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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第五章
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125 ずっと一緒にいたいんだ

 二人で一緒に夕飯を作り、二人で一緒に食べて、今は二人で洗い物の最中だ。僕が洗った食器をすずがすすいで乾燥ラックへと置いていく。後片付けも二人でやれば早く終わるものだ。


「やっぱり二人でやれば早く終わるねぇ」


 すずも同じことを思っていたらしい。単純なことだけれど、それだけで嬉しくなる。『そうだね』と相槌を打ちながら僕は思考を巡らせる。伝えたいことがあるんだけれど、なかなか言い出すタイミングが掴めないでいたのだ。


 ――放課後のホームルームの時に僕は決めたんだ。


 おやつのホットケーキを食べてまったりしていたら、いつの間にか夕飯の時間になってしまっていた。今日は買い物に行く必要もなく、ストックしてあった食材で二人で夕飯を作った。学校であったことなどを話しながら夕飯を食べ、食後のまったりした時間も過ぎてしまった。


「これで最後かな」


 洗い物もこれで終わりだ。シンクに残った最後の小皿を洗い終えると、隣で待ち構えているすずに手渡す。


「はーい」


 シンクの中も掃除して、スポンジも洗って干しておく。ちょうどすずも終わったみたいだ。ついこの間までだったら、僕は夕飯の支度や片付けは手伝わずに受験勉強をしていた。すずも片づけが終わったら、僕の勉強の邪魔にならないように家に帰っていたんだ。

 だけれど今日からは、片付けが終わってもすずが一緒にいてくれる。


「そういえばすずって、いつもこの時間は何やってるの?」


 昨日は野花さんも一緒になってお祝いをしてもらったのだ。夕飯後の時間を二人で過ごすのは今日からだけれど、今まですずはこの時間何をやってたんだろう。


「うーん、いつもは課題やってるかな? 今日は休講だったから課題も出てないんだけどね」


「そうなんだ」


「うん。……あ、そうだ」


 何かを思いついたのか、苦笑気味だった表情がいたずらっぽいものに変わるすず。


「どうしたの?」


 いつものメンバーに似たような表情をされると嫌な予感しかしないけれど、すずの場合は全くもって別だ。


「課題でたまに調べたいことがあったりするんだけど、その時は誠ちゃんのパソコン借りてもいいかな?」


「え? それくらいならいいよ」


 何を言われるのかと思ったらそんなことらしい。そういえばすずはパソコン持ってなかったな。スマホでも調べられないことはないんだろうけれど、通信容量とか気にせずに使えるし、何よりパソコンの方が画面が大きいのがいいよね。


「やった!」


「そこまで喜んでくれるとは思わなかったけれど……、別にパソコンくらいなら自由に使っていいよ」


「うん。ありがとう」


 特に見られてダメなものはパソコンには入っていない。うん、内蔵ハードディスクには入っていないから大丈夫。




 何をするでもなくまったりとした時間が過ぎていく。切っ掛けがなくてなかなか言い出せない僕は焦るばかりだ。焦る必要がないのはわかっている。僕だってまだ、大学が決まったとは言え、今は高校生なんだ。だけれど、決めたのは僕だ。なんとなくでずるずる延ばしていいものじゃない。それに延ばしてしまえば言い出しづらくなるのは目に見えている。……なんだけれど。


 逆にすずは終始ニコニコしていて機嫌がいい。夕飯を食べているときもそうだったし、今もソファに座ってテレビをダラダラと見ている今もそうだ。ピッタリくっつくように座って腕を絡め、僕の頭に頬を乗せている。……ちょっと悔しいけれど、すずのいい匂いもするし、僕は何も言わない。


「今日はずっと嬉しそうだね」


 だけれどやっぱり気になってすずに尋ねてみた。


「……えへへ、やっぱりそう見える?」


 恥ずかしそうな声と共に僕の手を握ってくるすずの手を握り返して、僕の頭から離れたすずへと顔を向ける。頬を少しだけ染めて僕を見つめるすずと視線がぶつかった。


「だって、誠ちゃんと一緒にいられる時間が増えたんだもん」


「あはは、そっか」


 へにゃりと笑ったすずの顔を見ていられなくなって、誤魔化し笑いと共に視線を逸らす。ちょっと可愛すぎじゃなかろうか。ただでさえ密着しすぎだというのに……!

 逸らした先のテレビでは、芸能人を振り回す大型犬の動物番組が流れていたけれど、頭にはさっぱり入ってこない。


「だけど……、あとちょっとで帰らないとね……」


 しかしそれもずっと続くわけではない。嬉しそうだった声に少しだけ翳りが入ったような気がする。


「あ……、うん。……そうだね」


 時計を見ると、短い針は十に差し掛かっている。明日も学校はあるし、一緒にいられる時間はあとわずかだ。

 コテンとまた僕の頭に頬を乗せてくるすず。長い髪が僕の耳をかすめてくすぐったい。また僕の手をぎゅっと握り締めてくる。

 受験勉強で気づかなかったけれど、いままでずっとすずは寂しい思いをしていたのかもしれない。


「大丈夫だよ」


「うん……」


 できるだけ穏やかな声ですずへと語り掛けるけれど、安心させることができただろうか。いつのまにかテレビは動物番組が終わり、次の番組の間のCMに入っている。


「僕だって……」


「……うん?」


 続きを言うのが恥ずかしくなって言葉に詰まるけれど、ここはしっかいしないといけないところだ。


「僕だって、……すずと離れたくない」


「……うん」


「すずと、ずっと一緒にいたいんだ」


「……うん!」


 意を決して、僕は続きの言葉を口にする。


「だから……、お、おじいちゃんおばあちゃんになっても、僕とずっと一緒にいてくれるかな?」


 ハッと息をのむ音と共に僕の頭からまたもやすずが離れていく。首を動かせるようになった僕はそのまま視線を移動させると、両手を口元に当てて目を見開くすずがいた。


「それって……」


 期待と不安が入り混じったような呟きが漏れる。つまり……、えーっと、そういうことなんだよ。……うん、ちゃんと言葉にしないとダメだよね。ひとつ深呼吸をすると、まっすぐにすずを見据えて、僕は力強く言葉を紡ぐ。


「――結婚しよう」


 僕の言葉がじわじわと染み込んで行くのが反映されるかのように、すずの瞳に雫が溜まっていく。驚いた顔がゆっくりと笑みへと変わり、目が細められると同時に雫が一筋零れ落ちる。


「――はい」


 しっかりと返事をくれたすずは、不安なんて一切感じられない、安心の表情を浮かべるのだった。

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