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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第一章
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023 ファッションショー

 僕の前で二人の美人さんがおかゆを食べている。

 垂れ下がる髪を左手で耳へとかけながら、右手のスプーンですくったおかゆを口に運ぶ仕草が妙に色っぽい。


「やっぱりここのおかゆおいしいね」


 うん。確かにおいしい。

 ごま油の風味が効いていて、チキンとほうれん草の他にトマトも入っていそうだ。

 おかゆというか、リゾットと言ってもいいかもしれない。

 ……今度家でも作ってみようかな。


「黒塚くんはこういうおかゆも家で作ったりする?」


「へっ? あ、いやあ、……おかゆは普段作ったりしないですね」


「ふーん、そうなんだ」


「でもちょっとこれ食べてみておいしかったし、今度作ってみようかなって」


 ちょっと残念そうな秋田さんを見て、思わず心の中で考えていたことを告げると、


「ほほぅ。それはぜひ味見をしてあげないといけないね」


 きらりと秋田さんの目が光った気がした。


「ふふっ。じゃあ私はつまみ食いですね」


 野花さんもおかゆ作りの話に乗ってくる。

 って二人とも食べたいだけじゃない。


「……手伝ってくれないんですか?」


 ジト目になって二人を見つめるが、二人は慌てる様子がない。


「あら、手伝って欲しいんだ?」


「私は黒塚くんの作ったおかゆが食べたいですね」


 どころか、不貞腐れる僕をさらにからかうような言葉が帰ってきた。


「ええ……」


 面と向かって「手伝ってください」や「食べてください」と言うのも恥ずかしくなって、憮然とした表情をしながら手元のおかゆを口に運ぶ。


「あはは。ごめんごめん。でも今度一緒に作ろうね?」


 だけれど、そう笑顔で言われたら僕は頷くほかないのだった。




 お昼を食べてからは本格的に衣料品店を回っている。


「これどうかな?」


 試着室から出てきた秋田さんがそう言いつつも、ゆっくりと一回転する。

 くるぶしまであるロングスカートと、腰まである長いストレートの髪がふわりと広がる。


「秋田さん……、とっても素敵です」


「へへ……ありがと」


 僕の語彙力の乏しい誉め言葉でも秋田さんは素直に喜んでくれているように見える。


「黒塚くん、黒塚くん。私はどうですか?」


 今度は隣の試着室のカーテンが開かれる。出てきたのはもちろん野花さんだ。

 ロングティーシャツの上にジーンズ生地の上着を羽織り、ホットパンツにひざ上の黒いソックスで両手を腰に当てて胸を張っている。

 ワンピース姿から一転、ボーイッシュなスタイルになった気がするが、僕には絶対領域が眩しすぎて直視できない。

 普段から丁寧な言葉遣いな野花さんが、こういう服装もするとはまったく想像していなかった。

 直視はできないがそれでも視界からはずすことはできずに野花さんをちらりと窺う。

 野花さんはどんな服を着せても似合うと思う。


「あう……、野花さんもかわいいです」


「ふふっ、黒塚くんもかわいいですよ」


 その返し方は意味が分からない。普段友人に『かわいい』と言われたらいつも怒るんだけれど、この二人に言われるとどうも反論しづらい。

 ……年上というのもあるのかもしれないけれど。


「あー、茜ちゃんずるい」


 僕たちのやり取りを見ていた秋田さんが頬を膨らませている。


「すずちゃんも着てみればいいじゃないですか」


「……うー」


 なにがずるいのかわからないが、野花さんが秋田さんにもホットパンツを勧め、秋田さんは躊躇するように考え込んでいる。


「いいもん、わたしは黒塚くんで遊ぶ(・・)から」


 そう言うと、秋田さんは試着室へと戻ってカーテンを閉めた。中からはもちろん衣擦れの音がして着替えているのがわかる。

 秋田さんのセリフはなにか変だった気がするけれど、それよりも重要なことがある。

 なぜこの店の試着室の前にはテーブルとイスがあって、待機できるようになっているのか。

 僕としては激しく居心地が悪い。「ちょっとそこで待ってて」と秋田さんに言われて頷いてしまった手前、ここを出て自分の服を見に行くという選択肢がなくなっている。

 悶々としながら待機していると、目の前のカーテンが開いて秋田さんが出てきた。


「よし、黒塚くん行こうか」


 いつもの服装に戻った秋田さんが自然に僕の手を取ると、そのまま試着室から出る。

 さっきまで試着していた服は秋田さんが持つカゴに入れられている。どうやら購入候補には入ったようだ。


「あ、ちょっと待ってください!」


 試着室から出る僕たちに慌てて、野花さんが服を試着したまま出てくる。

 着替えなくていいんだろうか……。と思ったときにちょうど女性の店員さんが通りかかった。


「あ、お客様。試着室から出る時は……、って茜ちゃんじゃない」


 ほらね……、って思ったけれど店員さんから出た言葉はこれまた予想外だった。


「あ、店長さん。こんにちわ」


 しかも店長さんだった。野花さんとお知り合いらしい。


「店長さんだ。お久しぶりです」


 秋田さんもお知り合いらしく挨拶をしている。

 握っていた僕の手を離して店長さんに振っている。


「すずちゃんも、久しぶりね。……あら?」


 こちらに気が付いた店長さんが秋田さんにも挨拶を返したが、なぜが僕の姿を見て疑問の声を上げた。

 僕はこの店長さんは知らないはずだけど……。ってそういえば見たことあるような気がしてきたぞ。

 ああ、よく見ればこのお店、前にみんなと来たところじゃないか。確か雑誌に載ってたブランドのお店だ。

 そして目の前の店長さんは、僕が購入した服をお勧めしてくれた人だった。

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