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隣のお姉さんは大学生  作者: m-kawa
第一章
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011 噂のはじまり

 目覚ましの音で僕の意識が覚醒する。

 始業式からそろそろ一週間ほどがたった。この時間に起きるのにもそろそろ慣れてきて、目覚ましが鳴る前に目が覚めることもなくなっていた。

 いつものように着替えて顔を洗うと、電気ケトルに水を入れてスイッチを入れる。


 みんなでモールに行ったのは土曜日だ。今日は木曜日だけれど、あれから結局まだ秋田さんには会えていない。

 つまり、僕の作った料理の感想が聞けていないということだ。

 隣に住んでいるとはいえ、なかなか会う機会というものが来ない。登下校や買い物の時くらいしか外出しないけれども、エレベータがついていないせいか、外出は控えたくなる傾向にあるのも要因になっていると思う。


 お湯が沸いたので紅茶を入れて、買い置きしておいたパンを食べると制服に着替えて家を出る。当たり前だけど運よく秋田さんに会うこともなくマンションの外へたどり着く。

 登校するときの道はもう住宅街の中を歩いていけるようになっていた。

 スマホで地図を確認する必要もない。


 二十分弱あるいたところで学校にたどり着いた。昇降口で靴を履き替えて自分のクラスのある三階へと向かう。


「おはよー」


 教室へと入るとなぜか僕の席を囲むように、早霧と冴島ともう一人の男――たちばな康介こうすけがたむろっていた。


「おう、黒塚」


 机に鞄を引っ掛けて自分の席へと座ると、早霧が低い声音で僕の名前を呼ぶ。

 必然的に三人から見下ろされる形になるわけだが、僕何かやったんだろうか……。まったく身に覚えがないのだけれど。


「な……なにかな?」


「どういうことか説明してもらおうか」


 早霧ほどではないが、がっしりとした体格で浅黒い橘も、すごんだ様子で僕に語り掛けてくる。


「返答次第では……」


 冴島が意味深なセリフを最後まで言ってくれない。

 返答次第でどうなるんだろうか……。恐ろしい。


「……いや、だから何の話?」


 まったく話が進まないので早霧に目で訴えかける。


「ああ……、秋田さんから伝言だ……」


「えっ?」


 秋田さん? ……伝言? え、なんで早霧が?

 隣に住んでる僕じゃなくて、早霧は秋田さんに会えたの?

 軽くパニックに陥っている僕に気付かないまま、早霧が言葉を続ける。


「『おいしかったです。今度作り方おしえてね』だそうだ」


「どういうことかね? 黒塚クン?」


「あんな美人がお隣さんだなんて……、なんて羨ましいんだ! しかも……何を教えるというんだ!?」


 橘が僕の机に詰め寄ってきて小声で叫ぶという器用なことをしている。

 というか橘も秋田さんに会ったんだ……。

 しかしまぁ、僕の作った豆腐チャンプルの感想だろう。心当たりと言えばそれしかない。

 でも……、おいしかった、かぁ……。


「えーっと、こないだおかずをちょっと作りすぎてね? おすそ分けしただけだよ」


「ほほぅ。……あの黒塚が大胆な行動に出たものだね?」


 冴島がニヤニヤしながら僕に確認してくる。

 あの(・・)ってどういうことだよ。それこそ身に覚えがないんだけど……、冴島の場合ボケるために適当に言ってることがあるから信用ならない。

 でも確かに、何の前触れもなく僕が『おすそ分け』をするというのは疑問のある行動だと自分でも思う。


「実は……その前に、秋田さんからおすそ分けをタッパーに入れてもらったんだけどね……。空で返すのもなんだったから中身を詰めたんだよね……」


「ははぁ。そういうことか」


「おまっ、料理なんてやるの!?」


 冴島は納得顔だが、橘がまた違うところで驚いている。


「そりゃま、一人暮らしだからね」


「……マジで!?」


 おお、橘は知らなかったのか。……って引っ越したことは知ってたよね? 僕の家の隣の住人が美人って自分でも言ってるし。

 変な伝達ミスもあったもんだ。


「エレベータがついてないマンションだから、階段で五階まで登らないとダメだけどね」


「……うわー」


 よし、なんとか話題を逸らすことには成功したか。

 と思ったところでチャイムが鳴り、先生が入ってきて一限目の授業が始まってしまった。

 話題を逸らした意味はなかったようだ。




 午前の授業が終わってお昼ご飯のために購買部へと向かう。

 当然ながら弁当など作ってる暇などないので僕は今年から購買部でお昼を買っている。

 学食もあるにはあるんだが、なぜか生徒たちの人気はない。……と僕は思っている。


「で、早霧はどこで秋田さんに会ったの?」


 購買部で買ったパンをかじりながら、早霧に気になっていたことを聞いてみる。


「ん? ああ、昨日の帰りに駅で会ったんだよ」


「あぁ……、なるほど」


 考えてみれば当たり前のことだった。徒歩圏内に大学はないのだから、電車を使うしかない。

 電車通学をしてる人間なら、隣に住んでる僕より可能性は低いにしても、会う可能性はそりゃあるという話だった。


「いやー、それにしてもビックリしたぜー。あんな美人にいきなり声をかけられたんだからな」


 橘も購買組である。しゃべりながら一緒に買いに行って、そのまま僕たちと一緒にお昼ご飯を食べている。

 隣の冴島は弁当だ。体格に合ったサイズの弁当を行儀よく食べている。


「あぁそうそう、黒塚くんの隣は美人の秋田さんなんだけど、実は反対側の家の人も女子大生らしいんだよね」


 弁当を食べながらも冴島がまたもや話題を振ってくる。


「――なんだとっ!?」


 見事に食いついてくる橘クン。僕を射殺さんばかりに睨みつけてくる。


「それはなんとも羨まけしからんな」


「……別に狙って引っ越したわけじゃないよ」


 しばらくこの話題でいじられるのかと思うとため息しか出なかった。

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