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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第四章
73/136

073 両親

「ところで黒塚くん。明日だっけ? ご両親が帰ってくるの」


 朝ご飯を食べ終わって一服しているときに、すっかり忘れていた僕の予定を秋田さんが確認してきてくれた。


「ああ……、そういえばそうでした……」


 ホントに忘れていた。というか体調が悪くてそれどころじゃなかったというのもあるけれど。

 やろうと思っていた掃除もしていない。今の調子だと……、できなくはないけれど、悪化させる可能性も無きにしも非ず。


「あはは、……部屋の掃除とか、できてないよね?」


 テーブルに突っ伏している僕に、秋田さんが恐る恐る核心をついてくる。

 はい、まさにその通りです。結局掃除できていません。

 体調が悪かったことがわかれば怒られはしないとは思うけど、母さんから毎日心がけていればとお小言をもらう可能性は捨てきれない。


「……できてません」


「じゃあわたしがお掃除手伝ってあげる」


 力なく呟く僕に、秋田さんがまさかの提案をしてきてくれたのだ。

 いやいや、さすがにそれは悪いです。看病に加えて掃除を手伝ってくれるなんて……、って益々夫婦みたいじゃないか!


「ううん。お詫びに手伝わせてもらえないかな?」


 あまりもの羞恥に伏せたテーブルから顔を上げられないでいると、秋田さんからそんな言葉が聞こえてきた。


「……お詫び?」


 思わず顔を上げて秋田さんの顔を見てみるけれど、その表情は真面目だ。いやむしろ申し訳ない感すら漂っている。


「うん。一昨日に弟が泊まりにきたんだけどね……、本当は今日も泊まって、明日二人で実家に帰る予定してたんだけど……。

 知りもしないくせに黒塚くんの悪口ばっかり。しかも黒塚くんを睨みつけたって言って……。腹立ったから今朝早くから追い出しちゃった」


 ――えっ?


 弟? 睨みつけた……って、あのとき僕を睨んできたクールイケメンかっ!?


「ごめんね黒塚くん。弟って目つき悪いから、もしかして怖かったんじゃないかなって思って……」


 いやいやいや、確かにちょっとコワかったけれど、……ってちょっとコレ恥ずかしいんですけどっ!?

 弟を怖がる僕って、秋田さん的にはどうなの!? すごく評価が下がる内容な気がするんだけど!


「ははっ……、そんなことないですよ?」


 若干棒読みな気がしないでもないけれど、なんとかそれだけの言葉を絞り出す。

 あのときの男が彼氏ではなくて安堵するとともに、なんとも言えない情けない気持ちも僕の中に溜まっていくのだった。




 結局秋田さんに掃除を手伝ってもらってしまった。

 さらに言うと、お昼ご飯まで作ってもらってしまった。

 なんということだ。これではますます僕は秋田さんなしでは生きていけない体になってしまっているんではなかろうか。


 というかだ。

 体調不良を理由にして、朝ご飯を食べた後も寝室に追いやられて僕は寝ていたのだ。

 そしてふと目が覚めて昼過ぎにリビングへ戻るとコレである。

 お昼御飯が用意されていれば食べるしかないだろう。というか食べないという選択肢なぞあるはずもない。


「さすがに自分の部屋は黒塚くんが掃除してね」


「あ、はい」


 ダイニングテーブルの向こう側で微笑む秋田さんに僕はもう頭が上がらない。

 今晩か、明日の朝にでも自分の部屋は掃除しよう。

 にしてももう夕方である。体調も残念ながらほぼ戻ってきたし、これ以上秋田さんに迷惑をかけるわけにはいかない。


「秋田さん。今日はありがとうございます。ホントに助かりました」


 締めくくる意味も含めてお礼を言うけれど、秋田さんは首を振るのだ。


「ううん。気にしなくていいよ。わたしがやりたくてやってるだけだから……」


 慈愛の笑みをたたえてそう呟く秋田さん。……だけど、ここまで本格的に掃除する必要はなかったんだけどなぁ。

 僕は周囲を見回すけれど、隅々までが整理整頓されていてチリ一つも落ちていないような徹底ぶりだ。

 でも、なんだろう……、心の中が温かいもので満たされていく。やっぱり……、秋田さんは優しいな。


 ピンポーン


 そのとき、タイミングを見計らったかのように家のインターホンが鳴った。

 誰だろう。って、僕の家を訪ねて来る人間はそんなにいないか。可能性があるとすれば野花さんだな。


「あ、わたし出てくるね」


 秋田さんも野花さんの可能性に気付いたんだろう。僕の家だというのに、エプロンをつけたまま躊躇なく玄関へと出て行った。

 もしかしたら僕の体調不良が秋田さんから野花さんへと伝えられていたのかもしれない。


「はーい」


 玄関から秋田さんの声と、鍵を開ける音と、扉を開ける音が聞こえてくる。

 ……が、続けて聞こえてくるはずの「いらっしゃい」という声は聞こえてこない。


「……あれ?」


 訝しんで僕はリビングから玄関へと続く開けられたままの扉を見つめていると、その奥から聞きなれた声が聞こえてきた。


「あれ、部屋間違えたかな?」


「合ってますよ、あなた。確かに502って書いてありますし、ほら、表札も……」


 ――えっ? なんで?


「あの……、えっと、すみません……、どちら様でしょうか」


 玄関から戸惑った秋田さんの声が聞こえてくるけれど、僕はそれどころじゃない。

 確か来るのは明日って言ってたよね? なんで……父さんと母さんの声がするのさ!!


「あ……、秋田さんに任せるわけには……!」


 そこまで考えたところでこのまま放置しておくのもまずいと気が付いた僕は、急いで玄関へと向かうのだった。

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