦いで、私達の生存力の高さを確認していたか。
意識が消えていく。
私の、希望は、まだ、ある。
そうだ、種を残そう。
未来につながる種を。
そこに私がいなくとも、子さえ残せば未来はつながる。
きっと、そういうものだろう。




