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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第三章
60/136

060 カメラ

「ここの学食って前にテレビでニュースになったこともあるんだって」


 向かいに座る秋田さんがカレーをつつきながら、この大学についていろいろ教えてくれている。


「へぇ、そうなんですね」


 うん。確かにここの学食は美味しいね。ニュースになるのもわかる。

 だけれど、秋田さんの話は僕には半分くらいしか届いていないのだ。

 なぜって?


 ……それは、重要なことに気が付いたからなんだ。

 だって、秋田さんと二人っきりだよ……?

 僕が……その、好きになっちゃった秋田さんと、二人で来てるんだよ。これっていわゆる、デートってやつなんじゃないだろうか?

 いや好きになったかどうかなんて関係ないかもしれないけどさ……。なんていうか、すごく緊張してきたというか……。


 楽しそうに話をする秋田さんを窺ってみるけれど、正直ちゃんと顔を見ることができていない。

 自分の顔が熱くなってくるのを誤魔化すように、僕は親子丼を掻き込むけれど。


「――げほっ、げほっ」


 うぐっ、器官に入った……。


「だ、大丈夫……? はい水」


「……げほっ、あ、ありがとうございます……」


 差し出された水を思わず飲んでしまったけれど、それが誰の水か気が付いた僕はさらに吹き出しそうになった。

 これ……、秋田さんの水じゃないのかな!? 僕の水はちゃんと僕の前に置いてあるし! 確かに僕のはほとんど残ってないけど!


「ごほっ、げほっ」


 治まってきたけれど、この嬉し恥ずかし気分をどうにかしたくてさらに咳込んでみる。

 ……うん、変わるわけないよね。


「……あー」


 水の入った秋田さんのコップを机の真ん中あたりに置いて、喉の調子を確かめていると。


「あははっ」


 秋田さんがいたずらが成功したみたいないい表情で声を上げた。




 それからは二人で学校を回り、オープンキャンパスの各種イベントにいくつか顔を出した。

 他の学校は知らないけれど、藤堂学院大学はかなり規模の大きい大学だけあって設備が充実していたのは間違いない。

 まさか録音スタジオまであるとは……。

 うーん、やっぱりこの学校で決まりかなぁ。

 ……秋田さんもいるし。


 デザイン学科も見学してみたけれど、こっちはこっちで面白かった。

 自分の知らない分野について知れたというよりは、僕の知らなかった秋田さんの一面が知れたことが大きいのかもしれない。


「うわっ、ここって……?」


 そこそこ大きなホールに、秋田さんに言われるがままに連れられてきた。

 照明がステージを照らし出し、その中でさらにフラッシュの光が放たれる。

 どこかで見たような光景だった。


「撮影スタジオだよー」


 なるほど……。

 録音スタジオがあったんだから、デザイン学科だけじゃなく写真や映画系の学科があるんだし、こういうスタジオもあって不思議じゃないよね。


「ほらほら、わたしが撮ってあげるよ!」


 なぜかすごく秋田さんが張り切っている。……もしかして野花さんもこうやって秋田さんに撮られたのかもしれない。

 どうやらここでは撮る人、撮られる人どちらも体験ができるようだ。

 どっちかと言えば、僕は秋田さんを撮ってみたいんだけれど……。


「あ、はい……」


 なんとも言いよどんでいるうちに、秋田さんに急かされて舞台の方へと近づいていく。


「お、次は兄ちゃんかい」


 スタッフの学生だろうか、眼鏡をかけた男の人が僕に気が付いて声を掛けてきた。


「がんばってねー」


 秋田さんが大きなカメラを構えて僕に手を振っている。

 えーっと……、がんばります。


「――チッ……おっと、こりゃ兄ちゃんがんばらないといけないな」


 僕たちの様子を見たスタッフさんが、舌打ちと共に撮影の趣旨と注意点を伝えてきた。

 テーブルの上にはラフデザインが描かれたファッション雑誌もどきが置かれている。

 そして開かれているページの一部が空白となっていた。どうやらこの空白の隙間を埋める写真を撮るというイベントのようだ。

 もちろんそんなことはお構いなしに写真を撮りまくってもらってもかまわないとのことだ。

 変な縛りをつけて楽しめなかったら意味がないってスタッフさんが言っていた。


「いいねー、一秋かずあきくん」


 調子を上げてシャッターを切る秋田さんが、自分でつけた名前で僕を呼び始めた。

 こんな場所でその名前を呼ばれるのはちょっと恥ずかしいんだけど……。

 とは言え心の中では気分が高揚してくるのを感じる部分もある。撮影時の気分になってくるというかなんというか。


「秋田さん。そろそろ交代しませんか」


 このまま放っておくと永遠に僕が撮られ続けられそうな気がしたのだ。

 それにやっぱり僕も大きいカメラ使ってみたいし。


「えー」


 僕の言葉に秋田さんが唇を突き出して答えてくれた。

 だけれど首から下げているごついカメラがその雰囲気を台無しにしている。


「……僕もカメラ使ってみたいです」


「あ、そっか」


 自分だけ撮っていたことにようやく気が付いたといった表情で、秋田さんが首にかけたカメラを外して僕に手渡してくれる。


「はい。じゃあ可愛く撮ってね」


 いたずらっぽくそう言うと、秋田さんは舞台へと向かって歩いて行く。

 僕はその間にカメラを首に下げると、ファインダーを覗く。おお、なんか大きいカメラってかっこいいな。

 これなら綺麗な写真が撮れそうな気がしてくるから不思議だ。

 そうこうしているうちに、ファインダーの中の秋田さんがこちらを振り返ってポーズをとった。


 ……なんでそんなに前かがみなんでしょうか。


 秋田さんのポーズにシャッターを切る指が停止してしまった。

 まずいとは思うものの、直接秋田さんを見ているわけではないからか、視線を外すことができない。

 ちょっと……秋田さん、その……、見えそうですよ……?

 心の中で秋田さんに注意するも、そんなものは届くはずもなく。


「早く撮ってよー」


 待ちくたびれた秋田さんにむしろ催促されてしまった。その表情はとっても笑顔だ。

 だというのに僕の背中には大量の汗が噴き出している。


「ねぇ、どうしたの?」


 前かがみのポーズのままさらに小首を傾げる秋田さんに、僕の何かが耐えきれなくなったのは仕方がないと思う。

 その瞬間にホール内はカメラのフラッシュで白く染まったのだった。

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