表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4 心拍数上昇です

―――前世の私には、人に言えない嗜好があった。



「あ、目が覚めた?」



サラサラでやや茶色がかった髪、シャープな輪郭には完璧なバランスで配置された顔。優しげな目元を細めて微笑む少年は、女の子が夢見る王子様を具現化した容姿である。

ただ、この笑顔に騙されてはいけない。

鷺沢葵生は要注意人物であると、脳内で警鐘が鳴り響く。




ドラマ『秘密の花園学園』で、鷺沢葵生はヒロインの夏や、悪役令嬢の華澄と恋仲に陥ることはない。

しかしながら、視聴者に強烈なインパクトを残したキャラクターである。

単純明快に表すと、腹黒、この一言に尽きる。



鷺沢は鬼頭院に恩があり、行動を共にしながら彼をサポートする。

鬼頭院に執着する迷惑な女生徒に対しても、鷺沢は自分の手を汚すことなく速やかに処理していくのだが、その方法が中々エグい。

彼女の健康診断書(身長・体重・スリーサイズが明記されたもの)を玄関ホールに張り出し、乙女の秘密を全校生徒に暴露する。

彼女が鬼頭院への想いを綴ったポエム、彼女のあくびやくしゃみの瞬間を捉えた変顔写真など、女生徒にとっての生き恥を学園中の掲示板に張り出すなど、じわじわと精神的攻撃するのだ。



女であっても、鬼頭院に害をなす者には情け容赦ない人物、それが鷺沢葵生だ。

鬼頭院と鷺沢の近すぎる距離感は、友情以上の関係を想像させ、テレビの前の腐女子を大いに喜ばせたそうだ。

因みに鷺沢からの仕打ちを受けた女生徒とは、何を隠そう、私、鈴ノ宮華澄であった。






「鈴ノ宮さん、大丈夫?」



いつの間にか間近まで迫っていた、鷺沢の整った顔立ちに心音が跳ね上がる。

周囲を見渡してみたところ、どうやら私は保健室のベッドに寝かされているようだ。

消毒液の匂いが漂う白で統一された室内には、三名の生徒。



ベッドの上にいる私、心配そうな表情を作ってみせる鷺沢、そして少し離れた席に腰掛ける鬼頭院。

こちらを見ようともしない彼は、黒々とした怒りに満ちたオーラを発している。



ヤバい。

流石に人様の頭にゲロをぶっかけて、謝罪の一つもしないのは非常識だ。

今回の私は、躊躇なく思考を行動に移した。



兎のような俊敏さでベッドから飛び上がると、数メートル先の鬼頭院の足元に向かって滑り込むように着地。

勢いよく床に擦り付けた額に血が滲もうが、そんなことは気にならない。

深く息を吸い込んでから、謝罪の言葉を述べる。




「本っ当に、申し訳ありませんでしたぁあああーーっ!!!!!」




何の反応もない重たい沈黙に耐えかねて、ゆっくりと頭を上げる。

目線の先には、ぱっちりとした大きな瞳を限界まで見開き、顎が外れるんじゃないかと思うほど口を大きく開けた状態で固まっている鬼頭院がいた。

ジャンピング土下座で誠意を見せた私に対して、返答一つしない鬼頭院は何て失礼な奴だと、自分のことを棚に上げて考え始めた時、後方か笑い声が上がる。



「ぷっ、ふ、ふふっ、ぶはっははははははっっ!!

うっ、ふふっ、こ、こんなに笑ったのは久々だよ。

鈴ノ宮さん、君、面白いね。」



な、何ですと!?

鷺沢葵生が年頃の少年のように純真な笑顔を見せている。

うさん臭い笑みを常時顔に貼り付け、感情を露わにすることのない筈の鷺沢が、目尻に涙を浮かべて爆笑している。

不測の事態に対して驚くよりも、鷺沢の眩し過ぎる表情に魅了された。

王子様フェイスの鷺澤の笑顔は驚異的な魅力を放ち、私の心臓を射貫く、いや、突き抜いた。



「ふっ、ふふ、晶も、呆けてないで何とか言ってあげたら?

鈴ノ宮さんが誠心誠意込めて謝罪してるんだから。

まあ、晶が衝撃を受ける気持ちも分からなくはないけどね、ふふっ、ぶっははっははははは!!」



鷺沢の言葉でやっと現実に引き戻された鬼頭院は、眉間に皺を寄せて目の前にしゃがみ込んだ。

先程のスライディング土下座で傷付いた私の額に、優しい手つきで触れてくる鬼頭院。



「馬鹿っ、女が顔に傷つけてんじゃねーよ。

跡が残ったらどうするつもりだよ。」



まだ笑いが収まらない様子の鷺沢に、救急箱を用意させると、鬼頭院は額の手当を始めた。



「あ、あああのっ、自分で消毒出来ますので私のことはお構い無く。

鬼頭院様の手を煩わせるなど、畏れ多いですわ。」



鬼頭院は無視して治療を続けるが、そろそろ私の限界が近い。

絆創膏を貼られたので体を離そうとするも、鬼頭院の方が素早く顔を覗き込んできた。



「お前、よく見たら結構可愛い顔してるんだし、むやみに傷なんてつけるんじゃねーぞ。

分かったか、んん?」



小学一年生とは思えぬタラシ発言とともに、白い歯を見せて笑う鬼頭院。

ああぁあああああああああああああーーーーーーーーーー!!!!

もう、もう、もうもうもうもう、私は限界だ。

キラッキラの美少年スマイルに、私の心臓が貫かれる。(本日2度目でございます。)




「うわーーーっ!!!

今度はコイツ鼻血垂らして笑ってやがる。

おい、葵生、笑ってないで、ティッシュ持って来いよ!?」




何を隠そう、前世の私は3度の飯より美少年が好きな筋金入りのショタコンだった。

大体、鬼頭院と鷺沢が美少年過ぎるのが悪い。

そうだ、私は何も悪くない。

ただ、ショタコン過ぎるだけだ。

そうだ、そうだ、ショタ万歳!!





鼻血にまみれて微笑む美少女(わたし)に鬼頭院は恐怖を覚え、鷺沢は高らかに笑い続けるのであった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ