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25.Buddy

 隊長、あんたはいつも戦ってばかりだ。

 この戦争も、前世で過労死するほど働き詰めた時代も、あんたはいつも人のため、家族のために我が身を切り続けていた。

 もう、終わりにしよう。


 俺がリストブレイドを選択したのは、剣も槍も靴の扱いも、彼らの方が上手だからだ。付け焼刃の戦い方など彼らには通用しない。

 隊長の植物の剣を避ける。続けざま威先輩の槍の突きが放たれ、慌てて身体をひねる。その隙に、視界の外、頭上からアビー先輩が蹴りを繰り出す。避けきれない。俺はブレイドを盾に彼女の蹴りを受け、後方に飛ばされた。俺が体勢を崩し膝をつくと、機会(チャンス)だ。三位一体の攻撃が襲いかかる。避けても避けても、次から次へと攻撃が降りかかる。素晴らしい連携だ。

 見事に"強い"。共通感覚を尖らせ攻撃の先読みを行っても身体がついていかない。必ず一撃はヒットを受ける。


「なんや、防戦一方やな」

「そりゃそうよ。風上班は優秀、一人で戦うなんて無茶よ」

「おい、何する気や」

「決まってるでしょ。助けるの。大体、元チームメイトと戦うなんて、酷過ぎる」

「はぁ、そういう関係やったんか。でも、あかんで」

「何が?」

「手出すのがや」

「なんでよ」

「わからんか?」

「わかるわけないでしょ」

「じゃあ、黙っとけ。それがわかるまでは手出したらあかん」


 風上隊長の二刀流を両腕のリストブレイドで捌く。瞬間、威先輩の槍が飛んできて俺の頬を掠めた。生じた隙を見逃すはずもなく、隊長の横振りの薙ぎがくる。俺は飛び上がり、身体を捻ってそれを避ける。当然、これも大きな隙だ。アビー先輩の飛び蹴りが直撃し、俺は蹴っ飛ばされた。地面に倒れたところを、隊長の二本の刀が襲う。慌てて、右手のリストブレイドで二本とも受ける。拮抗、力押し。


「まずいわ、もういいでしょ! 助けるわよ」

「あかん言うてるやろ」

「何言ってんの。隙だらけじゃない! 今攻撃を受けたら」

「死ぬわな」

「じゃあ」

「男にはやらなあかんことがあんねん」

「わっけわかんない!!」


 隊長の剣を弾いて、威の槍を避ける。危なかった。少し遅れたらくし刺しにされていただろう。

 だが、もうわかった。今までの攻防で、もう十分わかった。


「悔しいな」


 俺は両腕のリストブレイドを収納し、手ぶらで三人を見据えた。

 青白い顔をした仲間達。腐敗しかけた身体を植物で補い、二度も死んでいるのに戦い続ける。


「悔しいよな、みんな」


 言葉が通じるはずもなく、彼らは無表情で俺に襲い掛かってくる。

 俺は風上隊長の剣の鞘を握る。


「みんなが鍛え続けてきた"強さ"は……」


 剣のトリガーに指をかける。


「こんなもんじゃねぇ!!」


 指を離すと同時に剣を抜く。隊長、あんたが得意だった技さ。

 ULを吸収した剣は斬撃を円周状に放出し、武器を抱えていた三人の植物人間を切り飛ばした。隊長は首を、威先輩は腹を、アビー先輩は胸を切断され、身体の機能を停止する。出血はない。

 仲間の身体を切り飛ばした。罪悪感はない。言い訳もしない。俺が必要だったからそうした。

 その時、奇妙な感覚が俺を貫いた。現実から離れて、イメージを見せつけられる。これは、かつてしろの過去を見た時と同じだ。


「こんなピンチはいつ以来かな」


 隊長は両手に剣を持ち息を絶え絶えに言った。しかし、何故か笑みを浮かべている。目の前には例のキメラ、バーサーカーが立ち、荒い息を繰り返しながら肩を上下に動かしている。


「俺は始めてですよ」


 隊長の横に立つ威先輩がこれも笑いながら言った。彼の足元には、静かに眠るアビー先輩の亡骸が倒れている。


「葉鳥は……無事でしょう? しろは、無事に壁にたどり着けるでしょうか?」

「勿論だ」


 隊長は即答した。強がりではなく本気でそう思っている、そんな目をして、はっきりと。


「二人を初めて見たときに思った。この二人は負けない、と。こんな世界にも希望がある、とな」

「へぇ、俺の時は?」

「きっと生き抜いて見せるさ。あの二人ならな」

「ねぇ隊長。俺の時は?」

「威よ。時間切れのようだぞ」


 バーサーカーが雷の鞭を振り回しながら近付いてくる。背中の甲羅からは、俺の時よりも多い、四つの銃口が二人に向けられていた。


「いくか」

「ええ」

「ああ、そうだ、威の時は……」

「ん?」

「相棒を見つけたと思ったよ」

「嘘が下手ですね、隊長」


 二人は笑みを浮かべながらバーサーカーに向かっていった。



 ヤクザ隊長が俺の肩に手を置いた。


「ようやった」


 俺が振り向くと、ヤクザ隊長は笑っていた。


「仲間に葬って貰えたんや。満足してるやろ」

「そういう考え方は……なかったです」


 ヤクザ隊長の意外な姿に驚いた。もっと、人間の心など微塵の興味をもたないおかしな奴だと思っていた。


「しかし、最初もたついとったんわなんやったんや。初っ端からあの技使わんかい」


 頭を軽く叩かれる。あれは、寄生種の位置を探っていたのだ。結局、各々傷の位置にあると判断したのだが、正解だったようで助かった。できれば、一撃で終わりにしたかったから。


「葉鳥!」と声を掛けられて、今度は何を言われるのかと恐れながらセシリアの方を向く。そして、直ぐにギョッとした。彼女はブーメランを手に持っていた。なぜ武器を手に持っているのか。表情を見ると、穏やかだ。それが、余計に怖い。


「私の武器、三つランプが点いているでしょ?」


 確かに点いているが、話の意図が見えない。


「ランプ一つで非殺傷モード、二つで殺傷モード、三つで竜巻モードになるの。竜巻モードっていうのは、必殺技みたいなものね。風を大きく巻き込んでつむじ風を作って、対象を刻み込む。今のところ、竜巻モードをくらって生き延びた生物はいないわ」


 成る程、ランプが二つ以上点いている時が機嫌が悪いということか。俺が無表情で聞いていると、彼女は照れたように頭を掻いた。


「ごめんなさい。私、あなたのことを誤解してた」


 謝った。セシリアが謝った。衝撃だ。こんなことがあるのか。


「私は、自分の仲間が死んで、操られても何もできなかった。あなたは、同じ立場でも勇敢に戦った。全部、覚悟したうえで、背負うつもりで。あなたは、とても強い人。あの時は助けてくれて、有難う」

「仕留めたのは俺やで」

「うるさい。あんたは黙ってて」


 正直、嬉しかった。心を開いてくれるのは。それに、今や彼女と俺は同じ立場だ。辛い感情を理解してくれる存在はとても貴重だ。

 例え、会議室で俺の失言に彼女がキレた時、ブーメランのランプが三つ点灯していた、という現実を変えることができないにしても。



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