6 私は愛娘です
玄関でしかと抱き合う父と娘。
微笑ましい親子の光景とは対照的に、妬まし気な目付きの武光は玄関扉の隙間から半分だけ顔を出している。
“家政婦は見た”ポーズは、普通に怖いので止めて欲しいのですが。
お父様は私を抱擁したまま固まってしまったので、至近距離にあるお顔を眺めて待つことにした。
父方の祖母がドイツ人であることから、お父様は彫りが深く芸術品のような顔立ちだ。
神秘的な美しさだけでなく、野性味溢れる雄々しさも兼ね備えている。
神々しいほどの美形お父様は、数えきれないほど魅力を持つが、見る角度によって色を変えるブルーグリーンの瞳が私は一番好きだ。
さて、身内の顔面観察にもいい加減飽きてきたので、拘束を解いてもらうために私は口を開いた。
「お父様、今日はご自宅でお仕事をなさっていたんですね。」
「今は、仕事のことなんてどうでもいいんだ!!
華澄ちゃん、学校で倒れたそうじゃないか!?
・・・は、鼻に詰め物までしてるじゃないかっ!!
一体、学校で何があったんだ!?
あぁ、ああぁ、私の可愛い華澄ちゃんが何て有様だ!!!!」
仕事なんてどうでもいいと言い切ってしまうお父様だが、どうでもいい訳無い。
ファッション界の若き帝王と呼ばれ、世界の流行を発信するトップデザイナーの言葉とは思えない。
娘(お父様いわくマイ・スウィート・エンジェル)第一主義にも程がある。
いくら娘が可愛くても、仕事はちゃんとして欲しいものだ。
学校で何があったかって?
それはそれは、言葉にするのもおぞましい出来事が起こりましたよ、主に自分が原因でね。
鼻の詰め物については、スルーして欲しかった。
「お父様、大したことでは御座いませんので、ご心配には及びません。
病み上がりの身体で張り切りすぎて、体調を崩してしまっただけですの。」
「な、な、何て謙虚なんだ!!
私を心配させないように気遣うなんて!!
君は我が子ながら、本当に良い子に育ったものだ!!
あぁ、愛しのマイ・エンジェル華澄!!」
お父様、頬擦りするのは良いのだが、加減を考えてくれ。
痛い、痛い、痛い、痛いっつーの。
こんの馬鹿力親父め。
「華澄ちゃぁぁあああん!!!!
学園からお電話頂いて、とっっってもママは心配していたのよ。
華澄ちゃんの命に別状が無くって、本当に良かったけど、念のため検査入院することに決まりましたわよ。
支度は済ませてあるから、直ぐに病院へ向かいましょう。」
おいおいおいおい、嘔吐して鼻血出しただけの人間にそこまでするのか?
やり過ぎだろうと、お父様の方に助けを求めて視線を送る。
「そうと決まれば、僕も一緒に病院まで付き添おう!」
いや、だから、あんた仕事はどうした!?
どうやら、この決定は覆りそうにない。
両親の親バカっぷりに頭を抱えた私は、視界の端で車のキーを嬉しそうに握りしめる武光を捉え、深い溜め息を漏らすのだった。