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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第三章
52/136

052 秋

 今日は菜緒ちゃん以外にもモデルさんがいた。

 男性と女性の二人で、男性が矢神やがみひびきさんで、女性が加賀谷かがや千尋ちひろさんと自己紹介された。


 矢神さんはかなりの長身で、早霧よりも確実に背が高い。短く刈り込んだ髪にキリッとした表情がまたカッコいい。


「俺のことは響って呼んでくれ。よろしくな一秋かずあき


 いきなり名前で呼び捨てられた。でもさっぱりした性格に見えるイケメンお兄さんという感じで、悪い気はしない。

 だけど僕の頭をポンポンするのはどうかと思います。


「はい、よろしくお願いします。響さん」


 加賀谷さんもかなり背が高い。僕の周りにいる女性陣の中でもトップクラスだ。黒川より少し高いくらいで、菜緒ちゃんと同じくらいだろうか。

 そしてその胸部もトップクラスだ。これが本業のモデルさんの破壊力なのだろうか……。


「じゃあ、あたしのことも千尋って呼んでちょうだい。よろしくね一秋くん」


 そう言って千尋さんは僕に視線を合わせるようにして屈んでから、やっぱり僕の頭をポンポンしてきた。


「……よろしくお願いします。千尋さん」


「あー、私も一秋くんって呼ぼう。よろしくね」


 いやだから菜緒ちゃんも僕の頭ポンポンするのやめてください。

 逃げたり手を振り払うのも憚られたので、僕の表情だけ不機嫌になっていくのが自分でもわかる。


「いやーん。かわいー」


 だけれど千尋さんが変な声を上げて僕の頭を撫でる手をますます強くしてきた。


「ちょ、ちょっと……、やめてくださいよ……、せっかくセットしてもらったのに……」


 このあと僕はスタイリストの湯崎さんに文句を言われるのだった。

 解せぬ。




「はーい、今回は秋特集ということでいろいろ小物を入れていくわよー」


 ある程度撮影も進んだところで、監督が今回のテーマを告げる。……とスタッフさんが続々と舞台へと様々なものを運び込み始めた。

 テーブルの上には本が数冊にお菓子が並べられ、撮影セットとして配置されている色づいた葉をした紅葉の樹もある。

 さらには各種球技用ボールをはじめスポーツ用品に、ギターやキーボードといった楽器まで。

 このスタジオには一体どれだけ備品が置いてあるんだ。さすがに持ち込んだものもあるだろうけど、バスケットゴールとかどこから持ってきたんだろう……。


「写真が撮れればそれでいいから、できないものを選んでもらってもかまわないわよ」


 そう言われてもできるものを選んだほうがよさそうな気がする。少なくとも僕にはギターを弾いたふりをするのはできそうにない……。

 だとすれば間違いなく僕はキーボードを選ぶ。

 響さんはバスケットボール、千尋さんはテニスボールか……、ラケットじゃないんだ。菜緒ちゃんは本を持って紅葉の樹の下へ向かったようだ。

 じゃあ僕は予定通りにキーボードかな。


 撮影は一人ずつのようで、響さんから順に進んでいく。

 バスケの経験者なのだろうか、ドリブルからのシュートを綺麗に決める響さん。

 千尋さんは……、ってテニスボール三つでジャグリングしてる……。順に回したりクロスしたり多彩な動きだ。

 菜緒ちゃんは樹の下で本のページを静かにめくっている。もうそれだけで絵になる。


「ふーん……。黒野くんはキーボードなのね」


 監督が僕の座る椅子の前に置かれている楽器を見て呟いている。


「弾いてるふりでもなんでもいいから、音楽の秋が伝わりそうな感じで頼む」


 カメラマンの神原かんばらさんから漠然とした指示が飛んでくる。

 なんとも無茶ぶりじゃないだろうかと思いながら、僕は何を弾こうかと考えてみる。

 ……まずは定番の『エリーゼのために』から。


 撮影が始まってからは気分が高揚してくるのは前回と同じだ。

 そんな気分の中、気の赴くままにしばらくキーボードを弾いていたと思う。

 いつもなら無難に抑えてこんなにも弾くことはなかったはずだ。

 ふと気が付いたら全員の視線が僕に集中していたのだ。いやまぁ舞台にいるのだから注目されるのは当たり前なのだけれど。


「えーっと、あー、ごめんなさい。……結構集中していたみたいで」


 苦笑いしながら謝る僕に、なぜか周囲からの拍手が響き渡る。

 ……なんだこれは。僕は好き勝手に弾いていただけなんだけれど。


「黒野くん……、すごいわね……」


「……一秋くんすごい。……私鳥肌立っちゃった」


 監督は目を見開いて眉間にしわを寄せている。菜緒ちゃんは両腕をさすりながら僕を褒めてくれていた。


「ああ、俺も鳥肌立った」


「一秋くんやばいね」


 響さんと千尋さんも大絶賛だ。なんだかとても面映ゆい。

 そういえば僕は誰にも演奏を披露したことはない。

 習い事をやめてからなんとなく弾きたくなって、自宅で気分転換に今まで弾いてきただけだ。


「そ、そうなんですか……。ありがとうございます」


 嬉し恥ずかしで後頭部をかきながら視線を足元へと落とす。

 うーん……、僕の演奏は悪くなかったってことだよね……。今まで考えたこともなかったけれど、自慢していいことなのかな。


「これは……、思った以上の逸材かもしれないわね……」


 そんな監督の呟きと共に、撮影はこの後も続けられたのだった。

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