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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第四章
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077 里帰りの終わり

『ただいま』


 両親が帰って一人になった二日後の十六日夕方、僕のスマホにラインが入っていた。

 秋田さんからだ。

 ……どうやら実家から帰ってきたらしい。

 僕は頬が緩んでくるのを自覚しながらも、しっかりと返事をする。


『おかえり』


 両親が帰ってからは本当に僕一人だけだった。お隣の秋田さんと野花さんも里帰りしているとのことだったので、マンションの五階全体でも僕一人だ。

 学校の友人も里帰りしているので僕は一人、家でゴロゴロしながら受験勉強をして過ごしたのだ。

 秋田さんが帰ってきたとわかってちょっと嬉しくなる。

 そういえば野花さんも秋田さんと同じ日に帰ってくるって言ってたかな。


 夕飯を済ませて受験勉強の合間にキーボードを弾いていると、インターホンが鳴った。

 もしかして秋田さんかなと期待を膨らませて玄関に出ると、最初に視界に入ったのは、いつものボサボサ頭で丸眼鏡の野花さんだった。

 ――と、後ろに顔を俯かせた秋田さんもいたことに僕は嬉しくなる。


「こんばんわ。黒塚くん」


「こんばんわ。二人とも帰ってきたんですね。おかえりなさい」


 野花さんの言葉に僕も挨拶を返すと、そこでようやく秋田さんが顔をあげて僕に微笑を見せてくれた。


「黒塚くん……、ただいま」


「こんな時間にどうしたんですか?」


 今の時間は夜の八時過ぎくらいか。

 こうして秋田さんに会えるのは嬉しいけれど、こんな時間に尋ねてきた理由がわからずに首を傾げる。


「はい、これ、お土産」


 そう言って野花さんから差し出されたのは小さい紙袋だ。


「わたしもお土産だよ」


 続けて秋田さんからも紙袋を差し出されると、僕は戸惑いながらも両方とも受け取る。


「あ、ありがとうございます」


「ふふ、黒塚くんのご両親にもお土産いただいたしね」


 お土産って……、ああ、そういえば野花さんちにも父さんと母さんが持って行ってたなぁ。

 とそこまで思い出したところで、母さんから聞かされた、野花さんが言った『ご家族』というセリフを思い出してしまった。

 咄嗟に野花さんに一言モノ申したくなったけれど、隣に秋田さんが一緒にいるのでなんとか思いとどまる。……と同時に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「うん。もらったお土産美味しかったよ」


「あ……、うん。よかった。父さんにも伝えておくよ……」


 僕の言葉に顔を見合わせる秋田さんと野花さん。

 あ、そうか。僕の両親がもう帰ったこと知らないのかな?


「あれ、黒塚くんのご両親はもう帰られたんですか?」


「うん。一昨日の朝早くに帰ったよ」


「そうなんですか」


 僕の言葉にちょっと残念そうな表情になる野花さん。

 秋田さんは逆に一瞬ホッとした表情になったような気がするけれど、まぁあれだけグイグイきてたうちの両親だ。多少辟易してたとしても仕方がないと思う。


「……じゃあわたしはもう戻るね。……おやすみなさい」


 両親に挨拶が不要とわかったからか、秋田さんは早々に引き上げるようだ。

 が、僕もおやすみなさいと言おうとしたところで、返事も聞かずに踵を返して秋田さんは帰って行った。

 ……まぁ実家から帰ってきたばっかりなら疲れてるかもしれないね。


「……すずちゃん?」


 帰る秋田さんに野花さんが声を掛けるでもなく小さく呟いている。


「あ、ごめんね、黒塚くん。私も今日は帰りますね」


「あ、はい」


「じゃあおやすみなさい」


「おやすみなさい」


 こうして野花さんも自宅へと帰ると、僕の手元にはお土産が二つ残るのだった。




 お盆の時期が過ぎれば、僕たち御剣高校三年の夏休みは終わる。

 進学校ということはこういうときが辛い。八月二十一日から二学期の授業が始まるのだ。

 秋田さんや野花さんは、夏休みが八月頭からだったと聞いていたけれど、始まるのが遅い分、終わるのも遅いそうだ。九月の中旬まで夏休みだという。

 そもそも僕は夏休み中でも学校の夏期講習へと通っていたから、夏休みだからと言って休みがあったわけではないけれど。

 それでも夏休みが終わるというのは悲しい出来事だ。


 そんな夏休みが終わる二日前の夕飯後、野花さんから電話の着信があった。


「なんだろう……。はい、黒塚です」


 僕はスマホをタップすると耳に当てて応答する。


『あ、黒塚くん。こんばんわ』


「こんばんわ。……どうしたんですか?」


 野花さんとやり取りする場合はラインが多いけれど、そもそもそれほど頻繁に連絡を取るほうでもない。

 秋田さんへのおすそ分けを作りすぎた場合に野花さんのところへも持って行くことがあるけれど、他愛のない話であればその時に済んでしまうからだ。


『ねぇ黒塚くん。……すずちゃんが実家から帰ってきてから様子がおかしいんだけど、何があったか知らない?』


 ――えっ? ……様子がおかしい? っていうか、様子どころかあれから僕は秋田さんに会ってないんだけれど。


「いえ……、というかあれから僕は秋田さんに会ってませんので……」


『あら、そうなのね。何か知ってれば教えてもらおうと思ったんだけど……』


 っていうか、なんで野花さんは僕に聞いてきたんだろう……。秋田さんと野花さんは友人同士だよね……。

 僕より詳しく知ってそうな気がするんだけれど……。


『何か元気がなさそうだったからね……。それならそれで、黒塚くんにすずちゃんを元気づけてもらえないかなと思って』


「……えっ? 僕ですか?」


 僕なんかよりも友人の野花さんの方が適任な気がするんだけれど……。

 野花さんはなんで僕に頼むんだろうか……。まぁ秋田さんの元気がないっていうんであれば、僕が励ましてあげたいけれど。


『そう。お願いできるかな?』


「あ、はい……。わかりました」


『ありがとう……。じゃあまたね』


 そのまま野花さんとの電話が切れたけれど、僕はしばらくそのまま考え込んでいた。

 実家で秋田さんに何かあったのかな……。元気がないってどういうことだろう……。

 今考えても仕方ないな。美味しいものでも食べれば元気が出るかもしれないし、明日おすそ分け持って行こう。

 そう決意をすると、明日のおすそ分けの料理を考えるのだった。

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