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第一章『迷宮の探索』(5)

「やったぁ〜、ゴール!」



 何日もジャングルを彷徨ったように希紗が嬉しそうに扉を開ける……と、目の前はやはり赤い絨毯の廊下で。あまりの違和感に、自分達が警備の仕事でココに来ていた事をようやく思い出す。


「お待ちしておりました、皆様」

「あれ? 豊臣さん?」


 扉の脇に、部屋に入る前と何ら変化ないポーズのままの執事が立っていた。希紗は首を傾げる。もしかして、戻ってきてしまったのか?


「おい、どういうことだよ。俺達は確かに違う扉から出てきたんだぞ? 開発部の部屋は何処なんだよ?」


「大変申し訳ありません、私、部屋を間違えてしまいました。こちらの部屋は旦那様のご子息様の遊技場、『びっくりサファリパーク』でございまして、開発部とは部屋が左右反対にあるのでございます。時折、私ども従業員も部屋を間違えまして、たまに帰らぬ人となる者も……」


「あァ、ワイらの中からもそんな人が出ましたわ……」

「どうして入り口の扉は中から開かねぇんだよっ?」

「二つある出入り口は、それぞれ一方通行でございます。『びっくり』されたでしょう?」

「その『びっくり』かよ! 生き死にレベルじゃねぇか!」


 遼平の言葉に、執事は深く頭を下げる。どんな物好きなんだ、その子息は。


「私、間違いに気付きまして、この出口で皆様をお待ちしておりました次第であります。どうかお許しを」

「とりあえず、早く開発部の方へ案内しろ。……もう間違えるな」

 冷えてきた汗を拭い、澪斗は先を促す。一分前の熱帯が嘘のように、廊下は冷え冷えとしていて寒い。


 「かしこまりました」と豊臣は廊下を歩き出す。やはりその姿は、背筋を真っ直ぐ伸ばした模範的な歩き。歩調や歩幅まで計算されたように同じ。


 しばらく長い距離を歩いて、再びあの左右両脇に扉のある通路まで来る。今度は右の扉に案内され、遼平も忌々しげに左の扉を睨んでから、執事に続く。

 また閃光に襲われるのかと警戒して入ると、今度は一転暗闇だった。「足下にお気をつけください」と言われて初めて、先が下りの階段であることに気付く。よく見えない黒一色の階段を、目を凝らしながら降りる。


 一歩、また一歩踏み出す度に、体感気温が下がっていく。それは闇へ進んでいく心理的錯覚からなのか、本当にここだけ空調設備が行き届いていないのかは、わからない。時折ある、青い蛍光灯が、気分をより一層暗くさせる。



 こんな奥にいるのは、一体どんな人物なのか。



「……こちらでございます」

 おそらく地下一階あたりだろう。今までの手動ドアではない、分厚い自動ドアが現れる。


「今度こそ本物だろうな?」

「はい、間違いございません。……今度は私も共に参りますので」


 扉の横の九まであるロックキーを、素早く豊臣は入力する。最後に青いボタンを押して、ロックが解かれた音がすると、自動ドアが横に開く。執事は「失礼します」と断って入室した。


 その部屋はやはり暗かったが……右に多くの実験器具と、左に書類が多く積まれた本棚。そして中央奥に、多くのコンピューターディスプレー。複雑な立体図や、文字の羅列が光っている。人気が全く無い。


「お待たせ致しました、部長様」




「ありがとうございます、豊臣さん。……ようこそ、ロスキーパー中野区支部の皆さん。そして――――」



 執事は、礼をして一歩下がる。真達はその若い声に……どこかで聞き覚えがあった。奥の深い回転椅子に座っていた人物が、背を向けたまま立ち上がる。




「――――久しぶりだね、澪斗」



 その言葉には温かい響きが含まれていた。真達の横を、無表情で澪斗が通り過ぎ、先頭に来る。


 部屋の奥には…………鏡があった。最初、真達はそう思った。だが、それが間違いであることに気付かされる。鏡の中で振り向いた淡緑髪の若い男は、微笑んで口を開いたのだ。













「初めまして。僕が依頼人の、特殊生物工学開発部部長――――氷見谷聖斗せいとです」




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