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これはデートですわ


 ぽっかりと空いた昼からの時間、二人で買い物に出掛けることにした。


「予はあまり出歩きたくはないと言ったはずだが……」

「ちょっとくらいお日様に当たらないと体に悪いわよ」

 青白い顔をしているもの……それが素敵なんだけど。

「お日様? ああ、紫外線……か。確かにそれも大切な要素だな。よかろう。服を準備してくれ」

「はい。……あなた」

 冗談で言ってみると、ああ~これまたヤバいわ~。言ってる自分が照れてしまう~!

「――あなたって……まさか、予のことか?」

 ファンも照れちゃってまあ……、可愛すぎる~! 胸のあたりがキュキュンっとなってしまう。


 彼のマント姿は……似合っているのだが一緒に歩くのは少し恥ずかしい。それに、あまり目立ち過ぎると……。


 ――色んな(めす)が近づいてきそうで危険ですわ――。


 前にわたしがブティック「しまむらさき」で買った三八〇〇円のベージュのダッフルコートをファンに着せると、イケメンが可愛い弟に早変わりし――。また胸がキュンとしてしまう。


 ――ああ、こんな弟が欲しかったなあ。

 ――妹なんて、ハラ立つだけだから……。



 向かったのは近くのホームセンターと食料品スーパー。

 彼と手を繋ぎたいのだけれど……。どう手を差し出したらいいか分からない。二人の距離は少し遠い。そして歩く速度も少し遅い。わたしではなく彼の方が遅いのだ。


 テンポ、歩幅を乱さずに真っ直ぐ優雅に歩く……。顎を引いて歩く姿も凛々しく様になるのだが……。普通の格好をしているんだから、歩く時くらい侯爵様ごっごはやめたらと言いたくなる。


 二人でビルが立ち並ぶ歩道を歩いていると、老若男女を問わず、ほとんどのすれ違う人が一度彼の顔を見る。整った顔立ちと、すらりと高い身長。美しい瞳。なにより金髪が風で揺れると、その姿はまさに王子様――。部屋から連れ出したことを後悔してしまう。


 わたしとは不釣合いな……素敵過ぎる彼――。


「ピッ、二九〇円です」

 ホームセンターでラバーカップ……通称カッポンを買った。

 詰まったシャワー室の排水口は、朝、確認しても詰まったままだった。なんとかこれで掃除しないといけない。

 仕事場でもよく排水口が詰まり、その都度、専用のカッポンで何度も何度もカッポンカッポンする。焼いた魚の油や細かいゴミを一気に流すと、ほぼほぼ百パー詰まっていまうのだが、カッポンで掃除するのは手慣れたもの。カッポンさえあれば、たとえトイレが詰まっても怖くない。

 カッポン以外にも、歯ブラシや白いランニングシャツなど彼の生活必需品もさりげなくわたしが選んで買った。可愛いトランクスのパンツもわたしが選んであげた。


 カッポンが入ったビニール袋を彼に持たせる訳にはいかないので、わたしが持つ。食料品が入った買い物袋もわたしが持つ。二人分の食料品となると……少し重くて指が痛い。

「ねえ、ちょっとどっちか持ってくれない?」

「――! 予に荷物を持てというのか!」

 驚きの顔にがっくりする……。予想はしていたのだが、そこまで侯爵様ごっこに付き合わされる義理もないので、うんと頷いて見せる。

「……仕方がない。この地に潜伏するために不可欠なのだな……。よかろう、軽い方を持ってやろう」

 ひょいっとビニール袋をわたしの手から持ってくれる。

 カッポンの入ったビニール袋なのが……申し訳ない。ファンはカッポン……見たこともないのでしょうね……。

イケメンがカッポンを持ち歩く姿に、思わずクスっと笑ってしまった。



 ガッポ! ガッポ―! ンゴゴゴゴオ―――!


「やった、流れたわ!」

 ズボンの裾を折り曲げて、シャワー室で奮闘すること約十分。ようやく排水口は爽快な喉越し音を立てて流れ始めた。

「素晴らしい……。文明の違いだな、まさかこれほど優れた道具があるとは」

 カッポンを……なにか高級な杖のように掲げて見ているわ……。


 部屋に帰ってから、シャワールームの外からジーっと排水口詰まりを掃除しているわたしを見ていたファンは、カッポンに興味津々……賞賛の笑みを浮かべている。


「この材質、フォルム、予のパレールマイヤーにはない――」

 予のパレールマイヤー? ファンのいた国の名前かしら。あまり聞いたことがない。っていうか、日本の県名すら全て覚えていないわたしにとって、パレールマイヤーって、遠い外国……くらいの知識しかなかった。

「よかったら献上いたしますよ。ファンディル侯」

 冗談でそう言うと、

「うむ!」

 と満面の笑みで答えるのが可笑しい。


 カッポン……狭い部屋のどこに置いても女子力が下がってしまう。独特のゴム臭さが部屋に充満してしまうのも……なんか嫌ですわ……。



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