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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第五章
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087 呼び名

 早くに始まってしまった二学期初日の八月二十一日。

 登校するのは僕ら三年生だけなので、始業式は行われない。そして初日だからか授業も午前中で終わりだ。

 なので今日は早く家に帰ることができる日となっている。なので僕は早々に帰ろうと思っている。

 だって秋田さんと……、すずと一緒にお昼ご飯を食べる約束をしたから。

 家に帰って荷物を置いたら、すぐに隣の家へ向かうのだ。


「お昼ご飯作って待ってるから、早く帰ってきてね」


 なんて笑顔で言われたら、早く帰らないわけがないじゃないか。

 あー、それにしてもやっぱり慣れないなぁ……。

 秋田さんのことを『すず』って名前で呼ぼうって決めたけれど、咄嗟のときはやっぱり秋田さんって出てくる。

 とりあえず心の中で呼ぶのには恥ずかしくなくなったけれど、実際に彼女を目の前にして呼べるんだろうか……。


「はい、では解散」


 担任の久留米先生がいつものように解散を告げると、生徒たちが次々に動き出す。

 そのまま帰宅する者、友人と話を始める者、席に座ったままスマホをいじる者様々だ。


「おう黒塚。久々に昼飯でも食って帰るかー?」


 早霧と黒川が二人して僕の席へとやってくるけれど、残念、僕は寄り道せずに帰るよ。


「うーん。その顔だと今日は無理そうだね?」


 返事をしようとしたら、冴島に先を越されて言われてしまった。っていうかなんで分かったの。

 そんなに僕はわかりやすい顔してたのかな?


「うん。お昼ご飯作って待っててくれてるから早く帰らないと――」


「――って夫婦かっ!?」


 僕の断りの言葉が終わるか終わらないか辺りに被せるように、早霧が勢いよくツッコんできた。


「えぇっ!? ……いやいや、なんでそうなるのさ!? ……付き合いだしたの昨日からなのに」


 いきなりなんというツッコミをしてくれるんだ。

 まったく……、父さんからさんざんからかわれていなかったら、もっと慌ててたかもしれないけれど、そうはいかないぞ。


「黒塚っちもやるわね……。無自覚でラブラブっぷりを見せつけてくれるなんて……」


「いやいやいや、そんなつもりないから!」


 僕は立ち上がって抗議するけれど、まったくもって意に介した様子もなく、やれやれと肩をすくめる黒川。


「ほんと、黒塚くん羨ましい……」


「ええっ!!? 霧島まで……、何言ってるの」


 いつもは苦笑しながら乗ってくる霧島だけれど、今回ばかりは本気でそう思っているのか、その表情からは困った様子が窺えない。


「へー、黒塚くん愛されてるねー」


 あーもう、みんなやめてくれよ……。すごく恥ずかしいんだけど……。

 父さんのおかげでちょっと耐性がついてるのかと思ってたけれど、気のせいなんだろうか。


「そ、そういうわけだから……、僕は帰るよ!」


 そしてみんなから逃げるようにして学校からの帰路に就くのだった。




「ただいまーっと……、あれ……?」


 上り慣れたマンションの階段を駆け上がり、自宅のカギを開けて玄関で靴を脱ごうとしたところだった。

 何か違和感があると思ったら……、靴が一足分多い?

 ……なんで? ってもしかして。

 期待と不安を胸に靴を脱ぎ、そのままリビングへと向かう。

 家に帰ってすぐに隣の家に住む彼女のところへ行こうと思っていたけれど……。


 そこにいたのは予想通り、僕の彼女である秋田すずだった。

 長い髪をポニーテールにして、ノースリーブの淡いブルーのロングワンピース姿のすずが、パタパタとキッチンから嬉しそうに足音を立ててこちらへとやってきた。


「おかえり!」


「……ただいま」


 彼女が僕の家にいて、お昼ご飯を作ってくれているという不意打ちに動揺しながらも、なんとか言葉を返す。


「もうすぐご飯できるから待っててね」


「あ、……うん」


 えーっと、秋田さん……じゃなくて、すずが僕の家にいて、お昼ご飯を作ってくれている……。

 動揺がおさまってくると今度は自然と顔に笑みが浮かんでくる。あぁ、なんだろう。すごく幸せだ。

 キッチンからはいい匂いがしているし、きっとご飯も美味しいに違いない。

 とりあえずこのニヤニヤした表情を見られたくないので、鞄を自分の部屋へと置いてこよう。

 と思ったんだけれど、僕のこの表情はまったく隠しきれていなかったようで。


「えへへ……、黒塚くん、何かいいことあった?」


 自室からリビングへと戻ってきてすぐに、そんなことを聞かれてしまった。

 いいことって、そりゃありましたとも。


「うん。あったよ」


 以前よりも砕けた口調になるように気をつけながら、ダイニングテーブルへと着く。


「だって、帰ったらお昼ご飯を作って待っててくれる彼女がいるんだから」


「――えっ?」


 言葉と共にすずを見つめると、一瞬だけ固まった後に頬を赤く染めて俯くすず。


「……えっと、……だって、約束したから」


「うん。……だけどそれが嬉しいんだけどね」


 昨日告白する前のすずのことを思い返すと、今笑ってくれている姿を見ると、とても幸せに感じるのだ。ホントに告白してよかった。

 もじもじと恥ずかしそうにする様子を見ていると、余計にそう思えてくる。


「あ、そうだ……」


 やっぱりいきなり呼ぶよりは、聞いてみてからのほうがいいよね……?


「……なあに?」


 返事と共に俯いていた顔をちょっとこっちへと向けるすずに向かって、僕は正直に聞いてみることにした。


「あの……、今日から秋田さんの事……、『すず』って呼んでもいいかな?」


「えっ?」


 キョトンとした表情になるすず。えーっと、もしかしてダメだったかな……。僕の方が年下だし……。

 若干不安に襲われ始めた時に、すずの表情がだんだんと緩んできたと思ったら。


「うん! いいよ! すずって呼んで! せいちゃん!」


 満面の笑みを浮かべて僕をちゃん付けで呼ぶのだった。

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