王道
純白のウエディングトレスは宇宙において共通の正装なのかもしれない。
人はその汚れ無き白地の布に神秘を感じるのだろう。地球の歴史よりも太古から、人間の遺伝子に深く刻まれているのかもしれない――。
右も左も分からないままわたしは彼の言う通り従い、ドタバタの戴冠式から婚儀を迎え、結婚披露宴パーティーへと流れ込む。
今までの生活からは想像もつかない王族の生活……。わたしが一生働いても買えそうにない純白のドレスと、見たこともない光を放つ大粒の装飾品の数々。
地球のみんな……。心配しているだろうなあ……。
これからのここでの生活にも不安がたくさんある。宮殿の大きな窓から一望できる王都。空の色や遠くに見える美しい風景は地球とよく似ているのだが、ここにはわたしの知っている人達がいない……。連絡も取れない。スマホを持って来なかったわ……。お金もない……。カードもない……。
十日前に道頓堀に落ちてきたファンと、境遇がそっくり入れ替わったみたいだ。
でもわたしは帰れない。一生、帰ることができない……。
銀河系は動き続けている。地球とパレールマイヤーの位置関係が変わり、直線上に恒星が挟まれると、転送に大きく支障をきたしてしまうらしい。
どうしても帰りたいのなら、宇宙船で送り出せるそうなのだが、巨大な宇宙船を光速以上の速度で動かせる技術はまだないらしく、到着までに百年以上はかかってしまうと……近くにいた侍女が説明してくれた。この星ではみんなが知っている常識なのかもしれない。
覚悟はしてきたけれど……。やっぱり寂しい。
わたしの綺麗な花嫁姿を……。両親に見せたかった。
優香と菜々美に……自慢したかった……。
ジジイとババにも、二次会には出席してもらいたかった……。かな?
寂しい。でも……。
ここでもわたしは一人じゃない――。
田舎にいた時もそうだった……。大阪にいた時も気付いていなかったが、わたしを大勢の人が支えてくれていたのだ。
大勢並んだ侍女はみんな、いきなり現れたわたしなんかに優しく接してくれる。
なにより、歯の抜けたジジイそっくりの……先代の王って人も、ファンとわたしの結婚を手を叩いて祝福してくれた。
愛する人と、二人を祝福してくれる大勢の人。ちょっと嫉妬している人。みんなに囲まれて、これからのわたしの人生が始まるんだわ――!
静かに扉が開くと、真っ白な正装をしたファンが、優しく手を取ってくれた。
わたしは頑張れる――。
まだまだこれからも頑張り続けなくてはいけない!
見たことがない食材の御馳走。すべてわたしの口に合った。
彼も美味しいと言って、隣の席で食事をする。人の味覚は、どこでも同じなのかもしれない。
……同じじゃないと言えば、彼はナイフとフォークで……普通に食事をしている? 彼以外にも王族や元王様、周りの侯爵家、令嬢達も……同じように食事をしているじゃない……。
これはいったいどういうことかしら~?
「ねえ、ファン……王族はたしか、固形物を自ら口にしないのではなかったの?」
一瞬、ファンの皿からガチャリと貴族らしからぬ音がしたかと思うと、ファンの顔が少しだけ赤い。
「……ああ……あれは、異なる地の食材を食べても平気か怖かったから……、咄嗟に閃いた護身術なのさ」
小さい声でそう言って、フフっと笑うのだ。
「護身術……だったの? じゃあ、わたしの友達ともその……口移しで食べようとしたのはどういうことよ」
「……佳衣の気持ちを確認したかったのだ。怒るかな~と思ったら、本当に思った通りプリプリ怒ったので嬉しかった。……ゴメン。今更だけど謝るよ」
――恥ずかしくてワナワナしてしまう。「プリプリ怒った」ってなによ~! こっちは泣くほど悩んだのに~!
「それと……ゴホン。なんでもない」
そう言って笑顔でグラスを傾ける。
「……? なんて言おうとしたの?」
「なんでもない」
少し顔が赤い。わたしも同じように少し赤い。
グラスに注がれた、祝福の日の赤色のお酒……。
今夜は飲み過ぎないように……気を付けなくっちゃ――
これにて二人の物語はおしまいです。最後まで読んで頂き本当にありがとうございました!
……感想や評価、お待ちしております~!




