100.End
「……という訳で、二人は幸せになりました。めでたし、めでたし」
電話から聞こえてくる声は随分と上機嫌だ。
「意外だねぇ。彼をとられて悲しくないのかい?」
「悲しい? まさか、まさかです。秋也くんもしろさんも可愛いですもん。二人が幸せなのは、嬉しいことです」
本音だろう。ヴェロニカ君の彼に対する感情は、私が思い描いていたものとは少し異なるらしい。
「ふむふむ。面白いねぇ。もし、二人に子供ができたりしたら、更に面白そうだ」
「子供?」
「そう。気が早いかな?」
「へぇ、いいですねぇ。見てみたい!」
「そうだろう」
私は血塗れの廊下を歩き、鳴り続ける緊急用のブザーを停止させた。
「さて、頼んでいたことはやってくれたかい?」
「やりましたよぉ。簡単でした」
「では?」
「はい。新しい神は島のあちこちで埋まってます」
「素晴らしい」
「人をばらばらにするのは久しぶりだったから、とても、とても、楽しかったです。でも、良かったんですかぁ?」
私はデスクのパソコンを操作する。
「勿論。その神は未来人の手先さ。バーサーカーが死んだ時点で彼等は本来のルールを無視して戦争の勝敗を決定した。その神は、島の全員を抹殺するための導だ」
「ふぅん」
「つまり、君達の安全は保障された」
「それは、それは」
ヴェロニカ君はこの結末にあまり興味がないようだ。彼女はいつも、自分がより面白いと考える方に動く。
「それで、私はいつまで南にいればいいんですかぁ? ここは、つまんないです」
「まぁ、待ちたまえ。未来人の帝国から一番連絡が取りやすいのは南なんだ」
「まだなにか面白いことあるんですか?」
「あるとも」
「へぇ、聞きたいです」
私はパソコンのエンターキーを押す。
「今、海の看守を自壊させるプログラムを起動した。これで君達はいつでもこちらに来れる」
「へぇ」
「興味ないかい?」
「ないですねぇ」
「では、新情報だ。私が帝国に来てから、この国のシステムの80%を破壊した。今、この帝国は混沌の渦中にある。人間のモラルは崩壊し、後に再生される」
「つまり?」
「私達が新たな世界を作るんだ」
長い間が空いた。
「……面白そうですねぇ」
「そうだろう。それに当たって、皆を帝国に呼ぶよう誘導してほしい」
「みんな、ですかぁ?」
「そうとも。最初は、差別はなしだ。戦争の勝者である全員をここに呼ぼう。そして、私達の世界を……」
「ふざけるなぁ!」と叫び声がして、銃弾が飛んでくる。私は頭を振って弾丸を躱す。
「博士ぇ、なんですかぁ?」
「失礼、何でもないさ。また連絡するよ」
「はぁ~い」
私は小型の電話を置き、向き直る。
「何をするんだい帝王様。大事な話をしていたのにねぇ。おやおや、銃なんて物騒なものをもって」
「貴様っ……」
銃弾が連射される。面倒なことだ。抵抗に意味はない。
私は銃弾を全て避け、帝王の手から銃を奪い取り、彼の頭に銃口を向けた。
「化け物めが」
「そうだよ。君達が作ったんだ」
この部屋は未来人の会議室だ。スパコンだらけのこの部屋で、戦争は管理されていた。今や死体と血だまりが残るただの巨大な棺だが、帝王が見物に来ていたタイミングを狙って、テロを起こさせてもらったわけだ。
「君達の時代は終わりなんだ。いい夢を見れただろう? さぞ、楽しかっただろうね」
「愚か者め。私達は死んでも蘇る。お前達のようにULを使ってな」
「ああ、そうそう、思い出した。その装置は設計図ごと破壊したよ」
「なんだと?」
「いやぁ、私の友人がそこらへん厳しくてね。いずれ彼を招待したら話がこじれそうだから、事前に破壊しておいたんだよ。まぁ、気にすることはない。死んだら終わり。これが普通なんだ。これからは、そういうルールになる」
帝王は憤怒の表情で叫んだ。
「化け物め! 神にでもなるつもりか!」
「おかしなことを言うね。それは君達が望んで私に与えた役割だろう」
私は銃を撃つ。
「ああ、でも、そうだね。それも悪くない」
今日からは、私が神となる。




