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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第三章
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049 相合傘 -前編-

 六月である。

 つまり梅雨の時期である。

 ここのところ天気も悪く、急な夕立に見舞われることも多い。

 そしてそんなときに限って傘を忘れるという事件が起きるのだ。

 まったくもって天気予報はあてにならない。


「うわー……、すごい降ってるよ……」


 解散が告げられた放課後の教室の窓の外はすごいことになっていた。

 絶望感と共に呟くと、帰り支度をしていた早霧に聞かれたようで。


「そうだなぁ。天気予報だと雨は夜って言ってたのにな」


「だよね……」


「まぁ、こうしてても止むかわかりませんし、帰りましょうか」


「そーそー、帰ろうか」


「えー、今日部活なの私だけー?」


 霧島と冴島も今日は部活はないらしい。料理部は水曜日と金曜日だけだし、冴島のパソコン部は活動そのものは毎日あるみたいだけど、本人が不定期参加だ。


「はは、そうみたいだね」


 運動部で雨が降っていても、体育館が開いていればそっちで活動はあるようだ。

 ……雨でも活動できる部は持ち回りみたいだけど。


「おう、黒川がんばれ」


「がんばってね」


「はいはい、じゃあ行ってくるよ」


 みんなに励まされながらも手を振って教室を出ていく黒川を見送る。


「オレらも帰ろうか」


「んだな」


 四人でぞろぞろと教室を出て昇降口へと向かうと、靴を履き替えて校門方面へ歩きながら鞄の中を探る。


「……あれ?」


 床に鞄を置いて、じっくりと中を確認してみるが、やっぱりない。


「どうしたの? 黒塚くん」


 霧島が僕の鞄を覗き込んでくるけれど、それで見つかるはずもなく。


「いやぁ……、どうも傘を忘れちゃったみたい……」


 鞄を閉じながら、激しく雨の降る外を呆然と見つめる。


「うーん。……予備の傘なんて持ってないしね」


「じゃあ誰かの傘に入るしかないな。……まぁ、途中の交差点までだが」


 その早霧の言葉に三人が持つ傘を観察してみる。

 冴島と霧島が持つ傘は折り畳み傘のようだ。そもそも二人で入れるような大きさの傘ではない。

 霧島は僕と身長が変わらないだけあって小柄ではあるが、その分傘のサイズも小さい。冴島に至っては本人が横に広いので問題外だ。

 ……となると。


「自分で言っといてなんだが……、俺か」


 男と相合傘なんてと思わないでもないけれど、この激しすぎる雨ではしょうがない。

 もともと夜から降る予報だったので、待っていても止む可能性は低いだろう。

 ……勢いだけは弱まるかもしれないけれど。

 交差点まで出れば少し行けばコンビニもあるし、傘が買えるはずだ。


「じゃあお邪魔します」


 身長が高い早霧だけあって、傘も大きめのものを使っていて余裕がある。

 まぁそれはいいんだけれど……、早霧と近い距離というのがどうも……、自分の背の低さが目立つようで気が引ける。


「はぁ……、黒塚が秋田さんだったらなぁ……」


 早霧が何かブツブツと文句を言っているけれど、それは同感だ。早霧が秋田さんだったら……。

 昇降口から雨が降る外へと出るが、さすがにまったく濡れないというわけにはいかないようだ。

 かといって早歩きなんてしようものなら、それこそ傘からはみ出る確率も跳ね上がるだろう。

 僕たちはいつものペースと変わることなく歩いて駅方面へと向かった。




「ありがとう」


 駅へと続く交差点で、早霧にお礼を言って別れる。


「黒塚くんも気を付けてね」


「うん。バイバイ」


 この交差点にはちょうど雨宿りできる場所があるのだ。

 パン屋さんなんだけど、軒先を借りていても特に文句は言われない。

 ……むしろあまりにもいい匂いに負けて、軒先だけ借りているつもりが、フラフラと店内に入ってしまって気づいたら購入してしまうことが多いからだ。

 というわけで僕はしばらく雨が弱まるのを待つことにしている。……匂いに耐えながら。

 雨が弱まったら走ってもいいし、向こうのコンビニで傘を買ってもいいし。

 とにかく今のこの大雨の中に傘なしで出るという選択肢は僕にはなかった。


「……うう、……お腹空いてきた」


 くっ……、まずい。早くも焼き立てパンの匂いに耐えられなくなってきた。

 全面ガラス張りの店内に目を向ける。中には買ったパンを食べられるようになっているスペースもある。

 僕は匂いに吸い寄せられるようにパン屋さんの入口を開けると店内に入るが……。


「美味しい」


 気が付けば店内のテーブルに着いてパンをほおばっていた。

 まぁ、いつものパターンだよね。ここで雨宿りしている人がパンを買わずに去るところをみたことがない。

 それに好物の明太フランスが僕を呼んでいたんだ。これを食べずに帰れるだろうか。

 一緒に買ったジュースを飲みながら、相変わらず雨が降り続ける外を見ると。


「――あ」


 そこには傘を差しながら僕に手を振る秋田さんがいた。

 僕が気づいたことに気が付くと、傘をたたんでパン屋さんの中に入ってくる。


「こんにちわ。もしかして黒塚くん、雨宿りかな?」


 いたずらっぽく笑う秋田さんに見事に言い当てられ、ちょっと恥ずかしくなった。

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