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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第三章
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058 素直な気持ち

「……そいつ誰?」


 東原ひがしはらと呼ばれた男が僕を怪訝な様子で見つめてくる。

 その言葉はたぶん、秋田さんに向けられているのだろう。


 ――というか、お前こそ誰だよ。


 秋田さんを呼び捨てにしてるってことは……少なくとも同じ学年以上ってことなのかな。

 僕は不機嫌そうになっていると思われないように表情を抑えながら、東原と呼ばれた男を凝視する。

 僕よりも二十センチは背が高いだろうか。清潔感のある短髪に、顰められながらもキリリと整った目元と鼻筋。僕から見ても誠に遺憾ながらイケメンに見える。


「か……、彼は、近所に越してきた高校生よ……」


 秋田さんのその言葉に、東原の眉間に寄せられていた皺がさらに深くなる。


「……ふーん」


 こちらに近づきながら僕にジロジロと視線を向けて来るけれど、とても不快なのでやめていただきたい。


「高校生ねぇ……」


 最後にポツリと呟いて勝ち誇ったように鼻で笑うと、僕に興味を無くしたようで秋田さんに視線を戻す。


「なあ秋田。……ちょっとは考えてくれたか?」


 ……うん? ……考えてくれた? 秋田さんがこいつの何を考えるんだ?

 鼻で笑われたことも相まって、もう僕は不機嫌オーラを隠すことを止めていた。腕を組んで東原を睨みつける。

 心の中に何かモヤモヤとしたものが溜まっていっているのが自分でもわかる。

 ……くそっ、なんだよこれ……。


 秋田さんが困っているのはなんとなくわかるけれど、相手が誰なのかもわからない僕にはなんとも割り込みづらい。

 というかどう言って割り込んでいいのかもわからなくて、イライラだけが募っていってる気がする。


「あ……、えっと……」


 秋田さんが考えあぐねていると、東原の後ろにいた男二人が騒ぎ出す。


「なぁ東原、この子が前に言ってた……?」


「あ……! そういうこと!?」


 後ろからの声に興が削がれたのだろうか、肩をすくめると一瞬だけ後ろを振り返る東原。


「……ああ、そうだよ。……すまん秋田。今日はちょっとピアノ弾きにきただけだから。……まあ聴いていってくれよ」


 それだけ言うと東原はグランドピアノの方へと歩いて行ってしまった。

 思ったよりしつこそうでなくて胸をなでおろす僕。だけれど、ちょっと気になるキーワードが出てきたな……。


 ――ピアノを弾くだって?


 秋田さんと知り合いっぽいからてっきり同じデザイン学科の人かと思ったけれど、もしかしてメディア学科の人?


「はぁ……。ごめんね、黒塚くん」


 大きくため息をついた秋田さんが僕を振り返ると申し訳なさそうに縮こまっていた。


「あ、いえ……。ところで、あの人って誰なんでしょうか……?」


 グランドピアノへと座り、ペダルの具合を確かめている男を目線で指し示す。


「あー、うん……。メディア学科の一つ上の先輩なんだけどね……」


 やっぱりメディア学科の人か……。学科の違う先輩と接する機会ってよくあるのかな……。

 大学って講義が選択制だから、重なることもあるのかもしれないけれど。


「その……、ちょっとしつこくて……」


 秋田さんは俯いてしまってそれ以上何も言葉を発しない。


「そうなんですね……」


 かといって僕もなんて秋田さんに声を掛けていいかわからない。

 そういえば秋田さんは女子高だったって言っていたような……。もしかして男にあまり免疫がないのかも……?

 でもそうすると僕は何なんだろう。……男としてみられていないとか。


「うん……。やっぱりしつこい男の人は苦手かな……」


 変な想像をしているとポツリと秋田さんが呟く。

 その言葉に僕はドキリとするけれど、男の人の前に『しつこい』とついていたので、僕はほんのちょっとだけ胸をなでおろす。


 ――僕ってしつこくないよね?


 心の隅で別の心配事が発生した気がしないでもないけれど、それはスルーだ。

 余計なことを考えているとグランドピアノがアップテンポなメロディーを奏でてきた。

 例の男が弾いているみたいだけれど、今の僕にそれを楽しめるわけもなく。


「あ、もちろん黒塚くんは大丈夫だよ。……かわいいからね」


 ぎこちない笑顔で秋田さんが僕に微笑んでくれる。今の僕はとても複雑な気分だ。

 なんだか無理をさせているようで、秋田さんに対してはいたたまれない気持ちだ。

 東原ひがしはらという先輩に対してとても腹が立ってきているし、かわいいと言われた僕自身は男とみられていない可能性に動揺している。


「えっと……、ありがとうございます?」


 思わず疑問形になってしまったけれど許してほしい。だってしょうがないじゃない。ちょっと頭の中がぐるぐるしてるんだから……。


「ふふっ、……本当はね、黒塚くんがピアノ上手だって茜ちゃんから聞いて、ちょっと弾いてみて欲しいなぁって思ってたんだ」


 その言葉に以前の撮影でやらかしたときの記憶が蘇ってきた。

 その時は自分もノリノリで弾いていたんだけれど、終わってみて後で思い出すととっても恥ずかしくて自宅のベッドで悶えた気がする。

 でも……、今は秋田さんには僕の演奏を聴いて欲しいと素直に思った。


「そうなんですね……。じゃあ、アレが終わったら……僕の演奏聴いてもらってもいいですか?」


 僕は笑顔でそう告げるのだった。

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