壁を作る女
「これでよし、っと」
私はたった今作り上げた壁を見つめる。乗り越えられないことはないけれど、実行に移そうとしたら骨が折れる、そんな高さ。我ながら良い仕事をしたと思う。
私の仕事は後に続く者の為に、こうやって壁を作ることだ。壁を与えて、成長させる。
私ももっと若かったころは、先を進む師匠が与えてくれた壁を乗り越えながら懸命に後を追ったものだ。いつの間にか私の前には師匠が作ってくれた壁はなくなってしまった。けれど、今もあの壁を前にした高ぶる気持ちは覚えている。
闘争心とやる気とほんの少しの恐怖。今の私を作ったもの。 さて、私の後に続く者はどうやって、どんな気持ちでこの壁を突破するんだろうか? この壁を乗り越えたら、次はどんな壁を用意してやろうか。
私は遥か後方にいるであろう、名前も顔も知らないそいつを想像し、少し笑った。
(壁を作り続ける彼女は顔も知らない人間に思いを馳せる)