失態
先にシャワーを浴びた。
外で冷えた体が急に温まる。今夜、これからのことを考えると緊張して鼓動が早まる。
……やば――。
急にまたムカムカしてきて、排水口に向かって嘔吐してしまった……。
ビチャビチャビチャ……。
※シャワーの音です。
せっかく素敵な男の人と夢のような出会いをし、これから一生忘れられない素敵な夜を過ごそうとしているのに……どうして、……どうして飲み過ぎたりなんかしたのだろう……。
シャワーと共に冷たい涙が頬を伝う。
うっ――ビチャビチャビチャビチャ……。
※シャワーの音よ。
――あかん!
排水口が、詰まって流れないわ――!
ピンクのむきエビや黄色い玉子……さっき食べたカップ麺が排水口に詰まり、なかなか流れてくれない――。慌ててシャワーを止め、じっと見ていると……、僅かではあるが流れていく……。
……こんなシャワー室を……彼に使ってもらうなんて……、できないよ――。
また涙が溢れ、水溜まりが出来てしまったシャワー室へポタリと落ちた。
部屋着を着てシャワー室を出ると、彼は先程と同じ姿で座っていた。その正しい姿勢も先程と変わっていない。数ミリすら動いていないようにも見受けられる。
「……ごめんなさい、お風呂の排水口が……髪の毛で詰まってしまったみたいなの。だから今日は使えないわ……」
ショートボブヘアーのわたしの髪の毛が排水口に詰まるなんてありえないのだけれど……。それに髪の毛は普通、網状のストレーナーに引っ掛かるから詰まらないのだけれど……。
「構わない」
そう言ってくれる彼は……優しい人なんだと思う。なのに……、せっかくの日に……、なんてことなのかしら。わたしは自分の視界がグニャリグニャリと歪むのに愕然とした。飲み過ぎて立っていることすらままならない……。
シャワーを浴び、寒くなるシャワー室で水が抜けるのをずっと待っていたせいで、気分が悪くなってしまい、先にベッドで横になることにした。
「さ、先に寝るから、どこか適当に横になって……。もし……」
一度ギュッと目を閉じて布団の中で呟くように言った。
「もし、寒かったら……。わたしのお布団に入ってきていいから。おやすみなさいっ」
はあ、はあ、言っちゃった。でも、悪酔いしているわたし……いったいどうなってしまうのかしら。
電灯も点けたまま、わたしは一瞬にして夢の国に先立った。
「……寒い。この地は……寒すぎる」
夢の中で聞いたような気がした。誰の声……。
いま何時なのかしら……。ベッドがギシッと音を立てたかと思うと、わたしの背中側に布団をめくり、ごそごそと彼が入ってきた――。
当然といえば当然だ。布団は一つ。それもわたしが使っているコレだけ。もう十二月。エアコンは電気代節約のため、寝る前に切っている。
……。
……。
数分間の沈黙が過ぎると、
「予は……手が冷たくて眠れぬ。温めてよいか?」
寝たふりをしながら、そっと頷いた。飲み過ぎで気持ち悪かったのは、少し眠ったおかげでだいぶマシになっていた。
彼の手が後ろから。わたしの着ている大きめのトレーナーの中をゴソゴソとし――。
――ヒャッ! 冷たい!
大きな手が冷たいまま、わたしの大きくない胸を両手で背後から鷲掴みにすると、一気に眠気が醒め鳥肌が立つ。
――ドックン、ドックン、ドック、ドック、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――。
早くなる鼓動に感づかれてしまいそう――。
急にキスされるわ、胸を触られるわ、彼の目的がわたしの体ってことは容易に判断できる。
そして……それ以上にわたしも彼を求めている……。
……。
……。
……?
スー、スー。
……え?
……ありえなくない?
男の人って……こんな時でも、こんなに冷静になれるものなのかしら? 両方の胸が後ろから触られたままなんですけど……。
寝にくっ! ……いつまで触っているつもりなの?
「スー、スー」
寝顔が……見たいのに見れないじゃない……。
「あ、あの~……」
「スー、スー」
仕方なく目を閉じるが……何度も目が覚めた。
そっと彼の手をどけようとすると、思い出したようなギュッと鷲掴みにされ……。泣きたい。なんか、違う……。
「ううん。ムニャ……案ずるな……すぐ帰るから……」
寝言……やかましいですわ。