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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第三章
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047 味わって食べて

 水沢さんと二人で学校を出て、駅と僕の家とで別方向となる交差点で別れて自宅へと帰ってきた。

 結局ほとんど会話らしい会話はしていない。

 腕と腕が触れそうなくらい近づいて歩いていたことくらいしか記憶にない。

 何度か距離を取ろうとしたけれど、そのたびに近づいてくる水沢さんに僕が観念したのだ。あまり露骨に離れるのも印象が悪いだろうし。

 前日にやらかしてしまったことと、水沢さんとの物理的な距離のせいで恥ずかしくて、やっぱり顔を合わせられていない。

 そんな僕を見て嬉しそうにする水沢さんを視界の端に捉えていたけれど、僕は気づかないふりをずっとしていた。


「はぁ……」


 精神的に疲れていたので今日は自炊する気が起きない。なので、スーパーに寄ってお弁当を買ってきていた。

 お弁当をテーブルに置くと、制服を着たままリビングのソファーへと腰かけて全身の力を抜く。

 しばらくとりとめのないことを考えながらボケーっと虚空を眺める。


 隣人である秋田さんと野花さん、後輩の水沢さん、同級生のいつものメンバーに、バイトのことなど……。

 あー、うん。いろいろあるけど、結構毎日楽しく過ごせてるよね。

 恥ずかしいことも多いけど、それはそれで贅沢というものだ。


「よし。キーボードでも弾くか」


 中間テストも終わったし、しばらくは好きなことをしよう。

 本当は受験勉強もしないといけないんだろうけれど、受験なんてまだまだ先だ。今はいいよね。

 僕は自室に戻って着替えると、音量を小さめにしたキーボードを気の赴くままに弾くのだった。




 気が付くと外が薄暗くなっている。

 思ったよりも集中してキーボードで弾いていたらしい。

 最近ハマっているのはアニメソングだ。思ったよりカッコいい曲とかが多いよね。

 アニメそのものはあんまり見ないけれど、動画サイトとかを検索するといっぱい出てくるんだよね。

 最初習っていたときはクラシックばっかりで、僕としてはあまり面白いとは感じていなかった。

 やっぱり弾くなら知ってる曲がいい。


「お腹空いた」


 それにしても時間も時間だ。そろそろ晩ご飯にするか……。

 リビングに出てきたところでポケットのスマホが何かの着信を告げる。

 この音はラインかな。


『黒塚くんは今家?』


 スマホを確認すると秋田さんからのメッセージだった。

 なんとなく珍しいと思いながらも、『はい。ちょうど晩ご飯にしようと思ったところです』と返事しておく。

 冷蔵庫からお茶を出して準備していると、またもやスマホが鳴った。


『それならちょうどよかった。今からおすそ分け持って行こうと思うけど、いいかな?』


『はい。もちろん大丈夫です』


 だいたいいつもは、事前連絡なしでインターホンが鳴ってるような……、と思いながらラインで返事をする。

 お茶を飲んで一息ついているとインターホンが鳴った。


「はいはーい」


 玄関を開けると予想通り、いつものタッパーを持った秋田さんがいた。


「こんばんわ。秋田さん」


「こんばんわ。黒塚くん」


 挨拶をしてから玄関で待機しているけれど、なぜか秋田さんに動きがない。

 えーっと、おすそ分けを持ってきてくれた……んだよね?

 秋田さんをじーっと見つめてみるけれど、なにか難しい表情をしている。


「……秋田さん?」


「――え、あ……、ごめんなさい……」


 思わず名前を呼んでみると反応があった。


「えーっと、これどうぞ」


「ありがとうございます」


 お礼と共にタッパーを受け取るけれど、秋田さんはまだその場から動かない。

 他にも用事があるのかな? それにしても、このタッパーかなり温かい。作りたてなのかなぁ。

 などと思いながら、またしばらく待ってみる。


「あ、そういえば……、黒塚くんって……、誰か他にもおすそ分けってしたりすることってある……?」


 また動きがないなぁと思い始めたところで秋田さんが僕に尋ねてきた。


「……いえ、秋田さんと……、野花さんだけですね」


 ちょっと考えてみたけれど、そういえば同級生のいつものメンバーにも、僕の作った料理って食べてもらったことないな……。

 まぁそもそも自炊するようになったのは三年生になってからだしね。


「そうなんだー」


 僕の答えを聞いたとたんに笑顔になる秋田さん。

 よくわからないけれど、難しい表情からの笑顔への変化に僕もつられて微笑む。


「えへへ……、じゃあ味わって食べてね」


「あ、はい」


 と、何かに満足したのか、秋田さんが頬を赤らめながら手を振って帰っていった。

 ……いや本当によくわかりません。ただ単に、おすそ分けを持ってきてくれただけ……だよね?

 ……まあいいか。お腹空いたし、とりあえずご飯にしよう。


 玄関を閉めてリビングに戻ると、買ってあったお弁当を開け、秋田さんにもらったタッパーもふたを開ける。

 湯気と共に、ごま油の香ばしい匂いが漂ってくる。野菜炒めの上に半熟卵が乗っていた。


「美味しそう……。いただきます」


 僕はお箸を取り出すと、半熟卵を崩しながら野菜炒めから食べ始めた。

 今までにおすそ分けしてもらった料理の中で一番おいしい気がした。

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