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121.5 隣人は見た
夕日に照らされたマンションの五階の廊下を、すずと二人で手をつないで歩く。ちょうど階段に差し掛かった時に、踊り場でこちらに背中を向ける人影がいるのが見えた。
「あ、終わった?」
どうやらその人物はこちらに気がついたようで、振り返りながらニヤニヤとした笑顔を僕たちに向けてきている。
「あれ?」
「茜ちゃん?」
「ごちそうさまでした」
ええっ!? 何のこと……!? ってもしかして、見られてたの!?
「も、もしかして見てたの!?」
すずが顔を赤くしながら、階段をゆっくり登ってくる野花さんに尋ねている。だけれど野花さんの表情には、面白そうなものを見たという笑顔が張り付いたままだ。
「ふふっ、黒塚くんもやりますね」
「……ど、どこから見てたんですか」
いやちょっと、これは恥ずかしすぎる……! いったいどこから見られてたんだろう。
「えーっと、二人が家の玄関から出てくるところから?」
「全部じゃないですか!」
うわーーー! なんてこった。まさか全部見られてたなんて!
「じゃあまたねー」
そう言って、野花さんは楽しそうに自分の部屋へと戻っていくのだった。




