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道頓堀の休日


 せっかくの休日なので、ファンに行きたいところがないかと尋ねると、二人が最初に出会った場所に行きたいと言うから、思いっきりお洒落をして道頓堀へ出かけることにした。


 彼と出会った道頓堀。ここから意外と近いからデートにちょうどいいわ。



 初めて彼と手を繋いだ。絆創膏が張ってある手が恥ずかしいのだが、今はわたしが繋いで欲しかった。彼も笑顔で繋いでくれる。


 エスコートするような、高貴な手の握り方は……ちょっと違うな。恥ずかしいな。


「ねえファン」

「なんだい?」

 握り方を指と指をギュッと絡め合う恋人繋ぎに変える、

「これが王道なのよ」

「王道? ……ああ、そういうことか」

「うふふ」

 ファンの表情が、今日は凄く柔らかくなっている。今までは感情を一切表情に見せなかったのに、今はわたしが笑うと、一緒に笑ってくれる。


 手にギュッと力を込めると、ギュッと握り返してくれる。

 ギュッギュッと力を込めると、ギュッギュッと握り返してくれる。

 ギュ~! と力を込めると、ギュ~! と力を込めて握り返してくれる~。

「痛い痛い! 握り過ぎだよ~!」

「ハハ、ゴメンゴメン」


 ああ~楽しい~。二人で手を繋いで歩くのって、楽し過ぎるわ。

 ああ~、……さっき貼った絆創膏から……血が滲んで赤くなったのは……内緒にしておこう。


 彼と手を繋いでいっぱい一緒に歩きたかったから、映画館はスルーする。だってせっかくの時間がもったいないもの。それにファンがどんなジャンルの映画を見たいのかも分からない。


 宇宙戦艦が出てくるようなSFって……女子はあんまり興味ないのよね~。

 どうしてもSFが観たいって言われたら……一緒に見るけどね。

 面白かった? って聞かれたら、面白かった! って答えるだろうけどね……。



 大阪名物といったら、やっぱり「もんじゃ焼き」か「キリタンポ」が有名なんだろうけれど、田舎から出てきたわたしには、どの店の何が美味しいのか、あまりよく分からない。

 優香は大阪生まれの大阪育ちだけど、いつもシャレたお店にしか行かないし、菜々美は「エークタスパ」にしか行きたがらない。だから道頓堀近くのお店は殆ど知らないのだ。



「あの巨人はなに?」

「お菓子屋さんの……本店よ」

 たぶんあそこでキャラメルを作っているのよ。


「あの十本脚の怪物は?」

「おっきな蟹ね」

 蟹ならしょっちゅうラップしているわ。高くて手が出ないけど。


「真っ白な爺さんは?」

「川に放り込まれるカーネル人形。生贄のようなものよ」

「――生贄だって?」

 驚きの眼差しに思わず笑ってしまうわ。


「じゃあ、あの太鼓持ってるメガネ君は?」

「赤白の囚人服を着て帽子をかぶった……川に放り込まれるピエロね」

 たしか、数年に一度、おめでたいお祭りの時に川に放り込まれるはずよ。

「よく知ってるね」

「うん。いつもここを通ってるから!」

 祝日でもないのに、道頓堀は観光客が一杯で賑わっている。活気が溢れるこの街は、まさに王都と呼ぶにふさわしいわ!

「もうすぐ、わたし達が出会った(えびす)(ばし)よ」

 ここがこれからわたし達の記念の場所になるんだわ! 

 ……出会った時のことは……あまり思い出したくないけど。……あまり覚えていないけど。


 ちょうどこれから橋を渡ろうとしたとき、急に握っている手に力が込められたかと思うと――、

「――やばい、隠れよ。予を狙う刺客かもしれぬ」

「え? ええ!」


 大きな声ではなく、小さくわたしの耳元で囁かれると、思わず鳥肌が立ってしまいますわ!


 本当に公爵様なの? 刺客ですって? ファンは急にわたしを包み込むように抱きしめ、顔を見られないようにチラッと背後を一度確認すると、

「こっちだ!」

 手を繋いでそこから走り逃げた。

「わ、わわ……、ちょ、ちょっと!」


 手を引いて逃げるように走るのは、小学校の時の「手つなぎ鬼ごっこ」のようで楽しかった。好きな男子と手を繋いで追い掛けるのが凄く楽しかった。懐かしいわあ~。


 数回チラッと振り向いて確認し、さらに人混みの中を走り抜けていく。


 ハア、ハア……。白い息を二人とも吐き出すと、普段は色白の彼も、ほんのり鼻が赤くなっていて胸をキュンとさせる。

「……刺客、追って来ないかしら?」

「分らぬ。偵察機のようなものが見えたが……」

「見間違いじゃないの?」

 ビルとビルの隙間から橋の上を見ると、ドローンを飛ばし道頓堀の風景を撮影している観光客がいた。


「偵察機って……あれ、ドローンよ」

「ドローン?」

 ククッと思わず笑ってしまった。偵察機って言えば……、偵察機なのかもしれないわ。マンスリーマンションの近くを夜に飛んでいたドローンは、紛れもない偵察機だ――。

 叩き落としてやりたかった――。


「あのラジコン飛行機みたいなのにカメラが付いていて、風景画像とか動画とかを撮影できるのよ」

「ああ……そうなのか。……フフ、冗談だよ」

 バレバレの嘘をつくファンが可愛い~。

「――冗談か~い! ってその割には物凄く焦ってたくせに――! 信じたわたしがバカみたいじゃないの。必死で走ったのに~」

 そういってファンの胸に飛び込むと、ギュッと抱きしめ返してくれ、二人で大笑いした。


 昨日までと違い、彼との距離がグッと近づいている感じがした。彼の胸元、とても落ちつくいい香りがする。香水なんかつけてるはずないのに……。


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