最悪なスタートダッシュ 弐
ふと、目が覚める。
改めて自分がやった事が現実だったんだ、と実感する。
「うぁぁぁぁぁぁ…最悪だぁ…」
さっき体育館で起こった事を鮮明に思い出す。
早く忘れたい。
だが、あんな大事件忘れられるわけが無い。
あそこで携帯を触らなければ、と今更思う。
保健室で1人、唸り声を上げているとノックも無しにドアが勢いよく開く。
入ってきたのは、女性だった。
ショートカットに少し焼けた肌、身長は俺よりすこし低いぐらいか。
整った顔立ち。綺麗というより可愛いという印象を受けた。
この学校の制服を着ているので十中八九この学校の生徒だろう。
何か保健室に用事でもあったのだろうか。
座っている姿を見られるだけでも恥ずかしいな。
「君。大丈夫だった?さっき最大に吐いてたけど。」
「大丈夫じゃないですよ…最悪ですよ。最悪。」
俺の心配?
まぁ、そんな訳無いよな。
どうせ、からかいにでも来たのだろう。
笑えばいいさ。
もう終わったことだ。これから何しようと過去は変わらないのだから。
「笑えばいいですよ。もう、どうせ失う物なんて無いようなものですから。」
「別に君の事を笑いに来たわけじゃないよ。保健室に用事があったからついでにお見舞いしてあげてるの。」
俺の事を心配してくれていたのか。
心配してくれるのは嬉しいんだけど…
その気遣いが痛いです。
「ご心配ありがとうございます。
それと、失礼ですけど、どちら様ですか?」
「あぁ、自己紹介が遅れたね。私は佐倉舞。
生徒会長をやらしてもらってるよ。」
佐倉。どこかで見た覚えがある苗字だ。
まぁ、特に珍しいという訳でと無いし、気のせいだろう。
「生徒会長だったんですか。らしく無いですね。」
「君、中々失礼だね。
それと、まだ君の名前聞いてないんだけど?」
「あぁ、すみません。穂村稀です。」
「マレくん?珍しい名前ね。」
「よく言われます。」
少し珍しい名前、その上少し女っぽい名前ということを気にかけている。
けど、この名前をつけてくれたのは母さんだ。それほど嫌ではない。
「悪いけど私、式に戻らないといけないから。
君の名前覚えておくよ。それじゃあ。
あ、あと体調良くなったら式に戻ってね。」
彼女はまた勢い良く戸を開き保健室を出て行った。
素直に可愛いかった。一目惚れしかけた。
はぁ、あんな事がなければ普通に出会えていたんだろうな。
そんな事を考えながら窓の外を見る。
桜は咲き誇り、晴れ晴れとした青い空。
入学式日和といってもいいのだが、それほど嬉しくなってしまった。
体調はそれはど悪くないので式に戻ってもいいが…
戻りづら過ぎる。あんな凄惨な現場を作っておいてのこのこ戻れるわけが無い。
だが、戻らないと何も進まないので、重い足を動かし、体育館へ向かう。
体育館へ着いたはいいが、1人では入りづらい。
なのでどこかに先生がいないか体育館の周りを探し回った。
幸運にも入り口の前にさっき助けてくれた先生が立っていた。
「すみません。」
「おぉ、君か。大丈夫か?
体調悪かったら帰ってもいいぞ?」
「いえ、大丈夫です。式に戻ります。」
「そうか、中々メンタルが強いな。」
俺は先生に連れられ席に向かう。
みんなこっちを見ている。とても気まずい。
さっき事件の起きた椅子に座る。
左右からの視線が痛い。多分引いてるよな。
俺が吐き出した物は既に片付けられていて、式は再開されていた。
今は、校長先生が話している最中だ。
本来はありがたい話のはずなのだが…全く頭に入ってこない。
俺からしたらただのお経だ。そう。俺は死んだも同然なのだから。
どんどんネガティヴになっていく。
このまま鬱になってしまいそうな勢いで。
勝手に1人で落ち込んでいるうちに校長先生のお話は終わっていた。
司会からのアナウンスが入る。
「次は生徒会長からのお話です。」
壇上に1人の女性が登っていく。
そこには舞先輩の姿があった。
本当に生徒会長だったんだ。
生徒会長って黒髪ロングのイメージが強いけど。
まぁ、それは俺の偏見か。現実なんて色々だよな。
「新入生の皆さん。この度はご入学おめでとうございます。生徒会長の佐倉舞です。」
挨拶をし、話が始まった。