表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2 凄惨な事件です

ぺた、ぺた、ぺたぺたぺた



鏡に写された美少女は、自身の姿を確認するかのように全身をまさぐっている。



「どこからどう見ても天使なのにね。

どうして、あんな悪役令嬢になったのかしら。」




深い溜め息をつく彼女は、儚げで今にも消えてしまいそうな雰囲気である。

淡いブルーの膝丈ワンピースの上に、純白のブレザーを合わせた制服姿だ。

最終チェックのため鏡の前で一回転していると、ノック音と同時に心配そうな面持ちの美女が現れた。



「華澄ちゃん、本当に平気なの?

体に不調はないのね?

もう少し休んでいても良いのよ。」



オロオロと不安気なお母様に、極上の微笑みを見せる。



「はい、お母様。

私は大丈夫でございますわ。

本日から学園の方に通わせて頂きますが、どうかご心配なく。」



心配性のお母様は私に激甘なので、笑顔一つでイチコロです。

それに、入学早々欠席が続くと悪目立ちしてしまいますからね。

霞のように生きるためには、いかに目立たず空気に溶け込むかが重要なのですわ。




前世の記憶を取り戻してからは、とにかく悪役令嬢を回避するための計画を練った。

そして、三つのことを実行すると決めた。






一つ目は、鬼頭院晶に極力関わらないこと。


彼は相当な美形であったが、未来を知った私が彼に惚れる心配はない。

また、鬼頭院に接触しないためには、鷺沢(さぎさわ) 葵生(あおい)も避ける必要がある。

鬼頭院と鷺澤は、皇蘭学園の二大王子と崇められる人物で、彼らは常に行動を共にしていた。

傍若無人な鬼頭院に比べると、鷺澤は比較的穏やかな人物であったが、うさん臭い笑顔が信用ならない。

鬼頭院と鷺澤に関わらないことは、私が平穏な生活を送るための必須事項だ。






二つ目には、両親の仲を取り持つこと。


悪役令嬢としての最期には、両親の離婚ならびに母の自殺が待ち構えている。

お母様のことを心底愛する私は、自殺を何としてでも食い止めたいのだ。

その為には、夫婦仲を取り持たなければならない。

母性溢れる聖母のようなお母様が、離婚によって心のバランスを崩される様子は簡単に目に浮かぶ。

離婚を断固阻止しお母様の健康を守ることが、私の使命である。

まあ、今のところ新婚のように仲睦まじい両親が、離婚する様子は想像もつかないですがね。






三つ目には、人波に紛れひたすらに目立たないこと。


華澄は悪役令嬢のテンプレート通り、高飛車な孤高の女王様であった。

学園内でその名を知らぬ者はいないほど有名で、彼女の逆鱗に触れれば血の海を見ると噂された。

だから、私は悪役令嬢の真逆を目指すと決めた。

無遅刻無欠席、真面目で大人しく、常に控えめで、存在感すら感じさせない。

そんな根暗地味子ちゃんに徹し、平和な学園生活を送るのだと心に決め、学園という名の戦場へ向かう。







「鈴ノ宮さん、緊張していらっしゃるみたいですね。

簡単な自己紹介を行うだけですから、そんなに固くならなくて良いのですよ。」



担任に引導され、教室の前まで来たものの私の足は震えている。

入学式前にぶっ倒れてしまったため、同じ学級の生徒と顔を合わせるのは初めてだ。

簡単な自己紹介などと先生はおっしゃるが、第一印象はもの凄く重要である。

何の因果か、到底信じたくもないが、鬼頭院と鷺沢と同じ学級であることは確認済みだ。

インパクトを与えず、自己主張を感じさせない、地味で平凡な自己紹介を行う必要がある。

間違っても、鬼頭院や鷺澤の興味を引くようなことがあってはならない。




深呼吸し心を落ち着かせてから、担任に続いて教室へ入る。

室内の視線が集中するのを感じながら、教壇近くで生徒の方に体を向ける。

緊張のし過ぎで意識が朦朧としながらも、何とか自己紹介を終え、担任に示された座席へと進もうとするが、突如視界がぐにゃりと歪む。

自分の席までは、あと3歩。

それ位の距離なら、気合で耐えられると考えたのが間違いであった。



前後不覚に陥り、胃の中のものを盛大に吐き出す。

私はマーライオンの如く滝の勢いで嘔吐し続け、吐き気が収まったところで戦慄した。




人を殺さんばかりの鋭い眼光の少年は、全身ゲロまみれだ。

ゲロにまみれても隠しきれない美貌の持ち主、俗に言う美少年だ。

短めに切り揃えられた髪と意志の強そうな瞳は漆黒に輝き、私の天敵を彷彿とさせていた。




「鬼頭院様・・・」



静まり返った室内で一人の生徒の言葉は、思いの外よく響いた。

冷や汗どころでなく全身の汗腺から汗を放出させ、心臓はこれ以上ないくらいに早鐘を打っている。




あ、詰んだ。

学園生活一日目にして、私の平穏な日々は根本から崩れ去った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ