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1 霞んで生きたいです

皇蘭学園(おうらんがくえん)の門扉をくぐった瞬間、私の脳内に膨大な記憶映像が流れ込んできた。



「きゃあっ、華澄ちゃん!?

こんなにも汗びっしょりで、あぁあああ、ど、どどどうしましょう!!?

あぁぁ、ど、どなたかお医者様はいらっしゃいませんか!!

私の大切な愛娘が、危篤なんですぅ~~~~!!!!」



お母様、急に倒れた私の心配をして下さるの嬉しいのですが、今の状況下で正しい行動はお医者様を探すことでなく、保健室に向かうことではないでしょうか?

冷静さを欠いたお母様の行動は、突拍子もないと承知していましたが、周囲の保護者ならびに生徒の皆さんがかなり引いていらっしゃいますわ。



それに、私が危篤だなんてとんでもない!!

こんな所でくたばってしまうような女ではありません。

何て言ったって、私は踏まれても潰れない超一流の“悪役令嬢”ですもの。

美しいお顔を涙で汚したお母様を見たのを最後に、私の意識は完全に遠のいていった。





◇・・・◇・・・◇・・・◇・・・◇





私、鈴ノ(すずのみや) 華澄(かすみ)は所謂良い所のお嬢様だ。

世界中に名の知れたトップデザイナーのお父様と、皇族の箱入り娘である美しいお母様から、浴びるほどの愛情を受けて育った一人娘、それが私だ。

語弊のないように言っておくが、半分ドイツ人の血を引いたお父様もかなりの美形である。


当然のことながら、私の容貌も大変麗しい。

色素が薄くブロンドに近い茶髪、瞳は優し気なブラウン、透けるような白い肌に、ぷっくりとした桃色の唇、どこから見てもパーフェクトな美少女である。



蝶よ花よと育てられた私は、若干6歳にして女王の貫録を持つ我儘お嬢様に成長した。

これからも自分の思い通りの人生を歩んでやるわ、オーホッホッホッホっと意気込んで皇蘭学園の入学式に望もうとしたところで、急に前世の記憶が蘇ったのだ。




あ、私の立ち位置、悪役令嬢だったわ。

このままだと、十代で命落とすわ。




皇蘭(おうらん)学園は、ドロドロの愛憎劇で人気を博したドラマ『秘密の花園学園』の舞台である。

日本屈指のエリート校である本学園は、初等部・中等部・高等部・大学部を構えている。

『秘密の花園学園』は、皇蘭学園の高等部に通う生徒たちが繰り広げる物語であった。


高等部の生徒は、二種類に分類できる。

エスカレーター式に進学した名家の子息たちと、高等部から入学した一般生徒である。

内部からの進学者は一般生徒を見くびる傾向にあり、両者の仲は険悪なものだった。



そんな中で、ロミオとジュリエットばりの恋愛劇を繰り広げるのが一般生徒の七橋(ななはし) (なつ)と、学園のトップに君臨する鬼頭院(きとういん) (あきら)である。

関西弁が似合う明るく元気な少女・夏は、暴君俺様王子・晶と衝突しながらも、次第に惹かれ合うようになる。

次々と現れる試練を乗り越え、最終的に二人は結ばれるのだった。



そんな二人の仲を阻む者の筆頭が、私、鈴ノ宮華澄である。

初等部時代から、鬼頭院晶に対して一方通行な想いを抱き続けてきた鈴ノ宮華澄は、あらゆる手段を用いて二人の邪魔をする。

非人道的なことを涼しい顔でやってのける悪役令嬢・鈴ノ宮華澄は、視聴者からの強い要望により精神的にも肉体的にも追い詰められていく。

高校卒業時には両親の離婚、母の自殺、完全なる逆恨みで七橋夏を屋上から突き落とそうとしたところ、誤って自らが落下し死亡する、といった悲惨な最期を迎える。




当時の私は、視聴者として彼女の死をザマーミロと思って傍観してましたが、いやいやいやいや、自分のことなんて冗談じゃないですよ!?



悪夢のような前世の記憶を取り戻した私は、三日三晩高熱にうなされながらも心に決めたことがある。






私、鈴ノ宮華澄は悪役令嬢を辞退し、霞の如く背景と化し平々凡々な人生を送ろうと思います!!





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