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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第五章
99/136

099 修羅場?

「……誠ちゃん?」


 三人が勢ぞろいしているところに遭遇してどうしていいかわからなかった僕に、訝し気な表情で顔を覗き込んでくるすず。


「あ……、えーっと、ただいま。……と、こんにちは」


 とりあえず何もせず固まってもいられないので、挨拶だけでも返しておかないと……。

 野花さんは確か、僕たちの文化祭を見に来るって言ってたね。

 そういえば水沢さんは昨日も僕たちの合唱を見てくれていたはずだけれど、今日も見に来てくれていたのかな。


「ふふっ、さすが黒塚くんですね。今日の演奏も素敵でした」


「はい。昨日も見てましたけど、今日のほうがすごかったですね」


「あ、そうなんだ?」


 水沢さんの言葉にすずが興味を示す。

 いつの間にか僕の隣にすずが並んで、野花さんと水沢さんが対面する形になっている。

 なんというか、すごく居心地が悪い。

 普通に水沢さんが、すずと野花さんに混じって三人でいる理由もよくわからないし……。

 えーっと、どうなってるんだろう……。お互い面識はないと思ったんだけれど……。


「そうなんですよ! なんていうか、昨日より今日は気合いが入ってたって感じがしました!」


 興奮した様子で水沢さんが、昨日と今日の僕の調子を語っている。今日の方が気合いが入っていたのは間違いない。

 でも見ていてそれがわかるとは思っていなかったので、やっぱり気合いを入れて演奏するっていうのは大事なんだなと改めて思う。


「あはは、それはすずちゃんがいるからしょうがないよね」


 野花さんが当たり前とでも言わんばかりにすずの背中を叩いているけれど。


「――えっ?」


 水沢さんが目を見開いてすずを凝視している。

 えーっと、ちょっと待ってくださいよ。すずがいるから僕の気合いが入るってことは、それはつまりそういうことで……。

 僕は焦りのまま右手のひらを前に差し出すが、何をしたかったのか目的もなかったので、そのまま宙をさまよわせることしかできていない。

 元々水沢さんに伝えようと思ってたんじゃないのか?


「えへへっ」


 隣から聞こえる声に思わず顔を向けると、すずが恥ずかしそうに頬を染めている。

 そして正面へと視線を戻すと、野花さんがいつものように微笑んでいるのみだ。

 水沢さんはといえば、すずを凝視しているけれど、その視線が徐々に僕の方へと向いてくる。

 そのたびに僕の心臓の音が早くなってくる気がする。何か言わないといけないはずなのに、まったくもって何も思い浮かばない。


「――やっぱりそうなんですね!」


 表情が一瞬歪んだかと思うと、パッと笑顔に変えて両手を胸の前で組んでこちらを見つめてくる。


「……へっ?」


 水沢さんの言葉が信じられなくて、思わず間抜けな声が出てしまったけれどしょうがないと思う。

 それにやっぱりって……。もしかして水沢さんは知ってたのかな……。


「ふふ、お付き合いしていれば気合も入りますね。……それに今日は私もいますし」


「……ええっ!?」


 野花さんが意味深な笑みを浮かべて誤解を招きそうなセリフを呟いている。

 えーっと野花さん? 紛らわしい言い方は水沢さんに勘違いされるんでちょっとやめて欲しいんですけど!?


「いやいやいや、何言ってるんですか! 今日の方がお客さんが多いんですから、そりゃ気合も入りますって!」


 僕は慌てて否定するけれど、水沢さんはこぶしを握り締めてぐぬぬと唸っている。


「あら、黒塚くんはすずちゃんのために頑張ったんじゃないんですか?」


 野花さんが心外とばかりに、いつものボサボサ頭と丸眼鏡の顔を斜めに傾げている。


「ええっ!? いや、あの……、それは……そうですけど……」


 お客さんの中にはすずも野花さんも含まれるわけで、だからどれも間違いではないわけで。僕はその場の雰囲気に押されて尻すぼみになりながらも頷いてしまう。

 というか野花さん、何言ってんのホントに!? すごく恥ずかしいんだけれど!


「あの……、わ、わたしも負けませんから!」


 なんだかよくわからないうちに羞恥心に悶えていると、意を決したような表情をして水沢さんが叫んでいた。

 いやあの、今度は水沢さん!?


「えーっと、……水沢さん?」


「ちょっと! 茜ちゃん!?」


 僕が戸惑っていると、隣にいるすずが野花さんを非難するような声を上げている。

 えええ……? ……ちょっとなんなのコレ?

 どうしてこんな状況になっているのかわけがわからず、僕はもう何を言えばいいのかわからない。

 途方に暮れていると、すずが僕の腕を取って抱きしめて来る。


「……すず?」


 思わず隣のすずの様子を窺ってみるけれど、離さないとばかりに僕に必死にしがみついているのみだ。


「あ……、えーっと……」


 聞こえてきた声に振り向くと、力強く負けませんと宣言をした水沢さんが、今度は顔を真っ赤にあたふたしている。


「すみません、そろそろわたしは教室に戻りますね」


「あ、うん」


 仕事を思い出したかのように慌てて走り去って行く水沢さんに、僕はそう声を掛けるしかできなかった。

 もうホントどういうことなんだろう。それに負けませんって……、お客さんと一体何を競うというのか。

 でも少なくともわかることはひとつだけある。

 野花さんが僕をからかったんだということだ。

 なんとなく雰囲気が早霧とか黒川と一緒だったし……。


「はぁ……」


 大きくため息をつきながら、水沢さんが去って行った方向を眺めていたところで、僕たちに集まる視線に気が付いた。

 えーっと、なんだか僕たち注目されてる……?

 うん、まぁ、水沢さんとか結構叫んでた気がするし、きっとそのせいだよね。


『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 集計結果が出ましたので、優勝したクラスを発表したいと思います!』


 どうやら集計も終わったみたいだ。

 周囲の視線も舞台へと向かったことで、注目されていたことによる緊張感が抜けていく。


「おーい、黒塚」


 呼ばれて振り向くと、早霧と黒川が並んでワクワクとした表情をしていた。すぐ近くに冴島と霧島もいる。

 あー、なんというか、いつものメンバーを見たらなんとなく安心するなぁ。


「結果が出たみたいだね」


 僕は早霧たちにそう声を掛けたんだけれど。


「いやそうじゃなくて……、黒塚っち、もしかして修羅場だった?」


「……はい?」


 えーっと、修羅場ってつまり……そういうこと?

 いやでも野花さんは僕をからかってきただけでしょ……?

 水沢さんは確かに……、いやいや、そんな雰囲気はするけれど、僕が勝手に想像しているだけで本当のところはわからないし……。


 結局僕は何も言えずに心の中で頭を抱えるしかなかったのだった。

2017.08.22 最後の3行ほど、鈍感すぎる主人公をちょっと気づかせるよう修正。

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