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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第二章
31/136

031 出会い -Side秋田すず-

「ただいまー」


 わたしは秋田すず。

 一人暮らしの大学一年生。

 誰もいないけど、なんとなくいつも「ただいま」と言ってしまうのは、高校の頃から習慣になっている。

 自室で着替えてから紅茶でも飲もうと、小ぶりの鍋に水を張って火にかけたところでインターホンが鳴った。


「ん~? 誰だろう?」


 茜ちゃんかな?

 わたしは同じ階の反対側の角部屋に住んでいる、同じ学校に通う高校生からの同級生を思い浮かべる。


「はーい!」


 勢いよく玄関を開けて、友達を迎え入れようとしていたんだけど、玄関にいたのは予想とは違う人だった。

 だからといってわたしの頭の中はすぐに切り替わるようにはできていないようで。


「あ、えーっと、……いらっしゃい?」


 なんとも微妙な言葉になってしまった。


「――えっ?」


 相手も戸惑ったのだろう、視線をさまよわせているけれど……。

 よく見てみると、小柄な男の子だった。

 短い髪にくりっとした目をしているその顔は、とても子どもっぽく見えてかわいらしい。

 話を聞いてみると、どうやら隣へ引っ越してきたらしく、男の子は黒塚くろつか誠一郎せいいちろうという名前らしい。

 エレベータもついていないこのマンションへ引っ越してくるとは、物好きだなぁと思う。

 ……中学生かな?

 しかし考えていたことが思わず言葉に出てしまったようだ。男の子は御剣高校の高校三年生らしい。


「へー、そうなんだ。――あ、ちなみにわたしは今年から大学一年だよ。わたしの方がお姉さんだね」


 なんとなくお姉さん風を吹かせたくなってそんなことを言ったけれど、今になって大事なことを思い出した。

 そうだ、お鍋を火にかけたままだった。


「ご、ごめんなさい。またね!」


 わたしは黒塚くんに謝ると、急いで部屋へと戻った。




 その後も、黒塚くんの友達のみんなが遊びに来たところに出くわしたりした。

 改めて思ったけれど、やっぱり黒塚くんは背が小さい。

 友達の中に女の子も混じっていたけれど、黒塚くんが一番低いように見えた。

 だけど、子どもっぽい顔つきもあって、ちょっと年の離れた弟みたいな感じでとてもかわいく見えた。




「うーん……、ちょっと作りすぎちゃったかな」


 わたしはフライパンに山盛りに出来上がった野菜炒めを前にして、どうやってこれを消費しようか考えていた。


「うん。やっぱり茜ちゃんに手伝ってもらおう」


 そう決めるまでにさほど時間はかからなかった。

 さっそくタッパーに野菜炒めを詰め込むと、茜ちゃんにおすそ分けするために家を出る。

 ――と、ちょうど黒塚くんが階段を上って家に帰ってきたところだった。


「あ、こんばんわー」


「こんばんわ」


 ちょっと肩で息をしている黒塚くんもかわいいなぁ、なんて思っていると、黒塚くんの視線がわたしの持つタッパーに向いていることに気が付いた。

 あー、気になるよねーと思いつつも、茜ちゃんにおすそ分けするおかずだと説明した。


「あ、そうなんですね」


 感心した様子の黒塚くんを見ていると、ふと一人暮らしを始めたばっかりなのを思い出した。

 うーん……。ちゃんとご飯食べてるのかな。


「そうだ! よかったらこれ、黒塚くんも食べる?」


 心配になったわたしは、思わず作りすぎてしまった野菜炒めを黒塚くんにも勧めていた。

 返事も聞かずに「ちょっと待っててね」と言うと、踵をかえして自宅に戻り、もうひとつのタッパーに野菜炒めを詰め込んですぐに戻る。

 律儀に待っててくれた黒塚くんに、とびきりの笑顔で野菜炒めを渡すと。


「あ、ありがとうございます」


 戸惑いながらも受け取ってくれた。


「じゃあねー」


 実家にいる自分よりも背の高い弟がふと浮かんだけど、黒塚くんのほうが可愛いよね。……と考えながら茜ちゃんの家に向かった。

 インターホンを押すと茜ちゃんが出てくる。


「あら、どうしたの?」


「はいこれ、おすそ分け」


「また作りすぎたのね」


「多かったから、黒塚くんにもあげちゃった」


「そうなの?」


「うん」


 と、そこで振り向くと、タッパーを手に持った黒塚くんがこっちを見てぼけーっとしているのが見えた。

 どうやらまだ帰ってなかったらしい。


「あらほんと」


 そう言うと茜ちゃんが黒塚くんに手を振ったので、わたしも一緒になって黒塚くんに手を振った。

 そしてひとしきり満足すると、そのまま茜ちゃんの家に押し掛けた。




 翌日、献立も決めずに夕飯のためにスーパーに行ったんだけれど、食材をいろいろ選んでいても献立が浮かんでこなかった。

 なのであまり食材も買えずにいたんだけど、こうしてずっとスーパーにいるわけにもいかない。


「あとは冷蔵庫の中のものでなんとかするかなぁ」


 などと思いながらマンションに帰ると、わたしの家の前でうろうろしている黒塚くんがいた。


「あれ? 黒塚くん?」


 声をかけるとビックリしたようにこちらに目を向ける黒塚くん。


「あ……、秋田さん……」


 呆然としている黒塚くんを見ていると、ふと彼が手に持っているタッパーが目に入った。


「あぁ、なるほど。返しに来てくれたのね」


 私も家に帰るために黒塚くんの方へと近づいていく。


「えっ……、はい、留守みたいだったので帰ろうとしたところでした……」


 そこでわたしが声を掛けたからびっくりしたのかな?

 面白い顔でタッパーを返してくれた。


「野菜炒めおいしかったです」


「んふっ、ありがと。――あら?」


 あれ? このタッパー中身入ってるのかな? なんだろう?


「あ、すみません……、僕もちょっと作りすぎちゃったんで、お返しってわけじゃないんですけど……、よかったら味見してみてください」


「そうなんだ。……ちょっと楽しみ。……あ、そうだ! 黒塚くんは今日の晩ご飯は何を作ったの?」


 ちょうど晩ご飯をどうしようか悩んでいたところだ。黒塚くんに聞いちゃえ。


「え? あ、えーと、味噌汁と、ほうれん草のお浸しと、そのタッパーの中身ですかね……」


「ふむふむ……。この中身は開けてのお楽しみってことね」


「は、はい。……開けるまで秘密です」


 なるほどー。それは楽しみだね!

 それに、お味噌汁かー。わたしもそうしようかな。材料は余ってる野菜を適当に。


「ありがとね。冷めないうちにいただくわ。それじゃまたねー」


 そのまま黒塚くんの横を通り抜けて自宅へと帰ると、さっそくタッパーを開けてみる。

 もう黒塚くんの作った料理が気になってしょうがなかった。


「おおっ」


 お味噌のいい香りがする。豆腐の入った野菜炒めかな?

 うーん、とってもおいしそうだ。

 我慢できなくなったわたしは、スーパーで買って来た食材を放置したまま、食器棚からお箸を取ってきて一口つまんだ。


「美味しい!」


 ほぇー、黒塚くんはすごいなぁ。

 あんなにかわいいのに、料理できるんだー。

 感心しながら食べていると、気が付いたらタッパーの中身がなくなっていた。


「ありゃ……。なくなっちゃった」

微修正。

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